[ようこそ、信州へ #022]岡 佐和香(舞踏家)×仲宗根 浩(人形作家)

「きらきら光る花となる」

『きらきら光る花となる』
岡 佐和香×仲宗根 浩

 

ある日、不意に浮かんだ物語に誘われて

伝統芸能が盛んな伊那谷で公演を行う意味を探す

 

ご実家が南信地域と縁がある舞踏家でダンサーの岡佐和香さん。彼女の中に不意に生まれた、夫婦岩の精霊のもとにやってきた幼いたましい、そして少女が里の守り神になるまでの物語を語り、人形、舞、歌、ピアノでつづる舞台『きらきら光る花となる』を伊那市で公演する。南信地区での公演は初めてのこと。日本の伝統芸能への造詣が深く、伊那谷に伝わる伝統芸能や人形芝居、高遠石工に導かれるように決めた本作。本作に登場する人形やお面制作に携わる仲宗根浩さんとともに話を伺った。

 

――岡さんは南信地域にご縁があるんですよね。経歴から教えていただけますか。
 
 父が飯田市、母が泰阜村の出身で、私は県立阿南病院で生まれました。幼いころから、南信地域は芸能が盛んだったことを聞かされていて、芸能やお神楽への憧れや興味があったんです。もともとクラシックバレエをやっていましたが、高校のときにあきらめて、大学で伝統芸能、お祭り的なことを自分もやりたいと思い、神話学や比較宗教学などを学びました。もう一度ダンスをやり直しながら芸能にかかわってみたいと思ったときに、たまたま舞踏家の大野一雄先生に出会って、すごく魂を揺さぶられる経験をしたことで舞踏の面白さに惹かれ、先生に付いていってみようと活動を始めました。後に独立して創作を続けながら今に至ります。
 

岡佐和香

 
――今回の作品を手がける経緯を教えていただけますか。
 
 家族の関係で安曇野に行くことが多くなりまして。安曇野の夫婦道祖神が有名なのは知っていたのですが、いざ行ってみると魅力的でものすごく惹かれたんです。そんなあるとき、私は東京の多摩エリアに住んでいるのですが、公園でうたた寝をしていたら、夫婦岩が女の子を抱いている夢を見て、あるお話が湧いてきたんです。自分でも理由はわからないけれど、多摩と安曇野を行き来したことに意味があるような気がして、安曇野で奉納させていただいたり、多摩エリアでも公演を続けていました。その夫婦道祖神は誰がつくったかを調べると、高遠石工にたどり着いたことで、今度は伊那の文化にも興味を持ち、知り合いが伊那に音楽ホールをつくったこともあり、このタイミングで公演を行うことになったんです。
 物語には「おおかみ(大神)様」が出てきて、華ちゃんは亡くなって霊として存在しているんですけれど、彼女の成長を夫婦岩の精霊、もののけたちと一緒に見守っていくんです。おおかみ様の存在は重要ですが、自分の中ではよくわからなかった。でも自分の中を紐解いていくと、南信エリアの山岳信仰、山の神神に守られている信仰につながっているのかなと今は思っています。
 

猿田彦の面を被る岡さん

 
――仲宗根さん岡さんとはどういう出会いをされてるんですか?
 
仲宗根 今回の会場となる「Artistic Studio LaLaLa INA」のオーナーさんはもともと立川市(東京)でギャラリーをされていて、2018年にお面を中心とした個展を開かせていただきました。そのときに今回も出演されるソプラノ歌手の竹林加寿子さんとライブをやったんです。個展にいらしてくださった岡さんが突然でしたが、僕のお面を被って即興で踊ってくださったのがあまりにも見事で。その展示はマレビトの森、マレビトの神様をテーマにしていたのですが、まさしく神様が降りてきたような心持ちになったのです。そのあと、岡さんから『きらきら光る花となる』の台本を見せていただいて、華ちゃんの人形をつくらせていただいたり、いろいろな方たちとのご縁をいただきました。
 

仲宗根浩

 
――仲宗根さんは日常的にはどういう人形製作をされてるんですか?
 
