[聞く/entre+voir #007] 平賀研也さん (県立長野図書館館長)〜新たな公共に挑む〜①

 

「信州発・これからの図書館フォーラム」で図書館が変わりつつある

 

2015年に、平賀さんは県立長野図書館の館長に就任する。これまでも図書館は講演会や展示などのイベントは行ってきただろうが、どうしても内部完結型になりがちだった。その壁を取り壊した平賀さんは、今度は図書館にかかわる人々も建物の外に連れ出そうとダイナミックな仕掛けを開始したように見えた。そして「本の企画」のあるところ、大小にかかわらず県内あちことに足を運ぶ平賀さんの姿がある。

 

「都道府県立図書館サミット2016」

「都道府県立図書館サミット2016」

 

◉長野県の県立図書館に異動されました。それは誘われたのでしょうか?

 

 ええ、「県立図書館の改革をしてみないか」と。市立も町立も県立もそうですが、図書館は、ここへきて行政の財政的な理由から使えるお金はどんどん減ってきたんです。県立長野図書館はホクト文化ホールの隣にありますが、長野市にはもっと大きな長野市立図書館があって、ほかから見れば同じようなものが二つもあって何の意味があるんだと当然思いますよね。一方で県立と言っても長野市にしかないので、南信から見れば、僕もそう思っていたけれど、関係ないわけです。伊那の図書館にないものを借りる先が県立図書館だったら送料タダにしてくれるくらいの話ですよ。でもそれでいいのか?と。県立図書館って何?という思いはみんな持っている。それが「都道府県立図書館サミット2016」(※2)を開いた理由でもあります。

 それに、そもそも図書館とは何ぞやという課題がある。正直なところ、実は僕も市立図書館が変えられることに限界を感じていたのです。僕がやってきたことは、もともと図書館が大好きな人からしたら「こいつは本を大事にしてない」と映っていたかもしれないし、博物館や美術館からすれば「こっちに進出してくるな」と思われていたかもしれない。「なぜ図書館がそういうことをするんだ」とは常に言われていましたから。

 「Library of the Year」をいただいても、予算が増えるわけでもない、人を増やしてくれるわけでもない、非常勤で働く人たちが腰を据えて働けるような環境になるわけでもない。「それが図書館だ」「これからの図書館はそういう方向もありだね」と言ってくれる人もあまり増えないわけです。いくら頑張ってもこのままだと、僕がいる、花井さんがいる時だけの何か特殊な出来事で終わってしまう。やっぱり孤独なわけですよ。

 「Library of the Year」はこれからの図書館のあり方を示唆するような先進的な活動を評価する賞。けれど地域では「選ばれてよかったね、日本一ってこと?」という表面的な評価しかない。博物館も美術館も学校も町の人も一緒になってもっと生き生き暮らせすための活動、公共という視点が評価されたのに、そういう意識になかなかつながらない。そんな時に県立へのオファーがあったので、その限界を乗り越えるのにいいかもしれないと思ったわけです。面白いことをやっている地域の図書館があれば、県立図書館が「すごいね」と言うだけでもいい。けれど、その活動がなぜすごいのかを意味づけし、広めることを誰もしていないので、それをやれるポジションとして県立図書館はありかもしれないと思いましたね。

 例えば今年から高校生が信州学を学ぶことになりました。その信州学って僕が伊那や高遠でやったことと実は同じアプローチ。だったら図書館が高校の動きを一緒に考えることはできないだろうか。県立図書館ならそういうのもありだよねという雰囲気、硬い言葉で言えば長野県の社会教育の新しいビジョンを共有することができるのではないかと思ってここへ来たんですよ。
 

「都道府県立図書館サミット2016」

「都道府県立図書館サミット2016」

 

図書館は孤独

歴史や文化が共感できる地域での交流を

◉根本的なところをうかがいますが、そもそも県立図書館のイメージがわからないのですが、特別な役割があるのですか?

 

 二重行政ではないのかと言われるのはそこ。この50年くらい言われてきたのは、住民にサービスを提供するの市町村立図書館が公共図書館の核であると。じゃあ県立図書館は?と言われたら、市町村立図書館にはない資料を収蔵し、届ける、あるいは図書館がまだない街に作られるように指導するのが役割でした。つまり県立は住民の側へ出張っていくのではなく、市町村を助ける立場です。しかし市町村立にいた僕からすれば、地域の図書館それぞれが孤立無援で、その活動について誰も考えないし、議論もしないし、反応もしない。もう蛸壺ですよ。でも違うでしょ、と。だったら県が指揮命令するという組織的な上下ではなく、みんながもっとわいわいつながりながら、もっと面白いこと、意味のあることをしようと。

