[聞く/entre+voir #038]「デジとしょ信州」座談会

「デジとしょ信州」トップ画面

デジとしょ信州
市町村と県による協働電子図書館運営委員会

 

「いつ、いかなるときも学びや読書の環境を維持・向上させたい」

という共通の目的・思いから生まれた「デジとしょ信州」

 

「夏のデジ田甲子園における紹介動画より」

 

 

2022年8月、長野県内の77市町村と県の協働による「デジとしょ信州」という電子図書館がスタートした。この電子図書館は、コロナ禍で地域の図書館などが開館できなくなったことでクローズアップされたが、災害がいつ起こるかわからないことも教訓になったし、そもそも県内にまだ図書館のない地域もあり、情報に自由にアクセスしづらい方々がいる。デジタル技術が日進月歩どころか秒単位で進んでいくような時代の要請もあり、図書館に関わるすべての皆さんの中にあった一つの課題=理想でもあった。利用登録さえすれば、図書館へ行かずともさまざまなコンテンツを読んだり、情報に接することが長野県全域で等しくできる「デジとしょ信州」は全国でも稀な取り組みだ。この取り組みがどのように誕生したかを紹介する座談会をお届けしよう(取材は2022年秋に行った)。
 
 
筆者はまず、隣町の図書館に申請に行った。もうそこでは図書カードもつくっていて、よく本も借りているからだ。でも、自分の住んでいる町の図書館で申請しなければならないルールのようだ。ただ地元の図書館に行くタイミングが見当たらなかったので(なぜかいつも自分のタイミングと合わないのだ)、ネットで申請することに。県立長野図書館のサイトから登録してみようと思った。サイトを開くと右上に「電子図書館」というボタンがある。そこをクリックすると「ながの電子申請サービス」のページが開くので、「市町村と県による協働電子図書館」利用申込フォームから登録してみよう。「もしかしたら数日お待たせするかも」な表示も出たが、スムーズに登録までたどり着くことができた。コンテンツは小説やライトノベルなどの読み物、レシピ本、ビジネス書など実用書、子どもの本、英語の本など約21,000点になるそう(2023年3月現在)。
 
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図書館のイメージ

 
――まず森さんを皮切りに、今日参加されている皆さんそれぞれ自己紹介をお願いします。
 
県立長野図書館長・森いづみさん 私は長崎県出身です。大学図書館に29年勤め、全国を渡り歩く生活をしておりましたが、信州大学での活動がきっかけで県立長野図書館に移って、3年目になりました。地域の中の図書館の面白さを日々実感しています。
 
坂城町立図書館長・鈴木康之さん 坂城は人口1万5千の町で、蔵書数12万冊と小さめの図書館があります。私はもともと雑誌の編集をやっていました。図書館はずっと昔から利用していて、有名な浦安図書館にインタビューをして1冊(「浦安図書館を支える人びと―図書館のアイデンティティを求めて」)にまとめたり、図書館に関してかなり詳しくなりました。公募で採用されて8年になります。
 
千曲市立図書館・宮崎摩紀さん 千曲市の人口は約5万8千人ですが、更埴、戸倉、更埴西と3つの市立図書館を運営しております。このうち更埴図書館が台風19号の水害で長期休館せざるを得なくなったこともあり、「デジとしょ信州」の運営にもいち早く手を挙げさせていただきました。私が司書になったきっかけは、県立長野図書館に今もお勤めの柳沢磨三代さんの存在が大きいです。柳沢さんが高校図書館の学校司書として赴任していらして、「図書館の仕事を手伝ったら特製おでん食べさせてあげる」とおっしゃって、それに釣られて図書委員になったんです。司書の仕事をする中でレファレンス(資料や情報を求めている人と適切な情報源を結びつけるサービス)などの面白さを知りました。そして市役所入庁後、図書館に配属され、もう20年になりました。
 
佐久市立中央図書館長・依田緑さん 佐久市は人口からいうと県内4番目の市で、5つの図書館があります。中央図書館機能を持つ中央図書館の建替え再整備の準備がいよいよ始まり、「デジとしょ信州」を皮切りにここを情報センターの拠点としていきたという構想もあり、参加させていただいています。私は小、中学校の教員でしたが、公共図書館とのご縁をいただき、奥深さを知りました。司書の資格も取り、今年5年目を迎えました。
 
