【今だからこそ文化芸術を語ろう】『COLORFUL, VIVID, 19 ARTISTS』大谷典子×田嶋健

『COLORFUL, VIVID, 19 ARTISTS』
大谷典子(元麻布ギャラリー佐久平)×田嶋健(版画家)

 

新型コロナウイルスは私たちの暮らしから「色」を奪い去った

「色」がなくなっていくと、人間は弱ってしまう

だからこそギャラリーを再開するときは、カラフルな作品の展覧会をやりたかった

 

北陸新幹線佐久平駅浅間口を降りると、東横インホテルがある。その1階にある元麻布ギャラリー佐久平は、東横インホテルグループの文化支援事業の一環で運営されているギャラリーだ。コロナ禍で地域の高校美術部の合同展などが中止になるなか、『COLORFUL, VIVID, 19 ARTISTS』展をもって営業を再開した。そこに込めた思いとは。ギャラリーを運営する大谷典子さん、展示に参加する版画家・田嶋健さんの対談をお届けしよう。

 
 

 

COLORFUL, VIVID, 19 ARTISTS
日程|2020.7/14(火)〜8/2(日)
会場|元麻布ギャラリー佐久平
参加作家|今井あみ・岩橋竜治・カミジョウミカ・小林冴子・ワタリ・佐々木良太・志賀直美・須藤友丹・たかはしびわ・田嶋健・土屋裕香・ナカムラジン・ハナサトミツキ・疋田義明・福あゆ美・前澤妙子・森泉智哉・山本晃代・Fumihiko Oki Photography
開館時間|11:00〜19:00
休館日|7月17日(金)、22日(水)、27日(月)、31日(金)
問合せ|元麻布ギャラリー佐久平 Tel.0267-67-5564

 
 

――この企画への参加を呼びかけたとき、作家の皆さんの反応はいかがでしたか?

 

大谷 「展示の機会をつくってくれてありがとう」という声が多かったんですけど、その中で「こんなときだからこそ描いて見せたい」とおっしゃってくださったのが田嶋さんだったんです。

 

田嶋 この企画はいい意味で攻めているし、この時期にしかできない話題性がある。そしてうまいネーミングですよね、『COLORFUL, VIVID, 19 ARTISTS』って。

 

大谷 ステイホーム期間に、私はずっとCNNで海外の様子を見ていたんです。日本は緊急事態宣言でしたけど、海外はロックダウンで外に出ちゃダメ、それこそ外に出たら罰金を取られるとか、非常に厳しいわけです。ニューヨークやロンドン、パリなど大都市の、誰もいない様子を見たときに、色がないなあと思ったんですよ。ビルや看板にはもちろん色はあるのに、全体としてはグレーに見える。人間が歩いていないというだけでこれほどまでに色がなくなって、街の風景が全然違って見えるものなんだと思ったんですよ。

 

田嶋 その感覚はすごくわかります。

 
 

大谷典子さん

 
 

大谷 海外では新型コロナ・ウイルスを略してCOVID-19とよく呼んでますが、これを展覧会のタイトルに使いたいと思っていたんですよ。『COVID』と『VIVID』の響きが似てるし、『COLORFUL』と『VIVID』をつなげればポップな感じになる。この時期、暇だからいろいろ考えている中で、美術は不要不急なのかとか考えたりもしましたが、私は作品や色のあるものを見ないと弱っていくから不要じゃないなって。だったらギャラリーを再開するときは、カラフルな作品を集めた展覧会をやりたいと思ったんです。とは言え急に思いついたのと、この時期に展覧会名にコロナを意味する単語が入っていることで、不謹慎だとおっしゃる方が出てくるだろうなとすごく迷ったんです。

 

田嶋 その気持ちはすごくわかる。大谷さんが「参加していただけませんか」と案内をくれた文章もすごく思いが伝わってきたんですよ。

 

大谷 そう言っていただけるとありがたいです。そんな状況でしたから、作家さんたちが参加すると言ってくれたときはうれしかったですし、負担をかけないように旧作でもいいですよとお願いしたのに新作を描いてくれた人が多くて、その意気込みはありがたかったですね。そのなかでも田嶋さんの言葉には元気づけられましたね。

 

田嶋 いえいえ、僕も描かなきゃって思いました。2020年の今じゃないと表現できないものがありますから、非常に描きがいがあります。ただ作品について順序よく丁寧に説明しないと、コロナよりも自粛警察、コロナ警察が怖かった。それで作品への思いをしたためた文章をつけたんです。

 

大谷 私もこのタイトルにした意味をしっかり説明し、発信しないと「単にコロナって言いたかったんでしょ」と捉えられたら困る。アートに興味がある方だったら、こういう時期だからこその企画だと考えてくれるでしょうけれど、興味のない方には「コロナをダシにして」みたいに思われてしまうかもしれない。そういう意味でも、こういう企画はきっと大きな美術館ではなかなかできないんじゃないかな。

 

田嶋 いや、難しいでしょうね。

 

大谷 小さなところだからこそできること、機動力を見せたいですね。

 
 

 

 
 

アーティストさんはこんな時でも自分を表現するパワーがある

この展示で文化芸術が存在する必要はあるのだと改めて実感した

 
 

――東横インホテルグループが運営するギャラリーですから、親会社さんの理解があったということですよね?

