[聞く/entre+voir #024]平岩なつみ(AMAZING FUKUSHI FESTA実行委員会代表/福祉KtoY代表)

AMAZING FUKUSHI FESTA実行委員会代表/福祉KtoY代表
平岩 なつみ

 

「福祉」とは「”ふ”だんの・”く”らしの・”し”あわせ」だと気づくこと

そうしたメッセージをさまざまなイベントを通して伝えていきます

 

ここ数年、東京オリンピック・パラリンピックの流れもあって、福祉を具体的に取材する機会が増えてきたし、自分自身の意識の中でも膨らんできた。私と福祉の間には文化芸術というブリッジがあって、さまざまな取り組み、個性あふれる方々との出会いはさらにそれを促進させてくれている。そんな中、常に話題を振りまいている金沢21世紀美術館で行われる『AMAZING FUKUSHI FESTA』の情報に出会う。しかも、企画しているのが伊那市出身の方だった。8月9日と9月13日に開催するということで、8月のイベントをオンラインでのぞかせていただき、9月開催を前にインタビューさせていただくことにした。
 
 

 
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――平岩さんが、福祉に興味を持ったり、お仕事として意識し始めたきっかけから教えていただけますか。

 

平岩 祖父が認知症だったんです。それで母が在宅介護している様子を見たり、デイサービスに行ったりとか、施設に入った祖父に会いに行ったり。今は施設に一緒に出かけていた祖母も認知症になってしまっているんです。幼いころから、認知症になることで忘れられてしまうのは悲しいなって、認知症をなんとかできないのかなって思っていたんです。もう一つ、家系的に言えば母も私も認知症になるかもしれませんよね。でも私は文系だし、理系の勉強を極めて認知症を治すということは難しいなあ、でも予防ならできるかな、だったら福祉かなと考えたのが大きなきっかけです。その思いは、福祉や認知症について学んだことで、今は認知症になっても安心して暮らせる社会をつくる方に考え方をシフトしています。

 

――大学から、福祉の道を選んだわけですね?

 
平岩 そうです。まず国立大学で福祉が学べるところを探してみたのですが、すごく少ない。その時に違和感や課題感を持ったんです。これから高齢化が進むなか、福祉という分野がますます必要とされるのは明らかなのに、勉強したいと思った時に学べる場所がこんなに少ないのかと。専門的には極められるのかもしれないけど、幅広い視野に触れられるのが国立大学の、総合大学の魅力だと思うんです。総合大学では福祉は重要視されていないんだなというのが当時の感想でした。もちろん深く調べれば学べるところはいろいろあったかもしれないけれど、具体的なキーワードで検索できないと発見が難しいですよね。東大、京大など厚労省を目指すような方が行かれる大学に、そういう学部がないのはショックでした。
 それで私は、まちづくりのことも、福祉も学べる金沢大学人間社会学域地域創造学類福祉マネジメントコースに進みました。なかなか珍しいなと思って。改めて学んでみると、福祉ってめちゃめちゃまちづくりなんですよね。

 
――どういうことを学んだのですか?

 

平岩 社会福祉士の受験資格が得られるカリキュラムですとか、相談援助に必要な姿勢とか、社会保障、障害者福祉、高齢者福祉、児童福祉などの制度や事例などを学ぶ機会もありました。最初は高齢者福祉や認知症に興味を持って入学したんですけど、福祉ってこんなに幅広いんだとか、福祉=介護ではなくて、誰でもかかわるもので対象にならない人はいないんだということに出会うんですよね。そういうイメージが世の中にはないじゃないですか。だったら福祉が身近に感じられるようしたいと思い、学生時代は福祉KtoYという団体を立ち上げて活動していました。
 
 

デイサービス時代の平岩さん

 
 
――すぐに長野に帰ってくるとかではなくて、『AMAZING FUKUSHI FESTA』などイベントを開催するといった面白い方向に進まれたわけですね。

 
平岩 本当はすぐに帰るつもりだったんですけど、いろんなご縁をつくりすぎました(笑)。それで大学時代にお世話になった金沢の皆さんに恩返しをしてから地元に戻りたいと考え、金沢での就職を決めたんです。『AMAZING FUKUSHI FESTA』は、自分が参加したくなる福祉の就活イベントを立ち上げてみようと思ったのがきっかけです。行政の福祉就活イベントに参加したら殺風景で人も集まっていなくて。もっとなんとかならないのかなと思い、そこでイベントを手がけてみようと思いました。ただ就活と銘打つと、かかわる人が限定的になってしまうので、福祉に興味がない人には福祉のことを知ってもらう、福祉に興味がある人には就職選択に福祉を入れてもらう、福祉従事者の方には日々の業務改善からモチベーションアップにつなげてもらうというような理想があったんですけど、それすべてをやりきるのがすごく大変。試行錯誤するなかで、今回は4回目になりますが、福祉に興味がない人に興味を持ってもらうというテーマをより重要視するようになりました。就活イベントの要素は新たに医療・福祉系の学生と卒業生がつながれるコミュニティを立ち上げて、『WelCaMe Match』というスカウト型医療福祉系就活イベントを企画しています。

 
 

今年で4回目を迎える『AMAZING FUKUSHI FESTA』は

自分が参加したくなる福祉の就活イベントを立ち上げてみようと思ったのが最初

福祉に興味がない人に興味を持っていただけることを目指しています

 
 
――金沢21世紀美術館で福祉イベントを開催するというのは斬新だと思いますし、うれしいなあと思ったんです。

 
平岩 斬新かどうかはわかりませんが(笑)、ここを使って開催することに意味があるというか。と言うのは、ふらっと気軽に来られる場所がいいなと思っていたので、誰もが知っている施設を選びたかったんです。昨年、金沢21世紀美術館を市民が使うことができる「まるびぃArt-complex」という事業があることを知って、絶対にここでやりたいと思ったんです。

 

――美術館でやるということで、何か作戦はあるんですか?