松川村図書館長・棟田聖子さん 松川村は人口9,700人、「安曇野ちひろ美術館がある村」として全国的にも有名ですが、実は2009年まで図書館がありませんでした。図書館のオープンにあたり村民の方々といろいろお話をする中で、世界的に有名な絵本美術館がある村の図書館として児童サービスを運営の中心に据えるというコンセプトを決定しました。蔵書数7万冊弱の小さな図書館ですが、村内の子どもたちの読書活動を公共図書館、小中学校図書館で一体的に育てていきたいと考えています。私は村の出身で、若いころ3年間中学校図書館の司書を勤めました。一度退職し子育てをしておりましたが、ちひろ美術館ができたタイミングで復帰し、その後は公民館図書室、小学校図書館、中学校図書館とずっと司書として勤務しています。2009年の図書館開館と同時に館長に就任し13年になります。2018年には絵本専門士の資格も取りました。
 
市立須坂図書館長・文平玲子さん 須坂市は人口が5万人で、図書館の蔵書は21万冊ほどです。もとは明治36年に町の有志がお金や本を出し合ってつくった、パブリックライブラリーです。建物が築41年と少々古いのですが「デジとしょ信州」のおかげでタイムリーにIT化が進み、今年度には長寿命化工事が控えております。私は子どもの本の出版社の出身で、編集や翻訳の仕事をした後、9年前に故郷の市立須坂図書館で公募があり館長になりました。初めは何もわからない、「ペーパードライバーの司書」であることを武器に、市民目線でいろいろ変えてきましたが、今は少し落ち着いて、皆さんのお役にも立っていこうと日々努力をしています。
 
大桑村図書館長・平中和司さん もともとは中学校の国語科教員で、学校図書館に携わってきました。木曽郡は、5年前に隣の木曽町図書館ができるまで無図書館地域であり、未だ多くの住民の方は図書館の恩恵を受けられずにいるなど、地域の方と一緒に図書館づくり運動から関わってきました。その流れで大桑村図書館館長になったわけですが、2022年9月23日に開館しました。蔵書も2万ほどですので、マイクロ図書館ですね。3,400人の村民の方々に満足していただけるのかは心配ですが、「デジとしょ信州」と一緒にスタートできますので、リアルとデジタル両方の図書館を使ってもらえるようにしていきたいと思っております。
 
塩尻市立図書館・藤牧晃平さん 東京の情報系の民間企業に東京で8年ほど勤め、5年前にUターンして役所で働き始めました。情報関係の部局に配属され、塩尻市立図書館に来て4年になります。蔵書管理システムや、貸出管理システムの定期的な新規導入、運用保守のほか、図書館で行う講演会や展示会のイベント運営を行っています。講演会では今年度は田中優子さん、小泉今日子さんに来ていただきました。ほかにも図書館職員が学び合うという意味で、よその公共図書館との勉強会のような位置づけで実施したり、絵本作家さん、自分たちがお話を伺いたい方を呼ぶような形で年間を通してやっております。
 
長野県DX推進課・清水政善さん DX推進課は、2021年度にできたばかりの新しい課で、長野県内のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていく仕事全般に携わっています。その一つとして、「デジとしょ信州」に昨年度は事務局として、今年度はオブザーバーとしてかかわっています。私も9年間IT企業に勤め、県職員になって5年目になります。
 
長野県教育委員会文化財・生涯学習課・小澤多美子さん 私は関東地方の短大で4年ほど司書として勤務したのち、故郷である長野県の司書職に採用され、17年間県立長野図書館でさまざまな業務にあたってきました。令和2年度から県の社会教育行政や県立長野図書館を所管する当課へ異動となり、行政職の同僚とともに、「デジとしょ信州」の事業化や予算要求など事務的な側面から関わっています。教育委員会に来てから(公社)日本図書館協会が認定する「認定司書」になったんですが、正直、今「司書らしい」仕事はしていません。でも今この部署での様々な経験が、この先、図書館事業を進めていくために必ず役に立つという実感はもっています。
 
森さん このように、多様なバックグラウンドを持った、面白い方々が集まったからこそ、この事業がうまく進んだのだと思います。いろいろな得意分野をお持ちの方々が集まっておられることが、このチームの強みですね。県外から来た人間から見ると、信州の地域性はとても個性があるし、それぞれの地域の図書館も、それぞれの文化に育まれた図書館づくりをされている。「デジとしょ信州」の「信州」は、歴史や文化にかかわる文脈の上でしっくりくるという皆さんの想いで、名付けられました。
 

