|美術展のつくり方 ver.4|

美術展のつくり方〜松本市美術館「細川宗英展」の場合④

 
 9月25日、26日、諏訪市美術館で常設展示されている細川宗英の11作品が、松本市美術館の担当・大島さんと、諏訪市美術館学芸員の点検・立会いのもと、松本市美術館へと搬出する作業が行われました。梱包から運搬までの作業を行っているのは、中原武さんを班長とする日本通運の精鋭4名のチーム。作業服の胸には「日通美術」のロゴが縫い取られていました。

 「東京や大阪などの大都市ならともかく、地方の場合は美術品専門の部署はないんですよ。引っ越し、移転、コピー機の搬出搬入などある中に美術品という部署も入っているんです。また美術品取扱い作業をするための社内資格を取るために講習会があって、初級、中級、上級と資格を取ることによって美術品の取り扱い作業ができます。ただそういうふうに講習を受けたとしても、実際の美術品は古いものが多く、一つ一つ状態が違いますよね。彫刻ならばヒビが入っていたりする場合もありますので、そういう意味では私たちも現場ごとに常に勉強しているようなものです。そうでないと事故につながってしまいますからね。今回の場合は、大島さんと下見をして、作品の寸法を測りながら、それがどういう素材でできているのか、持っても大丈夫なものか一緒に確認しながら準備をしてきました

 

 

 現場には、それぞれの作品に合わせたサイズの木枠の箱が並んでいました。その一片を取り外し、木枠の中に専用の毛布を敷き、作品を入れたら動かないように固定する作業が繰り返されていきます。
 写真にあるのは《かめ》という作品で、少年が伸ばした腕で亀の尻尾をつまんでいます。まずは彫刻の背中と胸の両側から、次に太もものあたりを左右から、綿入りの緩衝材を巻いた木材で固定していきます。そのあとで伸ばした腕を下から支え、亀を緩衝材で包み込んでいました。最後に手首と亀をサラシ(細長い布)でくるみ、亀の下を支えるように木枠に縛り付けました。「最後のサラシでの固定は、私の安心材料です。荷重がかかってますからね」と中原さん。

 「ふだんは、洋画などの平面、掛軸、屏風みたいなものが多いんです。彫刻の仕事は3年にいっぺんくらいしかありませんし、こんなに大掛かりな作業をしたのは5年ぶりです。そのときは仏像展だったんですけど、仏像は壊れやすいので梱包の仕方がまた少し違うんです。彫刻は立っている状態のまま運ぶのですが、トラックでの輸送中はどうしても揺れますから。まずは本体が動かないようにしっかり押さえこんで、ほかに危なそうなところを保護していきます

 これらの作品は、10月に展示作業が行われます。大島さんの展示プランが基本になるわけですが、現場で配置換えとなることもあるそうです。それらは日通美術の協力を得て行われるだけではなく、そのほかにもオープン直前は、会場のつくり込みや挨拶パネル、作品キャプションなどの制作が設営業者によって急ピッチで進められます。
 中原さんは「仕事で美術品にかかわるようになって、美術のことにも興味を持つようになりましたよ」とにっこり笑いました。
 

 

 
美術展のつくり方〜松本市美術館「細川宗英展」の場合①
美術展のつくり方〜松本市美術館「細川宗英展」の場合②
美術展のつくり方〜松本市美術館「細川宗英展」の場合③
 

細川宗英
1930年松本市生まれ。1938年、小学校2年生の時に父親の仕事の関係で諏訪市に転居する。諏訪清陵高校を卒業後、東京藝術大学美術学部彫刻科に入学、1956年に同大彫刻科専攻科を修了する。修了後は、同大彫刻科の副手や、跡見女子短期大学、すいどーばた美術学院での講師を務めながら展覧会に出品し、多くの受賞を果たす。主には、1956年の第20回新制作協会展における新作家賞、1965年の第8回高村光太郎賞、1972年の第3回中原悌二郎賞優秀賞など。1981年、東京藝術大学美術学部彫刻科の教授に就任し後進の指導も務めた。1994年、肝不全のため逝去。享年63歳。
  
細川宗英展
松本市市制施行110周年記念・松本市美術館開館15周年記念
彫刻家・細川宗英展 人間存在の美
■会期|2017年10月7日(土)〜11月26日(日)
■会場|松本市美術館 企画展示室
■開館時間|9:00〜17:00 ※月曜休館(祝日の場合は次の平日)
■入館料|大人1,000円/大学高校生・70歳以上の松本市民600円
※前売券は各200円引き(10月6日まで)
■問合せ|松本市美術館 Tel.0263-39-7400

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