[ようこそ、信州へ #006]室賀 厚さん (映画監督)

映画監督 室賀厚さん

 

インタビュー:小林千乃


 

亡くなっていく命を見ながら、

命に向き合い、生きることを決める映画を撮ろうと決めました。

 

上田市にゆかりのある映画監督・室賀厚監督の最新作「お元気ですか?」が、長野市の長野相生座・ロキシーで公開中だ。主人公の冴子が旅先から電話をかけていく10人の男女とのやりとりから、人生や命への向き合い方が浮かび上がる作品。「SCORE」(1995年)で劇場映画デビューし、「GUN CRAZY」シリーズなどアクション映画に定評のある室賀監督が、初めて挑んだヒューマン・ドラマ。製作の背景に、どんなきっかけがあったのか。

 
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実は、最初は父をメインキャラクターにしようと思っていた。

 
―亡くなったお父さまの病室でシナリオを書いたそうですね。

 

 父の入院中、時間があったので、「何のためにここにいるのだろう」とか、「命がなくなるのを見守る立ち場なんだな」とか、いろいろ考えたんです。毎朝、看護師さんが病室に来て、意識のない父に向かって「お元気ですか?」と言ってくれていたことがテーマに思えて、シナリオを書き始めました。

 僕は普段、人を殺しまくるようなアクション映画ばかりを作っているんです。父が亡くなる最期の2週間は病室に詰めて、亡くなっていく命を見ながら、一度くらい命に向き合い、生きることを決める映画を撮ろうと決めました。映像化するつもりはなかったけれど、書き上げたその日に父が亡くなり、「ちゃんと映像にするように」と言われた気がしました。

 生きることを決めるというのは、言ってみれば、自殺しようとする人間が自殺をやめること。そうしないと、生きることを選んだとはならないだろうと思って。でも、僕は自殺しようとする人間はどちらかというと嫌いで、自分自身を納得させるだけの主人公が自殺する理由を1週間くらい考えていたんですよ。それが決まったら、ぐわーっと1週間くらいで書けましたね。主人公の冴子が死を選ぼうとしたきっかけや動機はなかなか決まらなかったんですが、10人に電話するというのはポイントで浮かんできました。

 実は、最初は父をメインキャラクターにして、老刑事が電話をしていく話にしたんですが…。あまりにも目の前に横たわった父とだぶりすぎて、書けなくなっちゃったんです。それで、全く違う話にしました。

 

―宮澤美保さんとは、とあるCMのオーディションで出会ったとか。

 

 オーディションにはノーメイクで現れて、幸薄い感じが出ていたんです。その上、やる気がなさそうに見えて(笑)。その印象が残っていたんでしょうね。自分の中でぽんとはまって、直感です。

 

―宮澤さんは長野市出身。さらに、飯田市出身の安川午朗さんが手掛けたメインテーマ曲はピアノが印象的です。

 

 今回、学生時代に8ミリ映画を一緒に作った仲間、プロになってから出会った仲間に声を掛けました。冴子の小学校の時の担任の先生役の菅田俊さんは、デビュー作からお世話になっている人です。安川さんも、その一人です。断られてもいいから、仲間全員にこういう映画をやるという宣言をしたかった。安川さんには「最近のクリント・イーストウッド監督の映画みたいに、ピアノ一本でぐっとくる音楽をお願いします」と、1曲だけ書いてほしいと伝えました。

 これまで安川さんには何作も音楽をお願いしているのですが、映像(絵)が決まってから「音楽はここでこう盛り上げたい」と自分でサンプル曲を映像にはめて見せていました。今回はそうでなくて、「こういう映画を作りたい」という思いや雰囲気だけ伝えて、脚本から想像してもらいました。今までと全くアプローチが違うんです。

 

―室賀監督自身は大阪府出身ですが、お父さまの出身地・上田市にはどんな思い出がありますか?

 

 夏休みに行くおばあちゃんち。上田駅前から室賀地区行きのバスがあって、自分の名字と行き先名が同じだから「うち専用のバス」と思っていました(笑)。

 

これからも時々新たな引きだしを開けてもいいかな
 

―今回の映画は「父に捧げる」と言ってますね。

 

 僕は出来が悪かったから、父は面倒くさい存在でした(笑)。でも、最期に立ち会い、自分なりに父を送りたかった気持ちはありました。病室でシナリオを書いている時、父から教わったようなことが自然と出てきたんです。「弱者と思ったら、弱者になる」とか、「自分がもっとも不幸だと思った瞬間から、本当に不幸が始まる」とか。そんなふうに格好良く言ってはいないけど、シナリオの中に主人公よりもっと辛い思いをしている人が登場するような流れを入れたいと考えました。

 
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―病室での時間は掛け替えのない時間だったんですね。

 

 過去を振り返る時間でもありましたね。これまでなかった新しい〝引きだし〟を開けてしまったところもあるんです。それによって、今まで僕の映画に見向きもしなかっただろう人たちが「見ました」と言ってくれる。父が授けてくれたんですね。

 鉄砲をバンバン撃ち合っている映画や、ジェームズ・ボンドが主人公の「007」シリーズ、1960年代から70年代にイタリアで作られた西部劇「マカロニ・ウェスタン」を見て育っているので、子どものころに好きだったものが、自分の作風になっているんです。アクション映画を撮っていると、「暴れまくってなんぼ」というのがあったけれど、今回は電話をかけ続けるから動きがない。とはいえ、アクションも、ヒューマン・ドラマでも、人のつながりやきずな、友情を描くということでは同じことなんです。

 これからも長年撮り続けてきたアクション映画がメインだけど、今回のような引きだしをまた開けてもいいかなと思っています。

 

―長野県のみなさんにメッセージをお願いします。

 

 上田市出身の父に捧げた映画なので、長野県で上映できて感無量ですし、宮澤さんも長野市出身なのでとてもうれしく思っています。いろんな思いが重なって、長野という場所が作らせてくれた映画なので、ぜひ見に来てください。

 
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映画「お元気ですか?」
★ニューヨーク ユナイテッド国際映画祭2016最優秀主演女優賞受賞★
★ロサンゼルス・インディペンデントフィルムフェスティバル・アワード2016審査員特別賞受賞★
監督:室賀 厚
出演:宮澤美保、長谷直美、菅田 俊、丸山隼人、加藤藍子、田中 俊、正木蒼二、永倉大輔、山野はるみ ほか
【前売券発売中】
全国共通特別鑑賞券:1,200円(税込) ※3月10日発売分まで
■ 一般 …………………… 1,800円
■ 大学生 …………………… 1,400円
■ 高校生 …………………… 1,400円
■ 小人(3歳~中学生) …… 1,000円
※各種割引は劇場にご連絡ください。

 

先週11日に長野相生座・ロキシーで上映が始まった「お元気ですか?」の追加舞台挨拶が、19日に行われる。主演を務めた長野市出身の宮澤美保さんが登壇する。
3月19日(日)12:50からの上映終了後に舞台挨拶
予定:宮澤美保さんほか

 
 

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