市町村と県による協働電子図書館(「デジとしょ信州」)運営委員会組織図

 
――そもそも「デジとしょ信州」が始まった経緯について教えてください。
 
森さん 図書館は乳幼児から高齢者まですべての住民の方が、読書だけではなく、情報を入手したり、芸術文化や文学に触れたり、地域文化の創造にかかわる場です。本を借りて読むなど情報をインプットする場のイメージが強いと思いますが、実はアウトプットも守備範囲。図書館自体がにぎわいを創出し、地域課題の解決を後押しするような機能拡張をどんどんしています。ところがコロナ禍で、休館せざるを得ない状況になって。「感染防止のために休館します」というネガティブなメッセージだけではなくて、もっとポジティブな情報やメッセージも出していかなければいけないと思い知らされました。
 
 
――コロナ禍では公共施設が軒並み閉じてしまい、個人的には今こそ開けなければいけないのではないかという思いもありました。図書館はどんな状況でしたか?
 
森さん コロナ禍が始まってすぐのころ、全国で92%、長野県では70%の図書館が休館しました。そんな中で、電子書籍サービスは、学びや読書の環境を豊かにするための一つの手段になれるのではないか。あらゆるバリアを越えて、「いつ、いかなるときも学びや読書の環境を維持・向上させたい」という共通の目的が見えてきたのだと思います。
 
鈴木さん 4年くらい前から図書館の館長会議などでは「電子図書館をやらなくちゃいけない」という話は出ていました。たとえば上田地域全体ではシステムを持っており、近隣の市町村も協力して一つの図書館みたいな体制を取っています。坂城町なら上田や東御と話をして電子図書館をやるとか、いろいろなことを考えていました。そうしたら、県から「電子図書館を皆でやりましょう」という話があり、DX推進課も動いてくれて話が急に進みました。
 
森さん 電子図書館サービスが有効だと多くの人が思っていたと思うんです。たとえば、千曲市立更埴図書館さんは2019年の台風19号で水害に遭われて1年半くらい休館せざるを得ない状況でした。長野県図書館大会という県内の図書館が集まって話す場で、当時の館長さんが「もし電子書籍があったら、こんなに長くサービスを止めなくて済んだのに」とおっしゃった。その言葉は大きかったです。長野県は広くて、身近に図書館がない方も多い上に、災害の甚大化やコロナ禍での休館と、いろいろな要因が重なって、皆さんの中で「何とかしたい、どんなときでも読書や学びの環境を持続させなければ」という思いが高まっていたのではないでしょうか。折しもGIGAスクール構想(児童・生徒1人1台端末と高速ネットワークを整備し、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない個別最適化された学びの環境の実現を目指すという文部科学省の取り組み)がコロナ禍で進みました。若い世代は電子書籍を利用するためのハードを持っている。逆にソフトが提供されなければ、教育格差が起こるのでは、という懸念もあった。読書バリアフリー法が2019年に施行されていたのも大きいです。視覚に障害をお持ちの方をはじめ、読書にさまざまな困難をお持ちの方がいらっしゃる。そういう方々に情報を届けるための、解決の糸口になるんじゃないか、という意見もありました。
 

 

 

 
森さん そこで2020年1月、県内図書館を対象として、電子図書館の導入についてアンケートを実施しました。県内での導入は高森町さんのみで、「検討中」が11、多くは「未検討」でした。一方で議会や図書館協議会、住民の方からの問い合わせもポツポツと出始めていました。けれど、懸念もすごくあって。特に予算の確保に9割以上、運用にかかる負担やコンテンツ内容を8割くらいの図書館さんが課題としていました。「どういう方法が望ましいですか?」という質問には「選書や利用方法、利用支援などで市町村を超えて連携できたら」「複数の市町村で一緒に導入できたら」といった意見が多かった。このアンケートは、県教育委員会文化財・生涯学習課と協力して質問項目を考えました。どうすれば、皆の声を集結して新規事業として認めてもらえるのか。一緒に知恵をしぼりました。
 
藤牧さん 塩尻市では同時期に見積もりを取っていて、自分たちだけではプラットフォーム(電子書籍のシステム)を維持することは難しい、協働でできるといいのにと思っていました。また中信地区でできないか周りの自治体とも話したのですが、そこまで発展しませんでした。ですから両方の意味で県と一緒に進められることはよかったですね。
 