仲宗根 僕は沖縄生まれですが、沖縄は民話や伝説がすごい多いところ。折口信夫さんなど民俗学の人たちもよく来ていて、僕はそういう文献を見るのが大好きで、20代のころから沖縄の民話を題材に絵を描いたり、物をつくっていました。2018年からお面づくり始めたのですが、岡さんと出会ったのはそのころなんです。
 仲宗根さんからは独学で絵を描き、流木アートをつくり、お面をつくり始めるようになるまでのお話を伺いました。本州だとお面の形がある程度決まっていて、猿田彦と言ったらこうだよねというものがありますが、仲宗根さんのお面は独特なんです。けれど猿田彦の性格や本質的な部分はものすごく捉えていらっしゃる。かつプリミティブな魅力もあって可愛いんです。私は華ちゃんを通して本質的の部分を表現できる方法を探し、5年ほど悩んでいたのですが、仲宗根さんと出会ったことで人形にしようと思ったんです。そして、ひらめきや直感から物事を始める、偶然生まれた形から本質に迫るというやり方で舞台をつくっていきたいと思いました。華ちゃん人形が生まれ、お面が生まれ、いろいろな方に声をかけてとご縁を流れに委ねながら創作していくことで、現在進行形の芸能として自分たちの冒険しているという感じです。
 

「きらきら光る花となる」

 

「きらきら光る花となる」

 

「きらきら光る花となる」

 

――勝手な感想ではありますが、お面や人形に土偶のような魅力を感じます。
 

仲宗根 土偶や土器、当時の模様とか造形は僕も大好きで、そうした縄文期のイメージはものすごく入ってます。沖縄って本州の平安時代ぐらいまでは縄文文化だったんです。こちらでは貝塚時代と言います。たとえば南城市の久高島では土地は誰のものでもない、みんなの共有財産というか、神様の土地という感覚があったりする。先ほど猿田彦の話も出ましたが、宮古島にも猿田彦が出てくる祭りがあって、演じたり祭祀を取り扱っているのは女性なんですよ。そうした文化が今でも続いているんです。

 

華ちゃん人形を持つ岡さん

 
――仲宗根さんのお面や人形は、『きらきら光る花となる』の中でどういうふうに使われるのですか。
 

 舞台では私が華ちゃん人形を操り、そこに語り、歌、ピアノが入ります。でもイメージとしては全員が人形使い、黒子のような役割です。仲宗根さんのお面や人形に、私たち演者がかかわることで、今まで自分たちが当たり前にやってきたことが当たり前じゃなかったり、自分たちに内在する力が引き出されていくなどの展開があって、それを楽しんでいるんです。私に関して言えば、普段は舞踏家として表に出て表現しているのですが、人形劇はやったことはないし、人形師でもありません。だからこそ舞踏家が人形を持って舞うことの意味を問い続けているところがあります。ただ、もともと傀儡(くぐつ)や人形浄瑠璃などが日本の伝統芸能やお祭りのルーツだったりします。そのときお面の裏にいる人はやっぱり黒子なんです。お面が外れて、歌舞伎にも『傀儡師』という演目があって、人形と後ろにいる人間とのつながり、関係性が日本の芸能の中で脈々と続いているような気がします。さらに個人的な話ですが、大野一雄先生が倒れられた後、息子の慶人先生が一雄先生の後ろに立って舞われたんです。慶人先生と何とか一雄先生を立たせようとしたり、稽古のときは私たちが支えたりという大変な時期があったんですよね。そして最終的に慶人先生は一雄先生の指人形で踊るようになった。指人形には本当に一雄先生の魂が降りてきて、動きは一雄先生そもののなんですね。その様子に個人的にはすごく腑に落ちたところがあったんですけれども、舞踏家として人形の後ろで舞うことの原点は、その実体験から来ているように思います。
 
――何か不思議な出会いの積み重ねですね。
 
 そうですね。かつ私が生まれた南信地方は人形芝居がすごく盛ん。そういうルーツが人形とのつながり、神々への信仰とのつながり、そういう芸能的な要素は南信の血を引いているが故に非常に影響を受けている気がします。
 