 

平岩 9月13日はオンラインでの企画が1日を通して行うのと、会場ではプロジェクションアートの企画、STICKTOKという杖を使ったダンスパフォーマンス、人生すごろくなどを予定しています。
 オンラインでは、やはり美術館で開催するので、「福祉×アート」の可能性を入れ込みたくて、プロジェクションアートを企画してくださったNPO法人 Next Seeds代表の釜澤史明さん、「異彩を、放て。」をミッションに掲げて知的障害の方のアートをおしゃれなアイテムにして販売しているHERALBONY代表の松田崇也さんをゲストにお迎えしてトークを行います。そういうところから福祉のイメージが変わっていく可能性もあると思うんですね。
 『プロジェクションアート』は、プロジェクションと若年性認知症当事者のナレーションを組み合わせて、その発症から受容までの心情変化やその症状を表現したものになります。
 『人生すごろく』は、私たちが開発した、プロトタイプではあるんですけど福祉について遊びながら学べるツールです。これは1日中遊べるようになっています。人生すごろくはニーズはあると感じているので、今後いろんなパターンのものを商品化して、教育の現場など多くの人の手に届くようにしたいと考えています。ただすごろくで遊ぶだけではなく、VRで認知症体験するとか、最新のテクノロジーと掛け合わせることで興味を持ってもらうとか、いろいろアイデアもあります。

 
 

 
 

 『STICKTOK』は、病気や障害があっても自己実現を目指せる社会をつくるを理念に医療介護福祉職、学生が主体となり、杖を使ったダンスパフォーマンス、高齢者向けダンスエクササイズ動画配信サービスを提供している団体さんです。発起人である理学療法士の森友美さんがギランバレー症候群を患い、旅行先や通院中に杖を持っていた時に投げかけられた「かわいそう」「そんなものを持っているからいつまでたっても歩けるようにならんのだ」という言葉がすごくショックだったということから生まれました。杖を持っていても、病気や障害があっても、それが当たり前に受け入れられる社会になってほしいという思いが込められています。当日は、STICKTOKの想いを杖ダンスパフォーマンスに載せて披露していただき、当日客席やご自宅、東京会場の地域密着型デイサービス&コミュニティカフェ「キーステーション」で参加していただける方々と一緒にダンスエクササイズをして楽しんでいただきます。
 
 

 
 
 
 スケッチブックに自分の将来の夢を書いていただいて、それを撮影してモザイクアートにする『みんなでつくろう 参加型アート』というイベントもあります。
 『FUKUSHIRU』は、福祉について知りたいけれど、よくわからないという人たち向けの企画です。福祉の問題というのは家族の問題になりがちです。一般の方にとっては宇宙のように遠い存在である「福祉」をコンビニくらい身近に感じてもらえたらと、一から学生さんが考えてくれました。「サザ〇さん」になぞらえ、「磯〇家」の大黒柱である「波〇さん」が若年性認知症になってしまったところからストーリーは始まり、「磯〇家」ファミリーの役に参加者一人ひとりがなりきり、それぞれの困りごとを考えながら家族会議を開くというロールプレイングを行います。
 『フューチャーセッション』は毎年やっているんですけど、今回のイベントのテーマ「誰もが生き生きと暮らせる社会をつくる」とはどういうことかを考え、グループの皆さんの好きなもの同士を掛け合わせて、アイデアを形にしていくワークショップを行います。私たちはイベントをイベントで終わらせないことを大事にしています。

 
 

 
 

――平岩さんが目指す社会の理想像を改めて教えてください。

 
平岩 先ほどのイベントのテーマにもつながり、福祉KtoYの長期ビジョンにもなるんですが、「誰もが安心していきいきと暮らせる社会をつくる」ということですね。家族が病気になった、生まれた子どもが障害を抱えている、ひとり親になって生活に困っているなどの方々は、よくよく周りを見回すとたくさんいらっしゃる。それを家族の問題に留めてしまうのではなく、頼りにできる人が多ければ多いほど、孤立しないでいられる。たとえば介護心中などの問題もありますが、もっと前に手を差し伸べることができると思うんです。福祉が身近になる、自然と手を差し伸べられる人が多くなればなるほど、困っている人が孤立せずに安心して生活ができたり、自分らしく働けたり、社会に役割を持って生活ができたりといったことにつながります。だれもが福祉を身近に捉えられるようになること、「福祉」とは「”ふ”だんの・”く”らしの・”し”あわせ」だと気づくことが、「誰もが安心していきいきと暮らせる社会をつくる」ことのきっかけになると思っていて、そういうメッセージをイベントを通して伝えられたらなって思っています。
 そして私自身も今やっている活動を仕事にしたいと思っています。自分が生計を立てられるようになることで、福祉業界を目指そうとか、福祉の現場で働く皆さんをサポートしてみようといった人びとを増やせればいいなあと思っています。いつか、長野県でもこうしたイベントを開催できるとうれしいです。

 

昨年のAFFでの平岩さん

 
 

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