森さん 今のお話にも出てきたように、市町村を越えた取組、たとえば上田地域図書館情報ネットワーク「エコール」、諏訪地域公共図書館情報ネットワーク「すわズラ~」、南信州図書館ネットワークなど、広域単位で図書館間の連携をしている地域が長野県は多いんです。そういう連携の素地がもともとあったことも強みのような気がしています。
 
宮崎さん 千曲市では浸水やコロナなど、自分たちではどうしようもない要因で閉館になったことで、住民へのサービスをすべて停止せざるを得なかったことに職員は非常にショックを受けていました。だからこそ当時の坂田博館長は「電子書籍があれば」と痛感されていました。とにかく単独でもと動いていたのですが、そのときに森館長からお話をいただき、このチャンスしかないということで参加をさせていただきました。
 
――佐久市のコスモホールも水害で、同じ建物に入っていた図書館が休館されていましたよね?
 
依田さん 臼田図書館はコスモホールとの複合館で、本体の電気施設が水害に遭ってしまったので休館せざるを得なくなりました。コロナ禍で70%は閉館したという話がありましたが、逆に言うと30%の図書館は開館していたのです。私たちは移動図書館を走らせたり、佐久市立図書館はほぼずっと開け続けていて、逆に「大丈夫なのか?」と心配されていたりしました。そういう中、移住された皆さんから電子図書館のことを聞かれたり、本による情報だけではいられないという社会的な要請も感じたりしていました。とは言え災害やコロナの関係で佐久市だけで電子図書館をやることは財政的、人的な部分でとても難しい。アンケートの結果を見て近隣の図書館さんでも同様に感じられているんだと実感し、ぜひ成功させたいという思いになりました。本当に協働が必要だと思っていました。
 
森さん 図書館は、もともと自治体を越えて本を融通し合う「相互貸借」という仕組みを持っています。県がかかわる場合には、往復あるいは片道の郵送料を県が負担するという形で、連携を支える役割を担っています。同じように電子図書館でも、プラットフォームを県が提供し、その本棚に並べる本を選んだり、住民サービスに直結する部分は市町村さんが担われる。協力しながら各々が自分の役割を果たすというモデルがあり得るんじゃないかと思ったんです。
 
鈴木さん ただ最初のワーキンググループの会議では、「県が提供するのに、なぜ市町村がわざわざ手伝わなければいけないんだ」という意見もありましたね(笑)。
 
――ありそうですね(苦笑)。
 
鈴木さん でもそこからかなり議論をして、まとまってやることになったんです。最初は大紛糾したんですけど、会議を重ねるうちにワーキンググループの参加者もだんだん「あ、違うんだ。自分たちがやりたいことを、一緒にやる話なんだ」とわかってくれた感じでした。
 
森さん そのころ、塩尻市のCDO(最高デジタル責任者)である小澤参事さんが訪ねて来てくださって「とってもいいことをやっているんだけど、どうしても県の事業に見えてしまう。だから主体をはっきりと市町村の側に移すべきだ」とアドバイスをしてくださったんです。
 
藤牧さん 小澤参事は「ながの電子申請」や「住民基本台帳」などの基幹システムをやっていらっしゃった方です。「ながの電子申請」のように全部の自治体が入ってくれたケースもありましたが、そうでない場合もあり、仕事を通してさまざまなご経験がおありだったので気にかけてくださったのかもしれません。
 
清水さん 小澤参事は塩尻市のシステム部門に30年以上いらっしゃるなど、自治体におけるシステムの調達とか導入について日本で一番というくらいノウハウのある方です。このワーキンググループを市町村さんとやっていくときに、電子申請など取りまとめてきた経験もかなり豊富でいらっしゃるので、要所要所でかなり的確な助言をいただいたんです。「県の事業になぜ付き合わなければいけないんだ」という雰囲気が、転換するきっかけになりました。
 
森さん このアイデアが生まれたときからずっと「協力するよ」と言ってくださっていた鈴木館長さんに相談したら、快く議長を引き受けてくださいました。
 
鈴木さん そんなに主要な役割だとは思ってなくて(笑)。市町村の規模も大きくないので、でかい口を叩かない方がいいなくらいの姿勢でいましたから。でも「議長は市町村の方から出した方がいい」という流れで引き受けたわけです。ただ最初はすごく大変で、小澤参事さんからもいろいろ指導していただきました。たとえば、とにかく参加意識を持ってもらうために皆に発言してもらうと会議が非常に成り立ちやすいとか、本当に基本の基本から教わりました。
 