 

大谷 私が企画するのと同時期に、本社からもギャラリーの売り上げを医療従事者はじめ新型コロナ・ウイルス感染拡大防止のために日々尽力されている方へ寄付させていただく企画を考えるようにという通達があったんです。なので、この企画をそういった展覧会にするということで開催させてもらえました。本社のホテルも、東京では軽度の陽性の方を受け入れたりしていたからこその企画です。寄付の行き先はこれから検討しますが、コロナの現場で奮闘している医療関係者を応援するために、今のところ「国境なき医師団」を考えています。

 

――その理解はうれしいですね。

 

大谷 はい。うちのギャラリーは東横インホテルグループの社会貢献部門としてのギャラリーで、芸術関係を支援するメセナ活動を行なっているんです。芸術、美術は不要不急なのかという話にもつながるんですけど、会社の経営が苦しくなると、最初にカットされてしまう部門かもしれないから、私もステイホーム期間中にこのまま無職になってしまうかもという不安もあったんですが、コロナ禍でもなんとか継続してやっていけるみたいですし、本社の方からもそういう企画をと言ってもらえました。だから、再開するのにふさわしい展覧会になると思っています。参加をお願いしたのも、カラフルで、ヴィヴィッドで、元気になれるような作品をつくり出せる作家さんたちですから。

 

――不要不急という言葉が出ました。これから美術館やギャラリーのあり方も変わってくるでしょうね。そんななかだからこそ、やはりアートの力を信じたいんです。

 

大谷 最近美術館の学芸員さんなどと話していると、これまで展覧会には集客をしようと努力をしてきたのに、今は人が集まらないように企画しなくてはならないという話が出ます。集客のためにワークショップをやりましょう、講演会をやりましょうと、展覧会以外のイベントをひねり出していたのに、人が集まってはいけないので、それに対応した企画を考えなければいけない。展示の仕方も、人が密集しないようにしなければいけません。今までは有名な作家の作品展だと、密集した鑑賞者がベルトコンベアのように通り過ぎながら見るなんてことがあったけれど、これからそれはできないんですよね。
 
田嶋 僕は美術以外の仕事もしているので、今は経済的な心配はせずにつくりたいものをつくっているんですけど、制作は精神的なライフラインではありますよね。
 
大谷 それも重要だと思います。作り手にはそれがないと生きていけないという人はいっぱいいると思う。
 
 

田嶋健さん

 

田嶋さんの作品

 
 
田嶋 僕は縁起がいいものを積極的に描いているんです。美術大学に行っても何を描いていいかわからなくて、昔から受け継がれている神様を描いてみたいと思ったのと、博物館に出かけるようになって脈々と流れていくものに対して自分がどうありたいのかを常に感じながら制作をしています。恵比寿様とか、大黒様とか、人びとの願いというところで美術的なものが民俗学にもかかわっているのが面白いですよ。コロナ禍で、アマビエもそうですが、昔の疫病関係の資料を見ていると僕の制作ともつながりがある感じがしました。今回は不動明王が縄でコロナ菌を縛り上げたり、コロナ菌をビームでやっつけたり、非常にわかりやすく描きました。今でしかできない仕事という意味では記録的な側面がありますよね。今、直接的な力になるかどうかはわかりませんが、この時代にこういうことがあったという表現があることで歴史になるわけですから。
 
大谷 田嶋さんはその時々のものを取り入れてますよね。原発のときも描いていた。
 
田嶋 ああ、モノクロの四角い箱の絵ですね。コロナ菌を顕微鏡で見たイメージが共有されているじゃないですか。今回それを絵にしたとき、カミさんが「ぶつぶつがあって気持ち悪い」と言ったんですよ。気持ち悪いものを退治するのは物語としては成り立つけど、見たくないという気持ちにさせてしまうのはどうかと思い、じゃあちょっとかわいらしく描いてみようかと。それでコロナ菌がアマビエの形になったりとか描いてみたんだけど、不謹慎と言われそうじゃないですか。だけどネットで、昔は菌が自分のところにきたときは、それを丁寧にお迎えして早めに出ていってもらえるように促したという記事を読んで、僕がかわいらしく描きたいと考えたのもあながち間違ってないのかなと。

 

大谷 日本には、怖かったりよくわからないものは丁重にお迎えして仲間にするといった文化があるんですね。
 
田嶋 不良に絡まれたときに、やだなあと思いながら愛想笑いするのに似てる。つまり、ただ退治するだけではなく、敵対しないでスルーさせていくのは、ある種の知恵ですよね。
 

――最後に大谷さん、作品が集まってきてどんな思いになられましたか?

 
大谷 アーティストさんはこんな時でも自分を表現するというパワーがあるなと改めて感じています。私は集まってきた作品を見てようやく力が湧いてきました。自分自身の気持ちが弱っていたことで、本当にこの仕事は必要なのかなって思うこともありました。でも作品を展示してお見せする立場の私自身が作品を見て元気になれたことからも、文化芸術が存在する必要はあるんだなと改めて実感しましたね。今回は色の力で、みんな元気になってもらえると思います。
 
 

 

 
 

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