 諏訪ならば上諏訪が諏訪なのではなく、茅野から岡谷まで含めた地域をぐるぐる動きながら暮らしているじゃないですか。そして郷土に同じようなイメージ、文化を共有している。松本、塩尻、安曇野や周りの町も同じですね。僕が住んでいる伊那も伊那市だけではなく、駒ヶ根市、辰野町、箕輪町、飯島町、南箕輪村、中川村、宮田村も歴史、暮らしをすごく共感できる範囲。行政単位ではなく、その範囲でこそいろいろ自分たちでもっとこうしよう、楽しくやろうよとなるのが本当だと思うんだよね。

 

◉でも突然そういう発想の方がやってくると、従来の思考の方には言葉自体が通じない感じですよね、きっと。

 

 もう何言ってんの?って世界です(苦笑)。まず市町村立の図書館で働く司書さんは、ほとんどが3〜5年契約なので、一つの場所でじっくり考えるということが難しいんですよ。館の中の業務をすることで手一杯。県立は半分は行政の司書職なので、基本的な意識も高く、「チャンス!」と思っている人もいる。能力もある。行政は「こいつ何を言い出すんだ、めちゃくちゃな予算要求してきて」みたいなのはあると思いますよ。でも、ここは教育委員会の文化財生涯学習課が担当なんですが、この1年間議論する中で本当によく理解し、考えてくれるようになり、「やりましょう、ここで予算を取りましょう」と提案もしてくれるようになりました。

 そんな県立図書館改革の一環で「信州発・これからの図書館フォーラム」と銘打っていろいろ始めたんですけど、そうしたらいろんな地域の図書館の館長同士、司書同士の顔が見えて、話せる関係になってきた。さまざまな動きも出てきてた。これからが楽しみです。さらに言えば、図書館の世界の中だけでつながるんじゃなくて、街の側から立ち上がってきている人たちとつながってほしい。そういう意味では1年経って、「これはいけるかな」と少しだけ思えるようになってきましたね。

 

「可能性を形に。これからの『図書館』想像(創造)会議」

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「可能性を形に。これからの『図書館』想像(創造)会議」

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全国の図書館初?!お持ち帰りができる企画展!「Re’80(リ・エイティーズ)-バブルでトレンディだった新人類たちへ」

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図書館を「図書館」と呼ばなくてもいいかもしれない

 

◉「信州発・これからの図書館フォーラム」も出席させていただいてみて、参加されている図書館スタッフの方が、積極的に交流していく姿が印象的でした。そこから何かが始まると面白いですよね。

 

 いやほんと。図書館はね、僕はいろいろあっていいと思うんです。今まで通り、子どもと本のための図書館も、コツコツひとりで勉強して研究するための図書館も必要なのかもしれない。そういう前提の上で僕が無意識に求めているのは、図書館、ミュージアムといった枠じゃなくて、“地域の一部分”としての図書館であり、ミュージアムであり、また本屋でありカフェかなという気がしますね。この50年間、何でもお金を出して買うという暮らしを僕らは享受してきたけれど、その果てに人びとは関係性に飢えている気がします。何か商品を買うにしても、そのお店に秘められたストーリーが満足させる要素になっていたりするでしょ? そういう関係性みたいなものを多くの人が求めているのだとすれば、図書館も外に開き、出て行くべき。そういう意味では名前も図書館とは言わなくてもいいのかなと。図書と館じゃないですか。図書だけじゃないし、館だけじゃないですから。

 

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平賀 研也 KENYA HIRAGA

1959年仙台生まれ東京育ち。
法務及び経営企画マネージャーとして企業に勤務。その間に米国イリノイ州にくらし、経営学を学ぶ。
2002年伊那に移住。公共政策シンクタンクの研究広報誌編集主幹を経て、
2007年〜15年の間、公募により伊那市立伊那図書館館長。2015年4月より現職。
実感ある知の獲得と世界の再発見、
情報リテラシー向上に寄り添える地域情報のハブとしての図書館、
半開きな関係性に支えられる公共空間の実現を目指す。

 
 

※1 「信州発・これからの図書館フォーラム」
県立長野図書館が”これからの図書館”をみなさんと一緒に考え、実現するためのフォーラム。

※2 「都道府県立図書館サミット2016」
「信州発・これからの図書館フォーラム」の一環で、都道府県立図書館の現状と将来像を集約・共有し、これからの時代の都道府県立図書館のモデルを確立することを目指した催し。

※3 信州学
自らが生まれ育った地域を理解することで、ふるさとに誇りと愛着をもち、ふるさとを大切にする心情を育む、信州の未来を考える探究的な学習です。

※4 「可能性を形に。これからの「図書館」想像(創造)会議」
図書館という公共空間が果たす役割、必要な機能など、図書館のあり方について考えたワークショップ。「子どもと図書館の関係」「図書館が持つ多様性」「図書館の空間と情報へのバリア」をテーマに、建築を志す大学生や県内各地で学びの場をつくる市民団体「まちの教室」と、図書館関係者、利用者と3回のワークショップを開催。
 
 

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