〜長野県芸術監督団事業〜 シンビズム 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち
長野県は、「文化振興元年」の取り組みをさらに推進するため、長野県文化振興事業団に複数の芸術分野からなる「芸術監督団」を置き、本県の文化事業全体の底上げを図るために平成27年度に芸術監督団による取り組みをスタートさせた。芸術監督団は、長野県民の文化へのかかわりを一層深め、県内の文化創造活動を活発化し、国内のみならず世界にとって魅力ある文化プログラムを企画・提言し戦略的事業を実施するやという役割を期待されている。
先ごろ、美術分野の芸術監督である本江邦夫氏と、信州ミュージアム・ネットワークに所属する美術館・博物館による新たな事業「シンビズム 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち」開催の記者発表を行った。これまで、本江監督のもと、学芸員たちが所属を超えて交流し、自由に議論する場が木曽町や東御市など開催地を変えながら何度も行われてきた。その積み重ねの末に、長野県内ゆかりの作家を選定し、県内4カ所で同時開催で展覧会を行うという企画に結実した。それが「シンビズム」で、初の開催となる。
展覧会タイトルはそれぞれの学芸員がアイデアを出し合い、ワーキンググループで協議を重ねる中で、県内外にアピール性があって、長野県の美術界の新しい視界を切り開くという意味合いを込めて決定された。 「シンビズム」には「信州の美術の主義」という意味を表す造語だが、「シン」には信州の「信」、真実の「真」、新しいの「新」、深いの「深」、親しみの「親」などいくつかの意味を重ねているという。
「去年の4月に阿部知事から芸術監督団の美術担当をということで何かやりなさいとお話がありました。そのときに監督というくらいですから何かチームがあるんでしょうかとうかがいましたら別にそういうものはないということでしたので、これは自分でチームを作るしかないかなと思ったわけです。長野県下には美術館という名前をつけている施設だけで107館あるんです。美術館関係だとおそらく400館くらいあるんじゃないかと言われています。にもかかわらず各美術館がポツンポツンとお互いに孤立をして存在しているのではと私は判断しまして、横のつながりをつくって、お互い切磋琢磨しあい、励ましあい、団結して長野県全体の美術を盛り上げていただければと思っています。長野県の美術は厚みがあって、奥行きが深い。それぞれに現場をもっている学芸員の方々が、そうした豊かな状況からどんな現代作家を選んでくるかというのを楽しみにしていました。私は会議には出席しておりましたが、作家を選ぶ作業はすべて学芸員のみなさんにお任せして、一切口出しのようなことはやっておりません。ですから「シンビズム」に参加する作家は、学芸員みんなで相談して、納得して、この20人に決定したものです。そうすることで、頭の中に円を描いてみてください。円の真ん中には長野県の美術があります。円周はここにいる学芸員です。円の外には長野県民がいます。長野県民に対して、長野県の美術というのものをいかに愛情と熱意をもって伝えられるかという仕事から長野県の学芸員は始めなければいけないんじゃないかなというのが私の考え方です。そうした私の考え方に、基づきまして今回の企画があるわけです。
一般に美術館というと一律に考えるんですけど、背景となる地域の風土、伝統があります。ですから必ずしも学芸員が1名のところを2名にしてほしいと思っているわけでもありません。それよりも長野県の美術にとって大事なのは、これだけ豊かな伝統と、内容を持っている美術界があるわけですから、それをどうやったら全国に発信できるか。自分たちの暮らす県内にその魅力を認識してもらわなければなりません。学芸員がもう一人ほしいとかいうのは個々のペースで違ってきます。それよりは横のつながりを緊密にしていただいて、分け隔てなく交流をしていただきたい。あえて言うならば私は学芸員同士のユニオンがあってもいいと思うんですね。そういうふうにお互いを守り合いながら、勉強しあう、それが長野県内に還元するということをすべきだと思います」(本江監督談)
小林冴子
大学卒業後に地元の佐久に戻ってきて、まさかこんな展示に参加させていただけるとは思っていなかったので、うれしく光栄に思っています。長野県に素敵な作品をつくる方々がこれほどたくさんいらっしゃるということを知って、自分もそういう仲間入りができたのかなと思えることもありがたく感じています。「シンビズム」にどんな作品を出すかはまだ考えている最中ですが、自分の色を出せるようにしてよい展示にしたいと思います。この展示を機に、自分の作品と自分自身が成長していかれればと思っています。
深沢尚宏
