長野A(アート)ターン#07 わたしの身近な東京〜長野をつなぐArt〜《awai art center》とそれをめぐる人びと
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《awai art center》とそれをめぐる人びと-
吉原、というと、「えっ!」と思う方もおられるだろう。
そこは、かつての色里。
花魁(おいらん)など多くの遊女たちが存在していた場所。
そして現在でも、‘現代版遊郭’のような遊び場が多くあるところ。
この特殊な経歴をもつ場所で、2013年春より年1回、
古典芸能・現代美術・パフォーミングアーツが一体となった芸術祭が開催されている。
その名も「吉原芸術大サービス」。
この芸術祭の中核となったのは、
吉原から歩いて数十分のところにある、アトリエ<空鼠(そらねずみ)>の(当時の)メンバー、
建築・映像・写真・パフォーマンスなどさまざまなジャンルでアート活動をしている若手の美術家たちと、吉原の町内会の方たち。
きっかけは、かつての‘吉原’の記憶を残す
吉原弁財天の壁画制作の依頼が、空鼠のメンバーたちに寄せられたことだった。
若い力、創造力は破天荒。そしてとてもエネルギッシュ。‘吉原’というまちの力に負けていない。
また、支える町内会たちの心意気や懐の深さに、感動を覚える芸術祭でもあり、わたしは毎回、ほぼ当日要員だったものの、欠かさずボランティアスタッフとして参加していた。
なにより、当時アート系のNPOに所属し、まちと現代アートの交わるイベントに関心のあったわたしにとって、
この芸術祭は、‘生きた経験’だった。
とまぁ、なぜここに「吉原芸術大サービス」の話がひょっこり出てきたかというと、
前回の2015年のこの芸術祭で事務局の要となっていた茂原奈保子さん(以下、シゲハラさん)が、
松本市深志にアートセンター《awai art center》を、オープンさせたからだった。
ここで少し、《awai art center》のホームページにある序文を抜粋して、その空間のイメージをお伝えしたい。
awai art centerは2016年4月、長野県松本市にオープンしたアートセンターです。
定期的に入れ替わる企画展を行うギャラリーを主軸に、喫茶や読書も楽むことのできる空間を備えています。
多角的な視点からアートに触れることのできる場として、まちに’開いた’スペースです。
—awai【あわい/間】とは
awaiとは、【間】の古い読み方で、【間】と同じ意味なのだとか。
この世界には、様々な人やもの、現象がそれぞれに間をとって存在しています。間は距離や在り方をもってそれらの関係をつくり出し、決定づけます。
これはよく考えれば当たり前のことで、普段意識せずとも何の問題もなく日々をすごすことができます。
しかし逆に、ものごとの見方を少し変えると見えてくるものだともいえます。
このように視点を増やしたり視野を広げたり、
また思考のバリエーションを増やしたりそれを許容したりするときに、awaiが扱う「アートの表現」が活きてきます。
awaiは主に、同時代(=リアルタイム)に起こっているアート表現をひらく場です。
—以上、《awai art center》ホームページからの抜粋
<アート>というと、その言葉の重さに拒否反応される方も少なくない。
しかしその表現を1つひとつ丁寧にひも解くことにより、
自分自身の「思考のスイッチを切り替える」ことができる。
そんなアートに関する‘丁寧なひも解き’を、おいしいコーヒーを飲みながら、
心地よい椅子に深く身を委ねながら体験できる場が、この《awai art center》のきっかけであり、ミッションなのかもしれない。
実際、わたし自身そのことを、Awaiのオープニング企画展、加藤巧個展『〜 | wave dash』のギャラリー・トークで感じていた。
シゲハラさんと、共同経営者でパートナーの美術家・村上慧(さとし)さん以外に誰も知人がおらず、
さらにこの日はオープニングということもあってかギャラリー内まで入ることができないほどの混み具合だった。
しかしながら、そのどの点も不快と思わない雰囲気。
シゲハラさんや村上くん、そしてその仲間たちが、
