[聞く/entre+voir #029]姫 凛子(本格余興家・本格演芸家)

風と共に去りぬ スカーレット

本格余興家・本格演芸家
姫 凛子

 

普段は気が小さくてテンション低いけれど

いざ舞台に上がればなんでもできる、どうなってもいいと思える

 

上田・犀の角でおなじみとなった『最強の一人芝居フェスティバル INDEPENDENT in 上田』に満を持して、満を持して、長野県が誇る“リーサル・ウェポン”姫凛子が登場する。自称「本格余興家」「本格演芸家」として芸を極めようとしている姫凛子。舞台の上では、宝塚やミュージカルをパロった濃厚なネタで観客の爆笑を誘うが、素の彼女はシャイで、物静かでボソボソと話す。この変わりようの秘密はどこにあるのか? 『椿説 風と共に去りぬ』とはどんな作品なのか?
 
 

 
 

――まずは本格余興家になるまでの道のりを伺いたいと思います。

 

 高校生の時に本当にシアターガイドをすごい熟読している幼なじみがおりまして、その関係で小劇場にハマったんです。大学に入ったときに、早稲田大学の演劇サークルに入りまして――私は早稲田ではなかったんですけど他大学の学生も受け入れてくれていたので――演劇を始めました。それで劇団エレクトラオーバードライブを旗揚げして、

 

――おー。「走るバカインテリ」がキャッチフレーズでしたっけ?

 
 え、ご存知ですか? ひょえ〜。一応、プロを目指していたんですけど、主宰が「もう書けない」ということで劇団は解散し、そこから普通にOLをしながら、いろんなライブハウスとかに出演していました。

 

――そこから姫凛子さんのピンネタを始めたんですか?

 

 一人でやるようになったのは長野県に引っ越してきてからです。ライブハウスでやっていたときは、巻上公一さんのボイス・パフォーマンスのワークショップで知り合った女性3人で活動していました。「プリンのため息♡」というユニットなんですけど、高円寺の円盤という小さいスペースが、それこそ寄席みたいな企画をやっていて、そこに呼んでいただいていたんです。演し物は3人で雑談をしながら決める感じで、本当に突拍子もない小芝居とか、人形浄瑠璃を人間でやる人間瑠璃とか、だいたいお客さんが一瞬ポカーンとするんだけど、なんとなくハマるというようなことをやってました。

 

――姫凛子さんは最近の小劇場にはいない、舞台に立つとタガが外れるというか、自分を捨て去れるところがありますよね。早稲田で言うとカムカムの藤田記子さんとかムニエルの澤田育子さんのような。

 
 行くところまで行っちゃってる感じ(笑)。ムニエルのお手伝いをしていましたし、その世代の方の影響はやっぱり受けてますね。

 
 

孤独な上田生活から抜け出るために考えた『美魔女スナック』

コロナが落ち着いたら一般の方を舞台に上げてやってみたい

 
 

――長野県に引っ越してくるきっかけは?

 
 旦那さんが地域おこし協力隊で上田の丸子地域の担当になったので、それで一緒について来たんです。その前に移住ツアーがあって何回かこちらに足を運んでいたので、上田映劇や犀の角ものぞいていて、地方だからといって文化から完全に離れなくてもいいんだという思いはありました。

 

――旦那様、パフォーマンスを観てハマったんですか?

 

旦那様 趣味で写真をやっていたのですが、余興をやるのを撮らせていただいているうちに、ご縁でだんだん(笑)。

 

――カメラマンがモデルさんと仲良くなるパターンです。

 

一同 ワハハハ!

 
 

宝塚 非言語ミュージカル

 

アトラクションのおかしなお姉さん

 
 

 劇団がなくなった後ずっと何をやったらいいか模索していた時期で、余興もやるしボイスパフォーマンスもやるしみたいな感じで迷走していたんです。でも巻上さんの指導はとても影響があって、とにかく人と違うこと、変なことをやると褒められるので、とにかく人がやらないことを目指してました。そのころは会社のお給料は両方につぎ込んでいましたね。しかも身体も壊してもうボロボロで。正直に言うと小劇場と気持ち的に離れたかったんですよね。すごく好きだった反動で。もっと正直に言うと、自分たちが荒唐無稽な派手なパフォーマンスだったのもあったので、静かな演劇が流行り始めたころの演劇界が面白くなかったんですね。「こんなんだったら演劇はもういいや」って(笑)。もう辞めてやるくらいに思ってたんですけど、やっぱり表現したい気持ちはずっとあったみたいで、なかなか辞められなかったんです。それで巻上さんのもとで学んだり、余興やったり、結果的に自分はエンターテインメントが好きなんだなっていうことを10年くらいかけてやってわかったんです。だから本当に辞めてもいいかなという気持ちのままこっちにも来たんですけど、

 

――犀の角と出会っちゃったわけですね。

 
 はい。半農半Xで暮らしたいと思っていたんです。最初は。こちらでは仕事をしてなかったので、本当につながりもなかったんですね。ちょっと孤立してたときに、協力隊の女子メンバーで何かやろうということで、『美魔女スナック』というイベントをやったんです。犀の角の代表の荒井さんが快諾してくださって。それが一人余興が始まったきっかけです。

 

