[ようこそ、信州へ #005]吉田鋼太郎さん(俳優)

[聞く/entre+voir #08]吉田鋼太郎さん(俳優)


笑って泣いて、楽しかったという感覚にはならないかもしれない
でも見終わった後にいろんなことを考えないといけないのでは、と思わされる作品です


実力派俳優の名をほしいままにしている俳優、吉田鋼太郎さん。シブさに豪快さ、大人の色気に加え、ちょっぴり毒のあるユーモアも兼ね備えたキャラクターが、舞台の客席に座る観衆、テレビの前の視聴者の心をワシヅカミにしているのは、ご存知の通り。長塚圭史の新作、パルコ・プロデュース『ツインズ』で1月30日・31日にまつもと市民芸術館にやってくる。


インタビュー撮影:宮川舞子


   美しい海辺の大きな家に暮らす家族。
   海水浴を楽しみ、海産物に恵まれた穏やかな生活を送っている、ように見える。
   そこに東京から次男とその娘が帰省してくると、徐々に不穏の色が濃くなっていく。
   視界に広がるこの美しい海の景色ははたして本当の現実なのか。
   追憶のなかを漂う家族が幼い双子に見たものとは-。



『ツインズ』撮影:尾嶝 太

『ツインズ』撮影:尾嶝 太


レトリックに飛んだ文体に耳を傾けざるを得なくなる長塚戯曲


◇長塚圭史さんの作品は『SISTERS』以来の出演です。吉田さんはすごく長塚作品を評価されていらっしゃるとか。長野県では長塚さんのオリジナル戯曲は初めての登場ですが、その魅力をご紹介いただけますか。

 そうですね、圭史はきちんとテーマ性をもった作品を書く劇作家。しかもそれをあからさまに打ち出すやり方ではなく、オブラートに包んで、お客様が想像力を駆使して剥いて剥いていくと、そこにきっちり存在しているんです。そして本人も時折言ってますし、僕も感じる部分ですが、あたかも翻訳劇のような言葉遣いをする。もともと英語の文章があって、それを日本語にしたようなとでも言いますか、難解なイメージを持たれがちなんですが、非常に美しい言葉遣いをするのが、彼の特徴です。
 翻訳劇は俳優の身体を通るのに時間がかかるのですが、圭史の言葉も慣れるまで時間がかかりますし、ほんの少し日常会話にはない違和感がある。お客様にもそういう感覚を強いるかもしれない。でも、その美しさ、非常にレトリックに飛んだ文体に耳を傾けざるを得なくなるんですね。


◇物語に込められた痛みも独特のものがありますね。

 お芝居の感想をネットなどで見ていると、長塚作品のイメージにエロい、グロいなどといった形容がありますが、僕自身はそうは思ったことはありません。そういう要素はスパイスとしてまぶされているけれど、全体を支配しているわけではないんです。『ツインズ』は、長塚作品の中ではわかりやすいぶるいの作品だと思います。



ちょっとねじれた兄妹の関係


◇吉田さんが演じる役は、“海水”を飲み続ける男です。

 この作品へのオーダーとして、古田新太君が、圭史に「感じの悪い家族劇を描いてほしい」と言ったらしいんです。その家族を取り巻く状況が、なんだか「3・11」を想起させるんですよね。僕が演じるのは長男で、その家を取り仕切っている存在。で、どうやら妹が最近亡くなったらしい。いえ、亡くなったという言葉を使ってはいませんね。長男はあるころから妹が海に消えたと言い始め、もう一度捜しに行きたい、会いたいと思っている。いつも“海水”を飲んでいるのは、飲み続ければ海と同化し、いつか自分も海に入っていって妹を捜せるんじゃないかと思っている。カナヅチらしいんですけどね、まあ頭のおかしい人です(笑)。


◇え、台本を拝見していて優しさを感じました(苦笑)。もっとも結末を知るのがもったいないので最後までは読んでいないんですけど。

 まあ、あえて言えば愛かもしれない。そこが圭史の作品らしいところですが、おっしゃるように妹のことを愛を持って語るところがあります。一方で、葉山奨之君が演じる甥っ子のタクトの人生のことも非常に気にかけている。お父さんのようでもあるんです。妹のこともとても愛している。そういうことを考え合わせると、妹への思いはただの愛じゃない、ちょっとねじれたものが入っている。



古田新太さんは、まさにプロフェッショナルな役者


『ツインズ』撮影:尾嶝 太

『ツインズ』撮影:尾嶝 太


◇ところで兄弟を演じる古田新太さんとは初共演だそうですね。意外でもあり、夢の顔合わせが残っていたかという楽しさもあります。これまで接点はなかったのですか?