森さん 本当に民主的に皆さんの話を聞きながら進めてくださいましたね。この事業を動かすのは市町村の方々なんだということが、体制としても、議論の進め方としても浸透していったと思います。令和3年8月にワーキンググループができたとき参加団体は32団体でしたが、令和4年2月には76団体になりました。その間にも、県教委とともに市長会や町村会などへも説明に行きました。(公財)長野県市町村振興協会では、「ここまでたくさんの自治体さんが一緒にやろうと言っているのなら、宝くじ助成金の対象にできるんじゃないか」というお話をいただいたんですよね。
 
文平さん 鈴木館長や清水さんに連れていっていただいて初めて市町村振興協会さんにお邪魔しました。先方が電子図書館事業の先進性に注目してくださって、全市町村が参加できる事業に助成をしたいという思いと合致したことで、宝くじの助成金につながったんだと思います。宝くじのおかげで皆が参加できる、皆の図書館になったと思っています。
 
森さん 事業規模を検討する段階で、どのくらいの財源があれば、だれを対象にしたサービスが可能か、文化財・生涯学習課が試算してくれました。先行事例として、広島県による高校生世代を対象にした電子図書館サービスがありました。それを参考にして長野県に適用した場合の規模を試算していたんですが、宝くじ助成金をいただけたおかげで、対象を全年代に広げることができました。皆の図書館といえば、概念図は文平館長さんが描いてくださって、ロゴ作成は学生さんや先生方もかかわってくださいましたよね。
 

「デジとしょ信州」概念図

 
文平さん この概念図は、皆さんに構造をわかっていただくためのものです。「協働」というコンセプトを形にするのに苦労しました。特にロゴでは学生さんや地域の学校にお手伝いいただいて完成させることができ、本当に「協働」の意味を表すことができたのではとうれしく思っています。夏に「Digi田甲子園」にチャレンジさせていただくころには、考え方やそれぞれの図書館の役割などがキャラクター的に描かれ、個性が際立ってきていたかなと思います。
 
 
――「Digi田甲子園」というのがあったんですか?
 
清水さん 全国の市町村のデジタルやDXの取り組みを、都道府県代表として3、4つ出てきて、それを国民によるインターネット投票や有識者の審査によって決めるのが「Digi田甲子園」です。デジとしょ信州は、2022年夏の「Digi田甲子園」にて長野県の代表の事業として出場しました。皆さんで投票を呼びかけていただいたこともあり、全国の取組み中の5位になりました。
 

デジタル庁「デジタルの日」広報ポスター

 

電子図書館とリアルの図書館がうまく連携していくことも大事

そのためにも長野県内の図書館の協働をさらに進めていきたい

 

 

 

――「デジとしょ信州」ができたことから始まる、これからについて一言ずつ紹介していただけますでしょうか?
 
鈴木さん 長野県全体の電子図書館ができたわけですが、全国でも初めての取り組みです。これをきっかけに各県が同じような形で電子図書館を始めて、47都道府県どこでも電子図書館にアクセスできる状況になればこそ、横の協力をして、「公共図書館で登録すれば、だれでも電子図書館を使えるんだよ」という状況になるわけです。じゃあどんな電子図書館がいいのかということを議論する場ができればと思います。それから今は出版社や販売業者の考えや意見が大きい。そうじゃなくて電子図書館の全利用者が、「こんな未来がほしい」という意見を交換して、より良いものにしていきたいと思います。
 
依田さん ベストミックスという言葉がありますが、電子図書館とリアルの図書館がうまく連携していくことを目指したいですね。それから図書館がアウトプットに貢献できるようになるといいなと思っています。そういう意味で情報と利用者さんを、図書館が拠点になってつないでいく、そのためにも今の長野県内の図書館の協働をさらに進めて、いいものにしていきたいです。
 
棟田さん 私は選書という立場でかかわっています。この電子図書館のコンテンツをいかに充実させて、皆さんに利用しやすくしていけるか、これからもしっかり見ていきたいと思っています。また私たちはリアルな図書館で働いていますので、リアルな紙の本の魅力も大事にしつつ、デジタルが必要な場では「デジとしょ信州」をぜひ利用していただきたいと考えています。「紙の本vsデジタルの本」という対立を生まないように、図書館員として「紙もあるしデジタルもあるよ」「いろいろなところでいろいろな形で使ってもらえるよ」と皆さんにお伝えし、さまざまな場面でたくさんの人に使っていただけるような図書館を目指したいですね。
 