――僕は『美魔女スナック』は拝見していないのですが、山側のオビナタさんが絶賛してるのは読んでいました。こちらにリンクを張っておきましょう。→こちら

 
 記事にしてくださって、ありがたいことです。『美魔女スナック』も続けてやるつもりだったんですけど、飲食をしながらショーを観せるものだったので、今はコロナがあってできなくなってしまったんです。あと協力隊のヒナコちゃんが任期がきて卒業されたのも止まってしまった理由の一つです。ほぼ彼女と私でやっていたので。ところが犀の角の演劇クラブの方とか、一般の方から美魔女になりたいと志願いただいているんです。普通の方々を板に上げるのも逆に面白いなとは思って、構想しているところです。

 

――ぜひ再開していただきたいですね。

 
 そうですねぇ。犀の角は演劇が好きな方、通な方がいらっしゃいますけど、『美魔女スナック』は、いい意味で敷居を下げた、誰が来ても楽しめるイベントにしたいんです。実際、遊びに来てくれたおじいさんが敬老会か何かに誘ってくれるなんてこともありました。それもコロナで中止になりましたけど。

 
伊藤 一時、別所温泉の旅館でやったらみたいな話が荒井さんから出ていましたよね?

 
 

愛あるヒロイン、スカーレット・オハラが

あらぬ結末を迎える『椿説 風と共に去りぬ』

 
 

 
 
――別所温泉いいかも。期待しています。そろそろ今回の舞台で演出を担当する伊藤茶色さんにも入っていただきましょう。ずっと横にいらっしゃったんですけど。姫さん、板の上では炸裂しているのに、普段は物静かなんですね。

 
 普段はローです。

 
伊藤 いつもテンション低いです。でもそのぶん舞台の上なら何してもいい、みたいな(笑)。

 

――スイッチが入るのはどんな瞬間なんですか?
 
 やっぱり板の上ですね。すごく気が小さいので、照明が落ちて暗くなれば、ここでは何をしてもいい、どうなってもいいと思えるんです。

 
伊藤 板に上がるまではすごく嫌そうなんですよ。「どうしよう」オーラを纏っています。で、そそそそ…って現れた瞬間に「パー!」っとなるので、私も照明卓から見ていて「なんなんだ? この人!」って毎回思いますよ(笑)。

 
 そうね。こんな私がやるようなものでお客様に楽しんでもらえるかな?と常に不安で不安で仕方ないんです。でもいざ幕が上がったらやるしかないからやる、みたいな。

 

――ネタはいくつくらいあるんですか。定番の?
 
 古典で言うと能狂言のネタ、昭和歌謡曲の替え歌のネタ、一人エレクトリカルパレード、フリップを使ったネタもあります。いわば一人大衆演劇です。ただ、橋田壽賀子じゃないですけど人は殺さない、安心安全はすごく心がけてます。あと、むやみに脱がない、肌を見せないとか。

 
伊藤 凛子さんのパフォーマンスは基本的に説明が本当に難しくて、民話や昔話のように誰でも知ってる話を掛け合わせて、なんかどんどんどんどん、とんでもない方向に展開していくんです。お客さんに心の中でツッコミを入れさせるような。それでいて、お客さんを置いてきぼりにはしない。お客さんに対しては実直で、とにかく楽しんでもらおうとしている感じがありますね。

 
 

お面舞踏会

 

ヒーローショーりんご三姉妹

 

替え歌シャンソンショー

 
 

――伊藤さんが演出をやることになった経緯を教えてください。
 

 
 荒井さんに演出家を付けた方がいいと言われたんです。客観性があった方がいいと。それで考えたときに、茶色ちゃんは私の作品のことを理解してくれてるし、照明もできるし、ここ数年いろいろ活動の幅を広げているので、私の荒唐無稽な話をまた違った新しい視点でまとめてくれるかなと思ったんです。

 

――今回はどんなネタになるんですか?
 

 
 『風と共に去りぬ』がヒントになっています。最初は駄洒落から発しています(笑)。ベースの設定は変えずに。歌あり踊りあり、あと講談も。

 

――伊藤さんはどんな演出をしているんですか、こんな去勢されてない人を。
 

伊藤 演出と言っても名ばかりで。私、自分のプロデュース公演で何か言うときは割と設えを気にして、整えちゃうんですよ。小道具はこう使ったほうがいいよ、もう少しスマートにとか。そこを細かく指摘してしまうと凛子さんが面白くなくなってしまうので、自分がお客さんとして見て、とっ散らかり過ぎて置いていかれちゃうかもというときにセンサーを働かせる係です。荒唐無稽であっても本筋がある、何が目的で主人公が動いているのかだけ相談するようにしています。

 

 本当に助かってます。

 

伊藤 あとはそっと存在しています。そして関係ないことを話す係。

 

 一人でやっていると本当に行き詰まるんです。そこを茶色ちゃんが指摘してくれることで「あ、そっか」という気づきになって、脚本を書くというところにつながってます。

 

伊藤 『風と共に去りぬ』を初めて見たんですけど、私がスカーレット・オハラになりたいというくらい、愛のある女性なんですよ。それをこうまでしちゃってるこの人ってやべえなっていう(笑)。そういう作品になっています。

 

 そうですね。基本的には原作のイメージは壊さず、話をブンブン振っていくっていう感じです。こんなご時勢ですけど、たくさんのお客様にご覧いただけたらうれしいです。

 
 

 
 
撮影:安徳“旦那様”希仁
 
 

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