[ようこそ、信州へ #009]古川展生さん(チェロ奏者)

まつもと市民芸術館のトップガーデンにあるカザルスの銅像と

チェロ奏者
古川展生さん

 

サイトウ・キネン・オーケストラでは精神面を鍛えられた

そうやって夏を過ごしてきた大好きな松本で

「KOBUDO -古武道-」のコンサートができることがうれしい

 
今年もセイジ・オザワ 松本フェスティバルの核をなすサイトウ・キネン・オーケストラのメンバーとしてオーケストラ3プログラムを駆け抜けたチェリストの古川展生さん。2001年から17年間連続で夏を松本で過ごしている。桐朋学園大学時代を含めれば、その年数はもっと増えるとのことで、もう松本のことは知り尽くしていらっしゃるかも。そんな古川さんが、「本当にうれしい」と語るのが、純邦楽・藤原道山(尺八)、ポップス・妹尾武(ピアノ)とのスペシャルユニット、結成10周年を迎えた「KOBUDO -古武道-」でのまつもと市民芸術館公演だ。公演情報は、こちら
 

それぞれベースの活動があったからこそ

3人で集まったときに新鮮味や面白さを感じることができる

 
 

 
◉「KOBUDO -古武道-」結成10周年おめでとうございます。松本では6年ぶり、2度目のコンサートになりますね。

古川 ありがとうございます。3人とも10年続くとは思ってはいませんでしたから(笑)。普段の活動は僕はクラシックが中心で、妹尾はポップス、そして道山は邦楽ですけど、決して奇をてらって結成したわけではなく、もともと道山は東京藝術大学で、妹尾と僕は桐朋学園大学でクラシックのアカデミックな勉強をしてきているんです。確かに結成した当時はどうなるんだろうという思いもなかったわけではありませんが、逆に言えばそれぞれ違うベーシックな活動があるからこそ、3人で集まったときに新鮮さや面白さを感じることができたんだと思うんです。
 
◉あらためて結成の経緯を教えていただけますか。

古川 きっかけは妹尾のライブに道山と僕がそれぞれゲストで呼ばれたことでした。本編では直接の絡みはありませんでしたが、せっかくだから3人でアンコールで何かやろうよということになった、それが結成の2年くらい前かな。そのときに「面白い」ということになり、「KOBUDO -古武道-」という名前がつく前に、それぞれの名前をかぶせたコンサートを何回か行っていたんです。そうしたらお客様が応援してくださるようになって、グループでも組めばいいのにという声もいただいて、じゃあやっちゃおうかみたいなスタートでしたね。
 
◉今でこそクラシックの方や邦楽の方がジャンルにとらわれない、ユニークな活動を展開しているケースもたくさんありますが、当時としては珍しかったんじゃないかですか?

古川 少しずつそういう活動が始まっていた時期だったかもしれませんね。ただジャンルが違うメンバーが正式に組んで挑戦するというケースはさほどなかったように思います。だからどういう反応をいただけるか不安でもありました。そもそもジャンルが違うと音楽へのアプローチの仕方も違うんです。もしかしたら衝突する部分もあるかもしれないし、普段はクラシックしか聴かない、邦楽しか聞かないというお客様たちがどう思われるだろうか。「KOBUDO -古武道-」という名前はそれぞれの名前から一文字とっているんですけど、いかにもという和のテイストを盛り込まなきゃというへんなプレッシャーもありました。でも結局は道山がつくる曲は自然とそういうテイストになっていますし、僕は全く気にせずつくっています。僕は道山と一緒にやれてよかったなと思っているんですけど、やっぱり彼のように尺八を自在に吹ける人はなかなかいないですよ。しかも確固たる技術の裏付けがあってなんでもできる。だから彼にメロディを吹いてほしいなと思いながら曲をつくるんです。そういう意味では僕が和のテイストを意識しなくても、具体化しているのは道山だし、妹尾といういろんなテイストをつくれる素晴らしい作曲家がいますから。
 
◉確かに「KOBUDO -古武道-」というユニットをどう表現するかは難しいですよね。

古川 当初は“クラシカルユニット”というキャッチフレーズもあったんですよ、それがいちばん合っていると思いますね。それがベースにあってオリジナルをやれているんです。コンサートでも必ずクラシックを数曲演奏しています。あたかもこの編成のために書かれたかのようなアレンジを目指しているんです。そういう意味では、クラシックといえどもやれる曲は限りがあるんですけど、いろいろ試行錯誤しています。
 

オリジナル曲があってこその「KOBUDO -古武道-」

個性の違う二つの楽器が奏でるメロディをピアノが包み込んでくれる

 
◉3人の音楽上のバランスはどんなふうになっているんですか?