長野市の出身で、大学は大阪に行き、そのあと東京でデザイン関係の仕事につきました。作家活動は仕事の途中から始めました。今は川崎に住んでいます。長野を離れてからも自分がずっと長野県民だという意識があって、長野市の良さを離れてから感じるようになりました。そしてこのような機会をいただけて非常にうれしく思います。最初はデザイン関係をやっていましたが、途中からファインアート、絵画を作り始めまして、基本的には日本美術、江戸時代、室町時代の花鳥画、水墨画をベースにした作品をつくっています。自分の出生、日本人というところを意識して作品をつくっていますが、生まれ育った長野も外せない要素になっています。直接的には長野を表現していない作品であっても、子供のころ見たもの、風景の影響は確実に受けています。今回の展示でもそういったところを垣間見ていただければと思います。コンテンポラリーアートというのはまだ日本の中ではなじみがなく、特に地方となるとその傾向が強いと思います。こういった現代作家の皆さんと一緒に展示させていただくことでたくさんの方に見ていただきたいと思います。
高橋広平
雷鳥写真家の名の通り、雷鳥を中心に写真を撮らせていただいています。10年くらい前に雷鳥に初めて出会いまして、雷鳥を撮りたくて写真家になりました。県内、東京などで企画展、個展をやらせていただいて雷鳥のことを皆さんに伝える機会となっています。この「シンビズム」にも選んでいただいたことで、雷鳥のことをもっと知っていただきたく頑張らせていただきます。
角居康宏
作品をつくりはじめて25年、作家としては20年になります。金沢の出身です。金属を溶かすときの炎の勢いに魅せられて活動を始めました。炎の強さからいろんなものが始まるのですが、その「始まり」ということを考えて制作しています。今は人間が意識を獲得するということを考えて、美術というものが、美術とカテゴライズする前から人びとは文化、地域にかかわらずものをつくっていた。人びとのつくりたい気持ち、欲求が制作のベースになっています。木曽町御料館を先日下見に行きました、古い建物で、とても落ち着いた空間で今までにない展示ができるかなとワクワクしています。作家さんの顔ぶれを見るとほかの会場よりエッジの効いた展示になるのではないかとワクワクしています。
ナカムラマサ首
僕は長野出身ではなく、住んだこともないんです。もともとステンドグラスのメーカーに勤めておりまして、施設のもの、ご家庭のものをつくっていたのですが、ステンドグラスというのはトラディショナルありきの世界。デザインとか規模とか決まった中で制作するのが良しとされているんです。僕はそれを無視したほうがヤバイものをつくれるのになあという思いがあって、ベテランの職人さんが顔をしかめようとも構わず個人的に作品づくりを始めました。それが1年半くらい前です。そのときに偶然「展示に出してみない?」と声をかけてくださったのが長野の方でした。そこから、個展も企画展も長野、長野、長野と続きまして、ここ1年間は1カ月くらい長野に滞在しています。個人的にルールにしているのは、そこの場所と時間を枠組みに、そこにかかわる学芸員さんたちと合作をつくろうということ、今回は信州新町美術館で、展示までに半年、展示期間の3週間あるわけで、皆さんが好き勝手言ってくれることと僕がやりたいことがどうなっていくのか、楽しめるような表現ができたらと思います。
〜長野県芸術監督団事業〜 シンビズム 信州ミュージアム・ネットワークが選んだ 20人の作家たち
◉開催時期:2018年2月24日(土)〜3月18日(日)
◉会場
丸山晩霞記念館
展示作家:新海 誠(アニメーション)/小林冴子(油画)/森泉智哉(テンペラ)/サム・プリチャード(写真)/深沢尚宏(絵画/イラスト)
諏訪市美術館
展示作家:常田泰由(版画)/中村恭子(日本画)/阿部祐己(写真)/藤沢まゆ(染色)/高橋広平(写真)
木曽町御料館
展示作家:矢島史織(日本画)/小野寺英克(彫刻)/瀬尾 誠(漆芸)/千田泰広(インスタレーション)/角居康宏(金属造形)
信州新町美術館
展示作家:下田ひかり(イラスト)/ナカムラマサ首(ステンドグラス、絵画)/青山由貴枝(銅版画)/池田 潤(版画)/魲 万里絵(絵画)
◉全体監修:本江邦夫
◉アドバイザー:石川利江
◉企画:信州ミュージアム・ネットワーク『シンビズム』展ワーキンググループ(県内20の美術館・博物館)
新海 誠担当:小海町高原美術館(中嶋 実)
小林冴子担当:佐久市立近代美術館(工藤美幸)
森泉智哉担当:軽井沢ニューアートミュージアム(鈴木一史)
軽井沢タリアセン(藤巻 傑)
サム・プリチャード担当:丸山晩霞記念館(佐藤聡史)
深沢尚宏担当:上田市立美術館(小笠原 正)
常田泰由担当:諏訪市美術館(矢ケ崎結花・丸山綾)
矢島史織担当:茅野市美術館(前田忠史)
中村恭子担当:辰野美術館(赤羽義洋)
藤沢まゆ担当:信州高遠美術館(武井文一)
阿部祐己担当:八ヶ岳美術館(長田絵美)
小野寺英克担当:木曽町教育委員会(伊藤幸穂)
瀬尾 誠担当:木曽路美術館(立野直緖)
千田泰広担当:碌山美術館(武井 敏)
角居康宏担当:松本市教育委員会(大竹永明)
高橋広平担当:安曇野市教育委員会(三澤新弥)
下田ひかり担当:山之内町立志賀高原ロマン美術館(鈴木幸野)
ナカムラマサ首担当:おぶせミュージアム・中島千波館(宮下真美)
青山由貴枝担当:須坂市旧小田切家住宅(梨本有見)
池田 潤担当:長野市信州新町美術館 (前澤朋美)
魲万里絵担当:長野県文化振興事業団(伊藤羊子)
◉入場料:無料
◉事務局:(一財)長野県文化振興事業団 Tel.026-291-4800