[ようこそ、信州へ #012]松村 武さん(カムカムミニキーナ主宰)

カムカムミニキーナ主宰
松村 武さん

 
 
カムカムミニキーナ『燦燦七銃士〜幕末エクスプレス1867~』が松本にやってくる。劇団主宰の松村武は登山が好きで松本駅に降り立つこともしばしばだったが、2019年、串田和美演出『K.テンペスト』で長期滞在したこともあり、いつかこの地で公演ができることを望んでくれていた。カムカムミニキーナ、燦々七銃士という字面だけ見てもワクワク楽しくなってきはしないか? その作品は、誰もが知っている歴史や伝説をベースにしつつも、言葉遊びを多用することでダイナミックに予想外の展開をして新たな真実を見せていく。笑いも満載、キャラクターの濃い面々が繰り広げる濃厚な世界に、ぜひとも首まで浸かってほしい。
 

志一本で頑張っている劇団ならではの表現の力を見てほしいし

若い子が育っていく劇団というシステムを大事にしていきたい

 

 
 
――旗揚げ30年、もうそんなになるんですね。しかもコロナがやってきたことで、記念公演もヒヤヒヤだったんじゃないですか?
 
松村 もう30年もやっているのかと驚きますね。改めて口にするとすごい年月だと思いますけど、実感としてはあっという間です。僕ら7月に座・高円寺で記念公演第1弾の『猿女のリレー』を上演したんですけど、コロナ禍からの復活のトップランナーみたいな位置付けになりました。今から考えると感染者が少ない時期だったんですよね。稽古開始のころは10人くらいでもう消えてなくなると思っていたら、初日間際に100人くらいになって、やばい、中止になるかもとドキドキしていました。公演が終わったころからまたグーンと増えていったので運が良かったですね。とはいえ、『燦々七銃士』の稽古開始くらいは東京での感染者の平均値が200人くらいなのに、世間の危機感はだんだん薄くなって、恐れなくなってきていた。でもほとんどの演劇人はストイックに飲み屋にも行かないし、僕らは移動もできるだけ自転車を使ったりしてきました。感染対策はそれこそ慎重にやってます。
 
――『燦々七銃士』はアレクサンドル・ デュマの『三銃士』を題材にしています。今までは日本の神話や歴史をベースにすることがほとんどでしたから、なんだかちょっとしたオシャレ感がありました!
 
松村 あはは! オシャレ感!! フランスの小説を題材にしているのは珍しいです。古代の謎をあぶり出すとかいった作品ではないし、これまでと確かに視点も違っています。パンフにも書いたんですけど、『K.テンペスト』でルーマニアのシビウに行って、その直後にこの芝居の概要を決めなければいけなかったんです。シビウでの興奮が残っていて、別に海外で公演をやるわけではないのに、海外の皆さんでもストーリーを知っているものをカムカム風にアレンジするということを1回やってみようと思ったんです。『三銃士』だったら世界中の方が知っているし、海外の方に観てもらうとしたら、どうなるかなと思ったのが発端でした。でもコロナになったり、政治が無茶苦茶だったりで、今の社会に関する視点の割合が増えて、奇々怪々な物語になりました(笑)。
 
 

 
 
――『三銃士』の設定を日本の幕末に見事に置き換えた物語になっています。
 
松村 いつもの荒技ですけどね、幕末の物語にしようと思ったのはコロナ禍の発想でした。そのまんま『三銃士』の世界観をやるのは、今の日本では他人事かもなと思ったんです。コロナだけじゃなくて権力、分断、信頼関係といった問題が日本の中で浮き彫りになってきた中で、幕末に照準を合わせると同じような事態が起きていると感じて、強引に合体させようと思ったんです。だったらルイ13世、リシュリュー枢機卿といったフランスの歴史上の人物とうまくハマりそうな人物はいないかと思って探してみたら、井伊直弼大老を思いついて、あとはパズルのように当てはめていったんです。
 
――ミュージカル『レ・ミゼラブル』などで活躍している内藤大希くん、そんなさわやかな客演さんは珍しいですね。
 
松村 そうでしょ。大希とは彼が今ほどは有名でないころに出会ったんですけど、それが知らぬまに帝劇にも出るスターになっていた。でも久しぶりに会ったら昔のまま気さくな若者で、ダメもとでオファーをしてみたらスケジュールが空いていたんです。コロナの前の話です。主役のダルタニャンという役は、彼が出演するという前提で最初から人気のある若者をイメージして書いた役です。若い俳優をベテラン50代の俳優3人が支えるという構図も最初から考えていて。大希はうちのようなテンションの高い集団芝居は初めてだし、僕らも怖々な部分があったんですけど、すごくハマって、彼自身も前向きに楽しんでやってくれています。大希はこの作品のMVPかもしれません。そのくらいいい芝居をしている。そのまま存在してくれているだけでキラキラしていますよね。僕ら50代の役者はいろんな技術を持っていますけど、キラキラということに関してはまったく敵わない。今までのカムカムではそういう役者を出していないから新鮮だし、逆にベテランたちが支えている構造が見事に際立ち、調和してます。
 