平中さん 私はまだ図書館ができたばかりという、経験がない中で活動に参加させていただきましたので、本当に皆さんに助けていただきながらここまでたどりつきました。ただ学校図書館にいたときに、ジャパンナレッジSchool(中高生の学習に役立つ資料を検索・閲覧できる有料のインターネットサービス)のトライアルをやってみて、学校教育の中で使っていける可能性を感じました。そういう点ではデジタル資料はこれからどんどん取り込んでいかなければいけないとは思っていましたので、このプロジェクトに参加できたことは非常にうれしく思っています。電子図書館はまだまだ発展途上で、いろいろなところで「使ってはみたけれども」「もっとコンテンツが」と言われることが多いと思うんです。鈴木館長さんもおっしゃいましたが、出版界の方や、国にうんと目を向けてもらって、もっと改良して利用者の方が満足できるようなものにしていきたいと思っています。
 
藤牧さん 今回、会議を進めていく中で、すべてオンラインでしたけれども、経験豊富な方々がいらっしゃる中で、僕などが生意気なことを言っても受け流したり聞いてくださったり、発言する場をいただけたことはありがたいと思っています。そんなふうに多様な意見を出し合った上にこの電子図書館が形になっている。この皆さんの人間的な素晴らしさがあったからでき上がったのではないかと思っています。
 
文平さん 私は「県立長野図書館と市町村の図書館と公民館図書室の3つは3密なんだ」と思いました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大以降、皆さんとはオンラインのみの会議でしたが、本当に密な1年を過ごした結果、雲の上にあるもう一つの図書館ができたと感慨深く思っています。
 
宮崎さん こんなにも全県の職員が手を携えて、密に連携したプロジェクトはかつてないのではというくらい、非常に大きな財産が築けたと思います。皆さんとは実際にリアルな場で会ったときに旧知の中だったような和やかな雰囲気の中で研修ができたりして、オンラインだけどもつながっていたという気持ちがすごく大きかったです。
 
小澤さん 「デジとしょ信州」は単に図書館が新しいサービス始めたというだけじゃなく、図書館員や教育委員会、情報政策部門の方々、そして教育長や首長などたくさんの方々が「電子図書館って何だろう?」と学ぶところから始まり、さらに自分たちの地域や暮らしにおける図書館の意味を考え、どんな役割があるのか、これからどうなったらいいのかを考える機会になりました。しかも信州全体で考える機会になったことが、非常に意味があったと思っています。こんなに図書館がクローズアップされたことはそうそうありません。誰でも必要な情報にアクセスできる環境を保証すること、電子図書館もその一つの方法にすぎません。しかしそのことに一人ひとりが思いを寄せる機会をつくることは日常業務の中ではなかなか難しい。今回はそれを皆さんでやれたこと、図書館の皆さんの頑張りが「デジとしょ信州」につながったと思います。そういうやりとりの場をつくることも図書館、特に県立図書館の大事な役割だと思います。
 
清水さん 私はこれまで図書館は全然行かない人間でしたが、「デジとしょ信州」が始まってから、電子図書館で本を読ませていただいたりしています。やっぱり便利だなと。今回、「デジとしょ信州」をお手伝いさせていただきましたが、皆さんと濃いつながりができたので、電子書籍以外でも図書館に集まって何かDXの取組をやるときがあれば混ぜていただければとうれしいです。
 
森さん 庶務担当として「縁の下の力持ち」をしてくれている県立長野図書館のスタッフも含めて、本当に全員体制で取り組んできました。サービスはまだ始まったばかりですが、利用統計も清水さんを中心にデータを取りやすいようなツールを開発してくれています。どんな地域のどんな年代の人が使っているのかがわかれば、これからの選書や広報に役立てることができます。そして、皆さんのお話にもありましたが、この協働のムーブメントを、学びや読書文化、出版文化にかかわるさまざまな人たちとの対話へと拡げていければ、もっと素敵な未来が見えてくるのかなと思います。今後の展開に向けては、読書バリアフリーや、学校教育との連携、そして郷土を知るための地域資料を電子書籍で読めるようにしていくことなどに、皆さんで取り組んでいます。
 

「デジとしょ信州」座談会参加メンバー

 
全員 今後の「デジとしょ信州」に、ぜひご期待ください!
 
画像提供:市町村と県による協働電子図書館運営委員会
 
 
デジタルの日・デジタル月間とは?
2021年に創設された、社会全体でデジタルについて定期的に振り返り、体験し、見直す機会として創設された記念日です。
 

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