「長野県信濃美術館」内覧会レポート

 2021年4月のリニューアルオープンに向けて工事が進んでいる長野県信濃美術館本館の内覧会が、8月19日、報道関係者を対象に行われました。白いヘルメットをかぶった記者さんたちは、設計・監理の宮崎浩氏(株式会社プランツアソシエイツ)の案内で、段階が内装工事に移っている中、館内や屋上などをひと通り見学させていただきました。

 

 

 
 
 長野県信濃美術館は、全面改築のため2018年に解体され、2019年4月から建物の工事が進められてきました(東山魁夷館は先行して開館)。地下1階・地上3階建てで延べ床面積はおよそ1万平方メートルになります。
 建築の基本コンセプトとして、①美術館の建物が突出することなく、周辺の風景に溶け込むことを目指した「ランドスケープ・ミュージアム」、②高低差のある地形を生かして公園や道路と各階を接続することで水平移動のみで入館できる「ユニバーサルデザイン〈3つのレベル〉」、③公園のように誰もが気軽に憩い、アートを楽しめる多目的なスペースを充実させた「屋根のある公園」を掲げています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮崎さんは「善光寺や城山公園の中の一つの施設として、風景の中の美術館になることを目指しています。それをランドスケープ・ミュージアムという表現をしています。1万平米を超す面積が、2階建ての中に収まっています。それは周囲の建築物などの高さとの関係を考慮してのことです。また県の施設、市の施設というように管理者の境界が施設の境界にならないよう、公園の中の美術館という位置付けを目指しています。
 現在の出来高は70パーセントになっていますが、言ってみれば、これからが本番です。すでに骨格はできていますが、美術館本来の仕上げは今年いっぱいかけて行います。周辺の景観も重要で、別の場所で周囲に植える植物も並行して育てています。建物ができたことによって、実際に風景の中で見たときにどうしても修正点が出てくる。それは建物の宿命ですが、そういった作業も含めて来年の3月完成予定で進めています。
 美術館というと、どうしても敷居が高くなりがちですが、気軽に使ってもらえる施設を目指しています。そのためかなりのゾーンが無料で入れるようになっています。展示を見るときに初めてチケットが必要になるような形で、美術館に入ることには料金が発生しない。何より県民の皆様に利用していただくのが一番だと考えています」と語りました。

 

 

 敷地内の別の場所では、世界を旅しながらその土地土地で出会う人びとと石を一緒に磨きハート型につくりあげるプロジェクトを行なっているアーティストの富長敦也さんが、お一人で、昨年8月に掘り出された3つの巨石を電動ヤスリなどを使って磨いていました。これは「ラヴ・ストーン・プロジェクト」と銘打った企画で、表面を磨いた状態で新美術館前に設置し、来館者とともにさらに紙やすりで輝かせるというもの。富長さんの作業はいわばその下準備。

 

 

 

 

 
 「この土地の地下6、7メートルから、6〜8トンの石が3つ出てきたそうです。私は2014年から世界150カ所に自分が掘ったハート型の石なんですけども、それを持っていって、その土地で出会った人とヤスリで石を光らせるという活動をしています。信濃美術館の学芸員さんが私の活動を見つけてくださって、長野の皆さんと一緒に、この石のプロジェクトをできるんじゃないかとお声がけいただきました。今まではハートの形をつくってきましたが、今回は石そのものを加工せずに、皮だけをむいて、オープンとともに皆さんと磨く作業をしていきたいと考えています。少し硬い石ですが、7段階のヤスリをかけていけば必ず輝かせることができます。今やっている、石がなめらかになるという行為は、山の石が海辺に旅して行くのと同じだと思うんです。つまり風や水の流れにしかできない。作業を一緒にやっていただくことで、皆さんに自分たちも自然の一部なんだということを共感してもらえたら」(富長さん)