 彼も圭史の作品に出ているし、蜷川さんの作品にも出ていますからね、会うチャンスはあったんでしょうけど。「こういう役者」という大きいくくりでは、同じタイプに分類されそうなので、一つの芝居で二人はいらないからとキャスティングされなかったのかもしれません(笑)。


◇共演を楽しみにされていたそうですが、刺激を受けられたりしましたか?

 いやぁ初めてです、これほど共演した役者さんに刺激を受けるのは。久しぶりにすごい人がいるんだなと。当たり前と言えばそうかもしれないけれど、誰よりも台本の読み方、表現の仕方も的確。しかも破天荒とか大酒呑みという印象だと思うんですけど、ものすごく真面目なんですよ。誰よりも稽古場に早く来て、人が稽古しているところを食い入るように見つめ、若手の俳優が悩んでいればちゃんとサジェスチョンをし、6時間なら6時間の稽古時間ずっとその芝居と向き合っている。まさにプロフェッショナル。びっくりしましたね。


◇ところで、もう一昨年になってしまいますが、上田のサントミューゼに蜷川幸雄演出『ジュリアス・シーザー』でいらっしゃいました。その上田にゆかりのある大河ドラマ『真田丸』には織田信長役で出演されます。そしてこの『ツインズ』と、もう勝手に吉田さんは「長野づいている」という印象を持っています(笑)。

 『真田丸』はほんの少ししか出ていませんから、大きなことは言えません(苦笑)。ただ上田の街は面白かった。夜の呑み屋街の闇が深いと言いますか、土着の雰囲気があって、お店に入っていくのが怖い感じがするんです。一見ナイトクラブのような名前の居酒屋があって、そこの親父さんがご自身で獲ってきたスッポンやドジョウ、マムシとか出してくれるお店がすごく気に入って通いましたけど。松本は、前回『喪服が似合うエレクトラ』という作品でうかがった時に松本民芸家具のお店をのぞいたのを覚えています。
 長野県は八ヶ岳に母が一人で住んでいた家があって、別荘みたいな感じで使っているんですけど、年に1回は来ていましたよ。蓼科とか霧ヶ峰、スキーは車山に行ってました。大好きです。残念ながら最近は忙しくてなかなか行けないんですけどね。松本、泊まりがあるんでしたっけ? あまり松本ではゆっくりしたことがないので楽しみにしています。


◇最後に改めて一言お願いします。

 『ツインズ』はいろんなことをお客様に考えさせる作品だと思います。ものすごくエンターテイメントかと言われればそうではありません。笑って泣いて、ああ楽しかったという感覚にはひょっとしたらならないかもしれない。でも! 全部見終わった後にいろんなことを考えてしまう、考えないといけないのではと思わされる、もう一回思い返す作業をしたくなる。そういう意味では、最近あまりないタイプの芝居です。長野県も「3・11」の翌日に大きな地震がありましたよね。その時のことも少し考えながら見ていただくといいかもしれません。


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吉田鋼太郎(よしだ こうたろう)
1997年に劇団AUNを結成。演出も手がける。
蜷川幸雄演出作品に欠かせない存在であり
『タイタス・アンドロニカス』『オセロー』『ヘンリー四世』で主演を果たした。
『ヴェニスの商人』で第6回読売演劇大賞優秀男優賞(99)
『ハムレット』『リチャード二世』で第36回紀伊國屋演劇賞個人賞(01)
『ヘンリー四世』で第64回芸術選奨演劇部門文部科学大臣賞を受賞(14)
近年は映像での活躍も目覚しく、テレビドラマは連続テレビ小説『花子とアン』(14・NHK)
『MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜』(14・TBS)、『すべてがFになる』(14・CX)
『東京センチメンタル』(14・TX)、『ウロボロス~この愛こそ、正義。』(15・TBS)
『刑事7人』(15・EX)、『リスクの神様』(15・CX)など
映画は『アンフェア the end』『暗殺教室』『新宿スワン』『THE NEXT GENERATION-パトレイバー-首都決戦』(15)などに出演。
この1月からは『東京センチメンタル』(テレビ東京系)にて初めての連ドラ主演。

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