古川 僕らの特色はオリジナルだと思うんです。妹尾が作曲することが多いんですけど、アルバムを出すときは道山も僕も最低1曲はオリジナルをつくろうという暗黙のルールもあって。少なくとも10年前にはなかった楽曲が世の中に存在することができているということがうれしいですよね。妹尾は作曲家ですからそれが当たり前ですけど、僕は普段はプレイヤーですから、そういう意味では新しい喜び、今まで味わったことがない経験でした。そのほかにもクラシックのアレンジは僕がやったりとか、それぞれの分野のものは個々が担当するとか、みんなで分担しながら結果的に共同作業になっています。
 音楽的な立ち位置の特色としては、道山という尺八の名人と僕がメロディを吹いたり弾いたりすることが多いんです。カラーも違う、楽器自体の存在感も違うわけですが、その二本の線を妹尾のピアノが包み込んでくれるという感じでしょうか。

◉今回のアルバム『十年祭』とツアーについて教えてください。

古川 基本的にはベストアルバムです。今までつくった曲の中からあれを入れよう、これを入れようとみんなで話し合って、またこのために新たにレコーディングした曲もあります。いわゆるベスト版でありながら、今の僕たちをぜひ聴いてくださいというのがコンセプト。2枚組にさせていただいたことで、1枚はオリジナルを、もう1枚はカバーを集めましたが、やっぱりオリジナルを聴いてこそ「KOBUDO -古武道-」だなと僕自身の感覚としてはあります。手前味噌ですがもちろんカバーもいい。でもオリジナルは相当話し合って多くの曲から厳選して16曲なので思い入れがあります。
 秋のツアーはタイトルを『十年祭』とつけさせていただいていますので、前半はオリジナルを、後半はカバーもあったりツアーのために新しくつくった曲をいくつか入れた構成になっています。ツアーは今年の前半から始まって、この秋から本格スタートするんですけど、終演後にサイン会をさせていただく時にお話するとみなさん本当に喜んでくださるんです。特に東京や大阪などやりなれた場所では、前から応援してくださるファンの方も大勢いらっしゃいますね。松本は2回目ですけど、逆に初めてうかがう場所も実は何カ所もあって、未知の部分もあるのですが思い切り勝負していきたいと思います。
 

【DISC1 Original (作曲者)】

01. SASUKE (妹尾 武)

02. 瀧~waterfall~ (藤原道山)

03. WATER ISLAND (千住 明)

04. 風の都 (妹尾 武)

05. 空に咲く花 (古川展生)

06. 百花繚乱‐「元禄花見踊」より (三代目杵屋正次郎/藤原道山)

07. 翼 (妹尾 武)

08. 材木座海岸 with Strings (妹尾 武)

09. 地平を航る風に (古川展生)

10. HOTARU (妹尾 武)

11. 空へ – a song for Apollo – (妹尾 武)

12. そして僕らの旅は続く(妹尾 武)

13. 旅立ちの朝~絆 -そして東雲の空を共に翔よう- (妹尾 武)

14. 一心 feat.上妻宏光 (藤原道山)

15. 輝く明日へ (妹尾 武)

16. 海に続く道 (妹尾 武)

 

【DISC2 Standard/Cover (作曲者)】

01. 朧月夜 (岡野貞一)

02. Adagio Sostenuto~ピアノ協奏曲第2番第2楽章 (S.ラフマニノフ)

03. Libertango (ピアソラ)

04. My Favorite Things (ロジャース)

05. 琥珀の道 (一ノ瀬響)

06. おくりびと –映画「おくりびと」より (久石 譲)

07. アランフェス協奏曲 第2楽章より (ロドリーゴ)

08. ハンガリー狂詩曲 第2番 (リスト)

09. レスギンカ with SINSKE (ハチャトゥリアン)

10. 赤とんぼ (山田耕筰)

11. 月の光 (ドビュッシー)

12. 見上げてごらん夜の星を (いずみたく)

13. 浜辺の歌 (成田為三)

14. ラプソディー・イン・ブルー (ガーシュウィン)

 

 

 

◉ちなみにコンサートでのトーク担当はどなたが?

古川 一応3人で話しながら進めていくんですけど、10年前から比べたらだいぶキャッチボールができるようになりました(苦笑)。妹尾が全体を進めつつ、道山がそこに絡んでいって、僕が二人のダメなトークを突っ込むみたいな感じです。
 
◉古川さんからご覧になってお二人はどんなキャラクターですか?

