小林英樹エッセイ「帰ってきた、えんげき先生(3)」〜新天地と心の準備〜

新天地と心の準備

 
 出会いと別れの春。私が代表を務める「陽のあたる教室」では、昨年の10月上演予定でした舞台『しあわせの三角おにぎり』を今年の7月に延期しました。
 
 キャストはオーディションで選考された地域市民の方々です。新年度から仕事や進学で生活環境が変化する3名の仲間が、7月の公演に出演できなくなりました。とても寂しく残念ではありますが、みなさんの新天地での頑張りを応援したいと思います。
 

 
 「新天地」に対するイメージは、いつもワクワクとドキドキです。教師時代、新天地への異動を伴う3月に必ずやっていたことがあります。
 
 異動が決まると、まず自分が生活する場所を探さなければなりません。住みやすく落ち着くマンションに決めて、引っ越し準備。
 
 引っ越しを終えると。段ボールを片付け、生活できる環境を作ります。そして新天地での初めての夜。少し寝付くのがいつもより遅い感じがします。異動が無い年は、新年度の準備があるので毎日学校へ出勤、職員室で仕事です。でも、異動の身であれば、4月1日まで仕事がありません。
 
 さあ、私が必ずやっていたのは、新天地の学校周辺を自分の足で歩くこと。生徒たちの通学路やその地の歴史を感じるために散策をするわけです。
 
 「こんな所にため池がある」「この商店で文房具を買うのかな?」「このあぜ道を歩くんだろうな」「ここは園児の散歩コース」「ここに桜が咲くんだ」。
 
 その地を歩くと多くの発見があり、たくさん想像して楽しく歩くことができます。「子どもたちは何を見て、どう感じて歩いているのだろう」「この自然や草とどうやって遊んでいるんだろう」「この草を私が食べていたように食べているのかなぁ」(スイバという草をチューチュー吸って下校した子供の頃を思い出して)「このお寺の歴史調べなきゃ」。
 
 その地を自分の足で歩き、自然を感じることが、そこで生活する人たち、子どもたちの「ほんのちょっと」「もう本当にちょっと」を想像したり、感じたりすることに繋がっていたような気がします。
 
 それは、4月から新しく始まる現場への「心準備」をしていたのかもしれません。
 
 ある年にはこんなことがありました。ふらっと立ち寄った商店で買い物をして、お店の方に道を尋ねました。その優しく教えてくださった方と4月の中旬に再会したのです。それは家庭訪問で。私が担任を務めた生徒の親御さんだったのです。ちょっとした偶然、小さな奇跡が積み重なって、私たちは成長していけると感じています。
 
 所変わっても優しさ、笑顔を肌で感じる1日ぶらり旅。「あぁ、この地で何年か生きるのだ」と前向きに改めて決意できる散策でもあったのです。
 
 またこの一人歩きをしてみたいなぁ。
 


 
 
 
こばやし・ひでき
2000年舞台デビュー。劇団ひまわりを経て県内劇団で活躍する。やがて中学校教師となり、並行して俳優業を行うが、2011年に教師を辞職。舞台を中心に活躍し、北島三郎公演、カムカムミニキーナ、下町ダニーローズ、ソラリネ、team6g、Superendrollerなど客演多数。また、教育現場や自治体、企業での演劇教育(ドラマ教育)や講演活動にも力を入れている。2021年1月に飯田市にて「Enziru LifeTheater 陽のあたる教室」を立ち上げる。
 
Enziru LifeTheater 陽のあたる教室主宰 こちら
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Nagano Art +インタビュー こちら
 
 

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