とがびアートプロジェクトのヒミツ #01 〜自分の「表現」に出会う中学校

とがびアートプロジェクトのヒミツ #01 〜自分の「表現」に出会う中学校


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ぼくらが「美術」と出会うとき、そのほとんどは「鑑賞するもの」として目の前に現れる。
最近は、地域を舞台にした芸術祭などで、五感で体験できる美術作品に出会うことが増えてはきたものので、
それでもぼくらは美術作家による作品やそこに封じ込められた想いを「受け取る側」にいることが多い。


 「しかし、『美術』というものは、美術館に足しげく通う一部の愛好家だけのものなのか?
美術作品は、アーティストと呼ばれる特別な人たちだけがつくれる、特別なものなのか?……」


長野県の中学校で美術教師をしていた故・中平千尋はあるとき、こんな疑問を持った。



photo:駒村みどり

photo:駒村みどり


誤解してほしくないのは、彼は誰もが知っているような美術史上の名作や、
現代の時代感覚を反映させたアートプロジェクトなどを無視しようとしているのではない。
美術界や教育界、大人も子どももごちゃ混ぜにして、
「美術」との関わり方をもっと多様にしたいということなのだ。


 「中学校を美術館にしよう」



この中平の一言からはじまったアートプロジェクト〈とがび〉は、
長野県千曲市にある戸倉上山田中学校を舞台に、10年間も続く一大プロジェクトとなった。
その10年の間には、運営体制や中心となる生徒にさまざまな変化はあったものの、
おおざっぱに言ってしまえば、中学生がアーティストの力を借りながら作品を制作し、
学期間休業の数日だけ、それを校内のいたるところに展示して、中学校を美術作品でジャックしてしまうというものだった。



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 「美術作品」とは書いたが、それは絵画や立体作品のような、いわゆる「美術」的な作品だけではない。
回数を重ねるにつれ、生徒たちは音楽ライブやパフォーマンスなども取り込み、
より「自分がやりたいこと」「言葉にならないけれど、伝えたいこと」を発散するためのさまざまな「表現」を模索していった。
そしてついには、生徒の口から「アーティストはいらないです」という言葉が飛び出すまでにいたる。


 「美術は『受け取る』だけのものではなく、自分を表現する武器として使える」



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そんなことを考える卒業生たちを社会に送り出した〈とがび〉とは、一体なんだっただろう。
また、それを仕掛けた中平千尋の狙いと想いとは……。


このコラムでは、とがび卒業生の小林稜治(現在は、とがび運営団体・Nプロジェクト事務局)が、
〈とがび〉にまつわる10のキーワードを通して、その実態とヒミツに迫っていきたいと思います。


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