古川 道山とはもともとレコーディング会社が同じだったので知ってはいて、15年くらい前にそこのイベントで会ったことはあるんですけど、そのときからすごい尺八を吹くなと思っていました。年齢を重ねた今でも貴公子的な存在です。性格はいい意味で強い自我はあるんですけど、おっとりしていて、柔らかくて、すごくよくできたやつです。妹尾さんは桐朋学園大学の4年先輩なんですよ。高校から大学に上がれる学校でしたので、男子学生が少ないこともあって、高校のころから知っているんですけど、まあやんちゃな人でしたよ、若いころは。クラシックをやりたいという思いもあった中で、作曲家としての欲求があるからポップスのほうに行ったんですけど、ご本人も改めてクラシックを勉強したいという意識を持っていらっしゃいますね。でももともとの才能はすごいある人なんです。性格的にはキザでニヒルなところもあるけれど、先輩について言うのもあれですが、そこに行ききれないところがかわいいんです。
 
◉今年もOMFが終わりました。サイトウ・キネン・オーケストラに古川さんがかかわってどのくらいになるのでしょう?

古川 今年で僕は17回目の参加でした。2001年から毎年呼んでいただいているんですけど、そんなに経ったかという感じがします。サッカーにたとえれば日本代表に呼ばれるかみたいなものですからね。諸先輩、外国の演奏家がたくさんいる中でお声がけいただけることはとてもありがたいと思います。最初のころは本当に先輩ばかりでしたのでものすごく緊張しました。もちろん今でも緊張していますけど、精神的な部分を鍛えてもらいました。数年前からは主席に抜擢していただいたりもしているんですけど、後ろを振り返ってみれば日本を代表する大チェリストの方ばかり。「僕でいいんでしょうか?」とプレッシャーを感じることもありました。また皆さん「ああしろ、こうしろ」とはおっしゃらないんです、このオーケストラは。だから自分が受けるプレッシャーを自分でどう乗り越えるかを学ばせていただきましたね。
 

 

古川展生 Nobuo Furukawa

京都生まれ。桐朋学園大学卒業。
チェロを故・井上頼豊、秋津智承、林峰男の各氏に師事。
1996年安田クオリティオブライフ文化財団の奨学金を得て、
ハンガリー国立リスト音楽院に留学、チャバ・オンツァイ教授に師事。
1997年第27回マルクノイキルヘン国際コンクール(ドイツ)チェロ部門にてディプロマ賞受賞。
1998年帰国後、東京都交響楽団首席チェロ奏者に就任、現在に至る。
ソリストとしても、国内多数のオーケストラ、著名指揮者と共演を重ねるほか、
各地においてソロリサイタル、国内外の演奏家との共演など室内楽の活動も精力的に展開。
セイジ・オザワ 松本フェスティバル、宮崎国際音楽祭にも毎年出演。
また、ポップス、ジャズ、タンゴなど他ジャンルのアーティストとのコラボレーションや
ライブハウスでのコンサートも積極的に行うなど、クラシックのみならず幅広いフィールドで活動。
古川展生公式サイトは、こちら
 

「KOBUDO-古武道-」

純邦楽【尺八:藤原道山】、クラシック【チェロ:古川展生】、ポップス【ピアノ:妹尾 武】、
異なるジャンルで活躍しているこの3人のトップアーティストが意気投合し、2007年に結成。
日本の伝統と感性を大切にしながら、さまざまなな音楽のルーツを取り入れ、
新しいインストゥルメンタルの世界を創造している。
演奏家としての抜群の技術はもちろん、コンポーザーとしての評価も高く、
TBS系「NEWS 23」をはじめテレビ番組のテーマ曲、ドラマやCM音楽、舞台音楽なども手掛ける。
2015年10月には、6枚目のアルバム「cuisine de classic」をリリース。
古武道ならではの選曲にアレンジをほどこしたクラシックの名作を中心に収録。
コンサート活動も全国各地で数多く行っており、
テレビ番組とのコラボによる「和風総本家コンサート」も東京、大阪で開催した。
現在、テレビ大阪系「和風総本家」(毎週木曜日21:00~)の挿入曲「一心」や、
日本テレビ系「心の都へスペシャル 栗山千明の“極める”京都」のテーマ曲「そして僕らの旅は続く」、
BS12 Twellv「早川光の最高に旨い寿司」の音楽を担当中。
2017年、結成10周年を迎え、初のベストアルバム発売が決定。
秋より全国ツアーをスタート、11月には国際フォーラム ホールCでのツアーファイナル公演も決定。
「KOBUDO-古武道-」公式サイトは、こちら

 
 

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