紅テントが、やってくる!

2006年『透明人間』

紅テントが、やってくる!

 長野に劇団唐組の紅テントが『透明人間』を引っ提げてやってくる…。そう聞いたとき、小躍りせずにはいられなかった。

 劇作家・演出家、唐十郎。その作品を観たことはなくても、名前はご存知の方も多いだろうし、最近ではドラマ『ハンチョー』での鑑識官姿を観たことのある方もいらっしゃるだろう。唐十郎は60年代に始まった、伝説的な、いわゆる「アングラ演劇ブーム」の立役者の一人でもある。(念のため付記しておきたいのだが、当事者たちで自らをアングラと名乗ったものはいない。)近年は療養中のため表舞台には立っていない。

 演劇に限らず、芸術・アートは兎角「わかる・わからない」で捉えられがちだ。けれど、唐十郎の劇的世界とテント芝居ならではの独特の体験は、それが「わかる・わからない」を超越したものであることを、観客の五感を揺さぶりながら、熱く激しく語りかけてくる。
 起承転結がはっきりした、ウェルメイドな作品を好むひとは多いし、かくいう私もその一人である。ただ、唐十郎の作品に起承転結を期待してはいけない。唐十郎が永遠に求め続ける「母の胎内」とも言うべき紅テントの中で繰り広げられる「事件」は、そんな期待以上のものなのだから。唐十郎が心血を注いで紡ぎだした言葉が、唐組の役者陣の肉体を通して語られるとき、観客はその言葉に揺さぶられずにはいられないだろう。

 90年代に書かれた『透明人間』には、それまでの唐十郎作品に幾度となく登場する、シンボリックなモチーフが用いられている。水槽、水中花、犬、戦争…。どうか、ストーリーにとらわれることなく、唐十郎のことばに、唐組役者陣の熱気と狂気に、そして紅テントの空間全体に身をゆだねて、皆さん自身の内側で起きる化学反応を楽しんでいただきたい。

 最後に、少しだけおせっかいな助言をすることをお許し願いたい。テント芝居はテントに入る前から始まっている。期待に心躍らせながら、早めにテントに向かい、できるだけ若い整理番号を入手して、開場時間を待ってほしい。そしてテントに入ったら、できる限り中央寄りに陣取ってほしい。これで、ラストの「屋台崩し」をお楽しみいただけるはずである。足のシビレも腰の痛さも、全てはテント芝居の醍醐味。

 さあ、摩訶不思議なテント芝居の世界へ、ようこそ…

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