|美術展のつくり方 ver.2|

美術展のつくり方〜松本市美術館「細川宗英展」の場合②

 

 8月末に、松本市美術館を訪ねました。『彫刻家・細川宗英展 人間存在の美』ご担当の大島さんは、先日、展覧会で発売する図録のゲラに校正を入れていました。大島さんがつくったページ割りに合わせて、写真を配置したものでしたが、各ページにサイズ修正などを赤いペンで指示を入れる作業です。
 そして『彫刻家・細川宗英展 人間存在の美』のチラシが出来上がってきていて、まさにその日に発送する予定になっておりました。チラシは、一般の方々が初めて展覧会の情報を目にする情報ツールと言っていいもの。とても重要です。ではどんなふうに準備されたのでしょう。

 「今回の展示作品は90点ほどあるんですけど、その9割は諏訪市美術館の所蔵品なんですね。松本市美術館から出展するのは10点ほど。所蔵は諏訪市美より少ないですが、当館で開催しますから、松本で所蔵しているものから選ぼうと思いました。その中で美術館の3階にある図書室前で公開されている《王妃像№1》(1984年)はいちばんの代表作と言えるものなので、メインビジュアルに持ってきました。この作品は、展示のコンセプトとも合致するものですから

 松本市美術館の場合、ポスターや看板などのデザイナーは、年度初めにプロポーザルで決定しています。複数のデザイナーやデザイン事務所にポスター案を提案してもらい、会社名、デザイナー名を伏せた状態で7名の選考委員が第一次選考をし、上位2社による最終投票という形で決めていく方法です。年間の企画展やコレクション展などの印刷物や会場設営物を担当してもらいます。 

 「ポスター・チラシに使う図版の持つパワー、制作するデザイナーのセンスは非常に大きいんです。デザイナーと担当者と、何度もそれぞれの感性をぶつけ合い、話し合いながら高めていくという作業を繰り返します。今回の場合は、角度を変えた王妃像の写真を何点かお渡しし、デザイナーさんがこの写真を選んで、文字配置やカラー、明暗の違うデザイン案を最初に3種類提出していただきました。その中から方向性を決めて、ブラッシュアップしていく中でこのデザインに決まりました

 『彫刻家・細川宗英展 人間存在の美』の入場者数は8000人を目標にしているそうです。そのための広報展開がここから始まります。

 「地元ゆかりの作家として名前がすごく通っていれば別ですが、細川の場合はまだまだ知られているわけではありません。しかも彫刻の展示はお客さんが入りにくいところがあるので、8000人という目標は少しハードルが高いかもしれません。展覧会によって興味を引く層は違ってくるわけですが、細川の場合は、作品自体に訴えかけるようなメッセージ性が秘められているので、美術に携わっている方たちなどが興味を持ってくれるのではと想定して、今回は芸術新潮という専門誌にも広告を出すことにしました。もちろん、地元の方々には一人でも多く足を運んでいただきたいので、市民全家庭に配布される『広報まつもと』に1ページ差し込み広告を入れる準備もしています

 これらのチラシは、県内の美術館や公共施設などに配布されます。そして、もちろん全国の美術館にも。少し紙の厚めの、高級感あるチラシですから、ぜひ手にとってみてください。

 
美術展のつくり方〜松本市美術館「細川宗英展」の場合①

 

《王妃像№1》(1984年)

 

細川宗英
1930年松本市生まれ。1938年、小学校2年生の時に父親の仕事の関係で諏訪市に転居する。諏訪清陵高校を卒業後、東京藝術大学美術学部彫刻科に入学、1956年に同大彫刻科専攻科を修了する。修了後は、同大彫刻科の副手や、跡見女子短期大学、すいどーばた美術学院での講師を務めながら展覧会に出品し、多くの受賞を果たす。主には、1956年の第20回新制作協会展における新作家賞、1965年の第8回高村光太郎賞、1972年の第3回中原悌二郎賞優秀賞など。1981年、東京藝術大学美術学部彫刻科の教授に就任し後進の指導も務めた。1994年、肝不全のため逝去。享年63歳。

 

松本市市制施行110周年記念・松本市美術館開館15周年記念
彫刻家・細川宗英展 人間存在の美
■会期|2017年10月7日(土)〜11月26日(日)
■会場|松本市美術館 企画展示室
■開館時間|9:00〜17:00 ※月曜休館(祝日の場合は次の最初の平日)
■入館料|大人1,000円/大学高校生・70歳以上の松本市民600円
※前売券は各200円引き(10月6日まで)
■問合せ|松本市美術館 Tel.0263-39-7400

 

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