ここをイチからつくってきた、 ‘熱’や‘思い’がそう思わせているのかもしれない。
ギャラリーを見学に、在廊している作家さんと語りに、お茶飲みに、ごはん食べに、そして本読みに、ノンビリとしに。
どういう目的で来てもらっても大丈夫ですよ、という空気がゆるやかに漂っている場所だ。
その安心できる空気を出しつつ、シゲハラさんも村上くんも、彼らはアートに対して、とても真摯で真剣であると思う。
わたしと同じ長野県出身であるシゲハラさんは、松本が地元ではない。
その松本に拠点を選んだ理由をこう書いている。
松本市に拠点を置く理由
1. 自然環境とまちが良く
2. 現代美術の動きはまだ少なく
3. 様々な動きをつなぐハブになりうる地点である
松本のまちが立地よく、
かつ文化度も高いことは、『サイトウ・キネン・フェスティバル松本』『信州・まつもと大歌舞伎』
そして『クラフトフェアまつもと』の全国的な周知をみても一目瞭然であるところだが。
・・・
そうはいっても、同時代の流れを感じる「現代アート」の
根付きはまだ少なく、
さらに地理的にみると、
昨今の<地域×現代アート>の企画・・・
たとえば、大地の芸術祭・越後妻有トリエンナーレ(新潟)、あいちトリエンナーレ(愛知)、横浜トリエンナーレ(神奈川)、水戸芸術館の現代美術センター(茨城)、金沢21世紀美術館(石川)、アーツ前橋(群馬)
のそれぞれと、ほぼ同距離で結ぶ位置に松本がありますよね、
—以上、《awai art center》ホームページからの抜粋
そんな彼らの着眼点、展開の大きさが面白い。
余談ながら、
オープン初日、先ほど書いたように満員のお客様のなかで、
ギャラリーに入ることができなかったからこそ、
目につき、手にした本があった。
その企画展に関連した『絵画術の書』(チェンニーノ・チェンニーニ)という本だった。
こういう思わぬ本との出会いが生まれるのも、この《awai art center》のよさ。
それから。
ロゴの‘間(ま)’もとてもいい感じなのです。
このロゴはじめ、建物のリノベーションや内装などは、シゲハラさん、村上さんと、そして前出の「吉原芸術大サービス」にも関わっていた東京の仲間や、地元の人たちが
松本平がちょうど一番冷え込む季節から春になるまで、がんばってつくりあげていた。
松本市内のなかでも、割と静かな通りにあるこの《awai art center》。
そんな通りに、自転車漕いで乗り付ける小学生とか、ここをデートの定番にするカップルとか、
あるいは決まってコーヒーを注文しては昔の松本の話をしていくおじいちゃんとか、そういう人たちが集まる場になったら面白いな、と思っている。
ちょうどいま(2016年6月9日より)、村上慧さんの『家の提出』が会期中である。
awai art center(あわいあーとせんたー) :
〒390-0831 松本市深志3-2-1
松本駅から:徒歩9分(750m):JR松本駅お城口を出て西にまっすぐ伸びる大通りを東にまっすぐ進む。6つ目の信号「深志三丁目」を右折し、1つ目の交差点を左折。右手側の1軒目がawai art center。
2016年4月29日オープン。
<コラム中のことば説明>
吉原芸術大サービス
吉原神社・吉原弁財天、及びその周辺で行われている、年に1回の芸術祭。現代アートの展示・パフォーミングアーツ・伝統芸能のフェスティバル。
※昨年2015年のHP(平成24年度台東区芸術文化支援制度の採択企画でもありました。)
アトリエ空鼠(そらねずみ)
もとは若手アーティスト4名によるシェアスタジオであった。(現在は当時のメンバーとは変わっております。)
サイトウ・キネン・フェスティバル松本
毎夏、指揮者・小澤征爾さんを総監督に開催される国際的な音楽フェスティバル。現在はセイジ・オザワ松本フェスティバルに改称。
信州・まつもと大歌舞伎
2008年から1年おきに開催されている、串田和美まつもと市民芸術館芸術監督演出、市民が一体となって開催される。2016年夏の演目は『四谷怪談』。
クラフトフェアまつもと
30年以上も続く、日本でもっとも伝統があり、参加者も多いクラフトフェア。毎年5月の最終土曜、日曜に開催。2016年は終了。