[聞く/entre+voir #010] 宮澤美保さん (女優)

女優 宮澤美保さん

 

大事な人の死について考える、

自分の周りの人を愛おしく感じるきっかけになる作品です。

 

長野市出身・宮澤美保さんの主演作『お元気ですか?』が、100周年を迎えて話題を集める長野映画興業が運営する長野松竹相生座・ロキシー1・2で3月11日から公開される。
旅先から知り合いに電話を掛け続ける冴子(宮澤美保)。10人もの人びとと電話し続けるという不思議な行動をとり続ける彼女から、やがて、哀しみの涙によって浄化されていく“思い”が見えてくる。監督は、ジャパニーズ・アクション映画を牽引し続ける風雲児・室賀厚。こちらもお父様は上田の出身なのだそう。
数々の映画賞に輝いた少女たちの名作群像劇『櫻の園』(90)でデビューし、2005年の『苺の破片』以来の主演作。きっと125年前に建てられた映画館に棲みついている映画の神様も優しく公開に導いてくれた。主演の宮澤美保さんに話を聞いた。

 

 

映画の主演は限られた人が、限られた回数の中でしかできないことだから・・・・

 
◉宮澤さんは中原俊監督の『櫻の園』がデビュー作ですよね。

 

 長野市に住んでいるころ、市内の養成所で週1回レッスンを受けていたんです。養成所とはいえ、大きなオーディションに頻繁に呼ばれるという感じではありませんでした。そんな中でたまたま2本のオーディションの話をいただいて、そのうち一本が『櫻の園』でした。女子校の演劇部を舞台にした吉田秋生さんの漫画が原作で、創立記念日に毎年チェーホフの『櫻の園』を上演する女子高の演劇部のお話です。1次が通り、2次が通りという感じで合格して、それがきっかけで上京することになりました。この作品がなかったら、今ごろどうしていたんだろうと思います。

 

◉同世代の女優さんがたくさん出ていましたけど、今も女優業を続けている方は少なくなりました。

 

 そのころすでに、つみきみほさんはお仕事を頑張っていましたけど、ほとんどのメンバーが大きな仕事は初めてという感じだったと思います。その中でも私が一番経験がないくらい。メンバーの中では中島ひろこちゃんと私がお休みしないで現在まで続けてこられています。つきみさんも一時お休みをしていたけれど、また活動を始められて。あれから27年も経ってますからね。でも結構早いうちに結婚して引退した子も多くて。私も昨年ようやく結婚したんですけど、メンバーの中では一番遅いくらいかもしれません。
 

◉あ、そうでした! おめでとうございます。旦那さまは『神様のカルテ』の深川栄洋監督さんですもんね、そういう意味では長野県に縁があるという。

 

 ありがとうございます。まさか映画監督さんと一緒になるとは想像もしていませんでしたけど。「神様のカルテ」のときは松本市での撮影だったので、私も長野市の実家から撮影に行ったりしていましたね。

 

◉旦那さまが映画監督だからよくおわかりでしょうけど、映画を撮れるということはすごく大きなことですよね。そして同じくらい映画に主演ができることもすごいことですよ。

 

 確かに主演できるというのは特別なことです。役者さんがこれだけ大勢いる中で、限られた人たち、限られた回数しかできないことなので。『櫻の園』当時、助監督だった皆さんが監督になったりされているんですけど、やはり苦労して撮影されているのを見ていますし、本当に主演させていただけるのはありがたいことです。私自身もその前は12年前ですから。

 

◉室賀監督から声をかけられた?

 

 はい。『苺の破片』はさらに13年前の『櫻の園』を越えられるような作品をみんなで作りたいという企画だったので、自分たち発信だったんですよ。今回はもちろん企画に携わっていたわけでもなく、すでに監督が書かれた脚本に出演するという形でオファーをいただきました。実は、監督と私はあるCMのオーディションで出会っていたらしいんです。私がとてもやる気がないように見えたと(苦笑)。そのときに、CMではなく、お芝居を純粋にできる機会に呼びたいということで印象に残ってくれていたらしく、プロフィールを残してくれていたんだそうです。

 

◉でもやる気のなさが気になっていたと言われてしまうのも困りますね(笑)。

 

 そうですよね(苦笑)。ただCMのオーディションって、役者のオーディションとはかなり違うんですよ。お芝居しにいくぞという感じではないんです。オーディション会場に監督がいることすら珍しくて、カメラを回している人がいて、自己紹介して、ぐるっと回ってみたいな要望に応えていく。演技が上手い下手とかではなく、会社のイメージに合うか、ディレクターの好みに合うか、運のようなものが大きいんです。けれど「やる気のなさが気になった」なんてねえ(笑)。もちろん笑い話で言われただけですけど。

 
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電話をかけ続ける演技は想像するだけで怖かった

 

◉『お元気ですか?』の脚本を読んで最初に感じた印象はいかがでしたか?

