小林英樹エッセイ「帰ってきた、えんげき先生(6)」〜英雄アキレウスの負傷〜

 負傷したって? 不死身の肉体なのに!
 
 ギリシャ神話に登場する英雄アキレウス。どうして「不死身の肉体」を持っていたのか、どうして「英雄」と言われたのか、まずはそこからお話します。
 
人である王ペレウスと海神ネレウスの娘テティスの間に生まれたアキレウス。父ペレウスは名高き勇者。母テティスは、主神ゼウスや海神ポセイドンに求婚されたほど。
そんな二人の間に生まれたアキレウスに不死身の肉体を与えるため、ステュクスの水にアキレウスを浸します。しかし、この時、テティスがアキレウスの踵をつかんでいたので、踵だけは不死の力を得られなかったようです。
アキレウスは俊足で、卓越した武術の持ち主に育ちます。トロイア戦争では、見事な戦いぶりで、英雄ヘラクレスやオデッセウスに勝るほどであったと言われ、トロイア最強のヘクトールも打倒しました。
 

Thetis dipping Achilles into the River Styx (49219058951)

 
 しかし強くて、足が速くて、不死身の英雄にも死の時が来ます。トロイアの王子が放った一本の矢が、唯一、不死身ではない足首に刺さったんです。これが原因でアキレウスは亡くなります。
 「どんなに強くても弱点がある」ことを意味し、アキレス腱の語源となったんですね。
 
さあ、長い前置きをしましたが、もうお分かりですね。
私、2022年の夏に「アキレス腱断裂」という大怪我に見舞われました。これが大変で大変で、人生で一番ダークな日々。人生で一番弱音を吐いた夏。人生で一番腕の筋力がついた期間でした。
 

まんぼさん(左)と

 
 さて、「小林英樹アキレス腱断裂」そんな話題が全県を駆け巡りもしないあの日。それは7月20日に起きました。軽井沢に拠点を置く「EQ向上委員会」の子ども向けワークショップの講師の仕事のため意気揚々と車を走らせました。「EQ向上委員会」は盟友まり&まんぼが情熱をもって運営している場。演劇共育、演劇教育、ドラマ教育を大切に未来ある子どもたちのために尽力されています。最近はめぐちゃん(西村めぐみ)も講師陣として加わったとか。是非ネットで検索をしてください。っとこの説明もたっくさんしたいですね。また書きます。
 
 飯田から軽井沢への運転は飽きないんですよね。ワクワクで軽井沢に到着。会場も素敵なスタジオ。ポツポツと子どもたちが集まってきます。初対面の子どもたちばかりです。ワークショップが始まる前に子どもたちと戯れる私。遊んでいるようで、私が遊ばれてるんですよね。走る。掴む。叩く。引っ張る。回し蹴りの練習台。ジャンケンする。あっち向いてホイを勝つまでやる。そんな時間がありました。
 

 
 「あ!ごめんね!!」と私が大きな声をあげます。後ろにいる子どもを足で踏んだか、蹴ってしまったんです。けっこう強い力で。
 
 と思っていたその時の私。
 「あ!ごめんね!!」と振り返ってもそこには子どもなんていません。その瞬間に分かりました。
 「あ! やっちゃった!」踵を手で強く押さえ座る私。
 「はい! アキレス腱切りました!」と右手を綺麗にあげた私。 
 
 「ごめん!!」から「断裂」を認識するまで、約3秒。「こ、こ、これがアキレス腱断裂か・・・」。すぐに考えたのが、明日からのたくさん決まっている仕事の数々のこと。「オーマイガッ!」それから、どうやって飯田に帰ろうか・・・ということ。
 

 
 子どもたちは何が起こったのかさっぱり分からない状況。まんぼはクスクス笑う。私も笑いが込み上げてきて。
 だって、ようやくEQ向上員会に来られて、飯田から来て、さっきまでまんぼと楽しくカレー食べて、演劇のことあーだこーだ話して、会場ついて、ウキウキでずっと笑って子どもたちと遊んで、ワークショップ始まる1分前に断裂って! 笑うしかないですよね。このプロセスを知ってれば笑うしかない。当の本人も今後の仕事のこと考えたのは一瞬で、困惑と情けなさが混じった笑いが込み上げて来たんです。あの新しい感情をゲットしたのは収穫でしたね。
 
 さぁ、これからどうしたかは次回に書きます。まぁ、とにかく、まり&まんぼに迷惑をかけ、さらに多くの人を巻き込む「断裂期間」がスタートしたわけです。
 あ、今ですか? なんと歩いています。まだ走れませんが。
 
 

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