 

 
 
――八嶋さんが女形をやられているのも新鮮でした。
 
松村 この芝居自体が、劇中劇のような構造になっていて、芝居を職業にしていて、すごく人気があるという役どころを八嶋にはになってもらっています。当時のエンタメみたいなものを背負ってるんですけど、こんなことでいいのだろうかという葛藤があり、違うチャレンジをしようとする。劇団とのつながりによって自分のアイデンティティを確立しようとする八嶋本人に非常に近い設定だから、やりにくそうにしていますよ(笑)。確かにその姿も新鮮ですね。
 
――松村さん、八嶋さんを筆頭に、去勢されていない役者さんたちがいっぱい出てくるところは松本のお客様には驚きかもしれません。
 
松村 あはははは! 原石ってことですよね? 僕はこなれたものに侵食された役者が好きじゃないんです。だからどうしても原石むき出しみたいなオンリーワンの人ばかりになってしまう。そういう意味でそれぞれが平等です。他の人と比べてセリフや出番が多い少ないとか考えるような人は付いてこられない。もう平気で稽古しながら役もコロコロ変わるしし、みんなで動くところは誰でもいいんだというスタンスでやっています。全員で1点を取りにいくみたいな集団なので、個人の実績みたいなものには重きを置かないんですよね。
 
――そういう意味では劇団力をすごく感じる要素として、ロールプレイングゲームのように変わり続ける場面転換、スピーディな転換は見どころです。
 
松村 舞台裏はすごいですよ。そのシビアさは劇団史上3本の指に入ります。全員が2時間15分、何らかの役割をしていますから、座って一息つくような瞬間がありません。通路中に道具が置いてあり、本当に一本道で動いていますから誰かがぼうっと立っているとすべてが止まってしまう。全編にわたって、誰がどこにいるかを固めています。そうしないと芝居が流れなくなるんです。しかも舞台より舞台裏で全力疾走しているんで危ないんですよ。早替えも上手へ下手へとものすごい勢いで一本道でと交差しています。これは、まつもと市民芸術館に行くと少しは舞台裏が広いので楽になると思うんですけどね。そういう意味では松本のお客様には珍しいものを見たように感じてもらえると思いますね。僕らみたいなことを追求している劇団は東京でもあまりないですから。
 
――劇団でないとできない作業ですよね。
 
松村 ね。やっぱり劇団という文化の強みだと思います。そしてコロナ禍のような非常時にこそ、その力は発揮されますよね。プロデューサーを中心につくる大きな資本の舞台は逆に今回のような非常時に弱い。劇団は志一本でやっていたりするから、こういう時に妥協せず動けたり、混迷の社会に合わせるような作品をつくれたり、劇団ならではの表現の力だなって思います。劇団という形態が滅びつつある現代なので、何とか、もう一回流行らせたいなあって思います。若い子が育っていく劇団というシステムを僕らは推していきたいです。
 
 

 
 
――待望の松本公演です。改めて意気込みをお聞かせください。
 
松村 劇団員をなんとか、この素晴らしい松本に連れてきたいということで、平日の昼という公演ではありますが、なんとか実現することができました。みんな松本を楽しみにしているんですけど、残念なのは食べ歩きができないことなんです。それこそ僕が『K.テンペスト』でお世話になったいろんなお店を案内したいのにそれができない。それはともかく、なかなか松本では見られない類の芝居、ジャンルのものです。串田さんの芝居ともひと味、ふた味違う、30年培ってきた集団芝居です。初めて見ていただくことが僕らも楽しみです。
 
――藤田記子さんという最強の女優さんを観られないもは残念です
 
松村 good morning N°5という藤田が主宰するチームの公演が被っているんですよ。去勢していないという意味では、松本で見せたかった女優ではあります。今回はチケットの売れ行きも良かったし、評判も良ければ遠からずまた松本に呼んでいただけると信じて思いますから、次の目玉としては藤田を連れてきたいですね。そのためにもお客様の心をしっかりつかんでおきたいし、必ずやつかみます。楽しみにしていてください。
 
 

 
 

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