 

 もちろん呼んでいただけたことはうれしかったんですけど、ほぼ電話をかけ続けている役なんですよ。お芝居の中で一瞬電話をするシーンがある作品はたくさんありますけど、全編を通して電話をかけているという作品は聞いたことがないので、想像するだけで怖かったですね。相手役がいるわけではなくて、私がしゃべっているだけでは飽きてしまうんじゃないかなと不安になりました。電話のシーンが上手い俳優なんて浮かばないじゃないですか。プレッシャーはありましたけど、やりがいも感じて、自分が演じるんだということを頭に入れながら読んでいましたね。

 

◉自身が車を運転していたときに事故を起こして、家族を失ったにもかかわらず、自分だけが生き残ってしまう女性の役。生きることが贖罪であるかのような役です。

 

 私、実際に小学2年生のときに5歳下の弟を交通事故で亡くしていて、交通事故というものにすごくトラウマがあったんです。うちの家族は全員がその思いを抱えている。実はそのことは何年たっても浄化されずに、「なんで?」という思いがなかなか消えないんです。弟が小さかったので、節目節目で「今生きていたら何歳だね」って思ってしまう。そういう思いをずっと抱えて生きてきたので、この作品が弟からのプレゼントのような気がしています。それぐらい心が揺さぶられました。子供が亡くなってしまう母親の気分になりながら演じていました。

 
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最後にさまざまな皆さんに理解をしてほしくて電話をかけた?

 

◉10人の人びとに電話をし、感謝の思いをのべ、謝罪をし、すべての過去に決別して旅立とうとするという設定です。これ、ご自分だったら誰にするかなとか考えますよね(笑)。

 

 私は担任の先生は10人の中に入らないかな(笑)。冴子は両親や兄妹がいない、天涯孤独という設定なんですけど、それでも10人には絞れませんよね。彼女は何を基準に選んだんだろう。やっぱり心残りじゃないけど、すごく理解されなかった部分のある人を選んだんじゃないかなと思います。元彼もその中にいるんですけど、東京のユーロスペースで公開されたときは、「よくわかる」という人と「まったく意味がわからない」という人と半々だったんですよ。室賀監督は電話をかけられたらうれしいんじゃないかな派だったんですけど。そして私も理解はできました。決して未練があったわけではないのに、そのシーンに嫌悪を感じる人も多かったですね。旦那さん役の田中俊君にも「元彼のほうが好きでしょ?」って言われたな。
 私の中で出ている答えは、冴子は素で話せる相手が家族くらいしかいなかったんだと思うんです。ほかの人に電話するときは丁寧に謝ったり感謝したりしているのに、唯一元彼に対しては、自分の本当の気持ちを話せたし、気づいてほしいという部分を匂わせているし、本音や弱さを見せられる存在だったと思うんです。思わせぶりなことを言って電話を切っちゃったり、もうつながらないようにしたり、そういうところに冴子の人間味を見てとれて共感できるんです。

 

◉冴子はどん詰まりじゃないですか。電話をかけ続けることで覚悟を決めていく?

 

 人がいなくなるということって、なかなか乗り越えられませんよ。うちの場合は未だに両親は乗り越えられていないし、完全に消えることはないでしょう。劇中で旦那さんのご両親が冴子に抱く嫌悪の気持ちもよくわかる。事故って人のせいにしても仕方がないんだけど、それでも言ってしまう気持ちもわかります。冴子は確かにどん詰まりですけど、追い詰められて最後にどんな覚悟をするのか、皆さんに見守っていただきたいです。

 

◉では故郷の映画館、長野松竹相生座さんで主演映画が公開されるこになった思いを最後にお願いします。

 

 室賀さんのお知り合いに宣伝のお手伝いをされている方がいらして、長野でどうしても公開したいんだけどって、お声がけしてくださったのが相生座さんだったらしいんです。そうしたら相生座からかけてくださるというお返事をいただけたそうで。もう感謝してもしきれません。
 すごく素敵な雰囲気のある劇場ですよね。小学生のころに、何度も映画を見にいったところでもあるんですよ。アニメとか、そんな感じだと思いますけど。
 『お元気ですか?』は東京で2週間かかっているんですけど、1日1回上映だったんですよ。でも相生座さんでは最初の1週間が2回上映なんです。そんなにたくさんのお客さまが来てくださるのか、それが心配ですが、相生座さんの期待を裏切らないようにしないといけないですね。
 きっと大事な人の死について考えるきっかけになると思うし、自分の周りの人を愛おしく感じるきっかけになる作品だと思うんです。誰にでも共通することだと思うので。こんな女優がいるんだと興味を持っていただけまたらぜひ足を運んでください。

 

 

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映画「お元気ですか?」
★ニューヨーク ユナイテッド国際映画祭2016最優秀主演女優賞受賞★
★ロサンゼルス・インディペンデントフィルムフェスティバル・アワード2016審査員特別賞受賞★
監督:室賀 厚
出演:宮澤美保、長谷直美、菅田 俊、丸山隼人、加藤藍子、田中 俊、正木蒼二、永倉大輔、山野はるみ ほか
【前売券発売中】
全国共通特別鑑賞券:1,200円(税込) ※3月10日発売分まで
■ 一般 …………………… 1,800円
■ 大学生 …………………… 1,400円
■ 高校生 …………………… 1,400円
■ 小人(3歳~中学生) …… 1,000円
※各種割引は劇場にご連絡ください。

■日時■
2017年3月11日(土)
①上映 10:50~
②上映 15:30~
※各回上映終了後に舞台挨拶
11日(土)登壇者:宮澤美保さん、正木蒼二さん(元カレ役)、室賀 厚 監督

2017年3月12日(日)
①上映 10:50~
②上映 15:30~
※各回上映終了後に舞台挨拶
12日(日)登壇者:宮澤美保さん、加藤藍子さん(女子医大生役)、山野はるみさん(友人・夏美役)、室賀 厚 監督

 
 

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