――じゃあこれを皮切りに南信での公演も続けないといけないですよね。
 

 本当ですね。私自身は、今回をきっかけに南信地方に改めて触れていく一歩にもなると思うし、それによってまた華ちゃんのストーリーもまた深みが増していく気がしています。話はずれますが、新野の雪まつりのお面って南方顔なんです。そこも大好き。よくある神道的なお面ではなく、素朴なお面であることが、お神楽のルーツがニライカナイなどにもつながってるんじゃないかと折口信夫さんもおっしゃっています。今、仲宗根さんにお面をつくっていただいていることにもつながっていて、マレビト信仰を改めて考える機会にもなっています。
仲宗根 最近調べてわかったことですけど、沖縄のエイサーも、県外からやってきた芸能集団、傀儡師の方々が念仏踊りと一緒に人形劇やお面の劇をやったことがルーツなんです。やっぱり北から南までそういう文化があったんだなと興味深かったですね。今、華ちゃんで取り組んだことも改めてそういうつながりがあるんだなと感じています。
 

 
 最初は仲宗根さんに夫婦岩の精霊の絵を描いていただいたんです。たまたま仲宗根さんが描いた戸愚呂の絵が、実は中国の古代神話に登場する女媧(女神)と伏羲(神)と同位置でした。その深層心理的な部分で、私たちの中から何かシンボル的なものが現れることがあるのかもと思いましたね。何もないところからつくっても、シンボルになっていく面白さがこの企画にはあると思っていて、そのことも大事にしたいと思うんです。なぜ夢の中で見たのが夫婦岩だったのかも謎でしたが、女媧と伏羲、夫婦は世の中に調和をもたらすシンボルでもあるんです。そして今の不穏の時代に生まれた物語でもあるので、どうしたら世の中に調和をもたらせられるかも物語のテーマに含まれているような気がします。一つ一つひらめきとか偶然性とかからつくった作品ですが、自分たちの中に既にある本質を、自分たちの中から発していくことを大事にしていく、今の時代だからこそ必要なのかなと思います。
仲宗根 昔の祭りって村人全員でつくっていくものだったじゃないですか。そしてつくっていく過程も祭りだった。『きらきら光る花となる』ではお客様にも一緒にお面づくりをしてもらったり、それを被って見てもらうということもやっていて、一方向じゃない、祭りの形がある。単純に演目を見ていただくだけではなく、一緒に祭りをつくり上げていく形でできたらいいなと思っています。
 芸能の宝庫の長野、特に南信の文化には時代をサバイブしていくためのいろいろなヒントが隠されている気がします。なおかつ高遠石工の存在が日本中でブランド化していて、江戸時代には石工といえば高遠と言われるほどで、500体ほどあると言われる安曇野の夫婦道祖神ほとんどを彼らが手がけたんじゃないかと思うんです。高遠石工は江戸城をつくったり、戦いのために城をつくった時代があったけれども、その技術集団が平和になってつくったものが道祖神や石仏なんです。いろいろなところに全国行脚してそれらをつくった高遠石工たちの祈り、思いがどういうものだったか思いを馳せる機会になるのかなという気もします。きっと楽しんでつくっていたと思うんです。伊那谷にも道祖神だけでも900体もあるそうで、当時の人びとや石工たちの思いがいまだに道祖神や石仏の中に込められ、巷を守っている地であることは、ものすごく素敵だなって思いますし、創造力が触発されます。私たち、外からの者たちなりに発信することで、伊那の文化ってすごいんだなって、改めて思っていただけたらとてもうれしいですし、何か化学反応も起きたら更にうれしいです。

 

「きらきら光る花となる」

 

「きらきら光る花となる」

 

「きらきら光る花となる」

 

「きらきら光る花となる」

 
 

わとびら会第6回公演in伊那谷「きらきら光る花となる」&「謡」Special Live
~夫婦道祖神にまつわるファンタジー童話劇~
■日時:2020年8月27日(土)14:00開演
■会場:Artistic Studio LaLaLa INA
■作・演出・プロデュース:岡佐和香
■共同プロデュース:宮本研
■出演:川瀬 なな子(語り)竹林 加寿子(歌)岡 佐和香(舞・人形遣い)
■スペシャルゲスト:雲龍(磐笛)清水一登(ピアノ)山中 迓晶(能楽)蔵田みどり(歌)
■お面・人形制作:仲宗根浩
■チケット料金:3,000円(小学校生まで無料・要予約)
■チケット予約サイト:https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01cqnasrasd11.html
■問合せ:わとびら会 E-Mail:watobirakai@gmail.com
■開演時間:15:00
 
 
 
 

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