[聞く/entre+voir #023]塚本 かな恵さん(「長野県信濃美術館」学芸課学芸専門員)

「長野県信濃美術館」学芸課学芸専門員
塚本 かな恵さん

 
 

人とアートをつなぎ、アートを通していろいろな人びとが出会い

対話が生まれるような場をつくること

そうした活動を通して「みんなが楽しめる美術館」を目指します

 
 

来年春にリニューアルオープン予定の長野県信濃美術館。その建物の外観が人目に触れるようになったり、パリ・コレクション参加のデザイナー・黒河内真衣子氏が制服デザインを手がけることが発表されたり、具体的な話題が提供され始めワクワク感が高まっている。現在募集している「アート・コミュニケータ」も、そんな新美術館の新たな取り組みの一つ。「アート・コミュニケータ」とは聞き慣れない名称かもしれない。「なんだろう?」と応募に踏み出せないでいる皆さん、この記事を読んで「やりたい!」と思ったら応募してみてはいかがだろう。教育普及を担当する学芸専門員の塚本かな恵さんに話を聞いた。

 
 

 
 

――信濃美術館の整備に関する理念に“作品を作る人(芸術家)、見せる人(美術館員)、観る人(来館者)など、美術館に関わるあらゆる「人」を中心に捉えた運営”があります。「アート・コミュニケータ」もその理念に沿った、新たな取り組みになるのでしょうか?

 

塚本 旧信濃美術館では友の会と、イベントごとに募集するボランティアという形で県民の方々に美術館の活動にかかわっていただいていました。「アート・コミュニケータ」は旧来の友の会やボランティアとはまったく違う、新たな県民参加の形を目指しています。「ボランティア」という名称からイメージされる制限、やれることの範囲の狭さをなくしたいという思いがあって、「アート・コミュニケータ」という名称を使っています。一言で説明するのはとても難しいのですが、新しい美術館を拠点として、作品を見ること以外のかかわり方ができる人たちであり、美術館のスタッフとともに美術館をつくりあげていく方々と考えています。

 

――全国的にもそうした取り組みが進みつつあるのでしょうか。
 

塚本 アート・コミュニケータは東京都美術館が2012年にリニューアルしたときに始めた取り組みです。都美術館では「とびラー」という愛称のアート・コミュニケータが、美術館を拠点にさまざまな文化活動を行なっています。都美術館の事業は東京藝術大学と一緒に行なっている大きなプロジェクトで、美術館という枠を飛び越えて、社会に出て活躍する人材を多く輩出しているそうです。また、藝大の美術学部長でアーティストの日比野克彦さんが岐阜県美術館の館長を務められているつながりもあって、岐阜県美術館でも2019年からアート・コミュニケータの事業が行われています。
ほかにも、北海道の札幌文化芸術交流センター SCARTSは、2018年よりアート・コミュニケータ事業に取り組んでおり、さまざまな世代の方が活動しています。また、茨城県取手市の取手アートプロジェクトでもアート・コミュニケータが募集になったり、令和3年の開館を予定している青森県の八戸新美術館や、山口県の宇部市でも、取り組みが始まろうとしています。
アート・コミュニケータの取り組みがさまざまな施設で採用されることで、市民や県民が参加するという形の開かれた場所になるという考え方が広まり、美術館や文化施設の新しい形が見えてきました。

 
 

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信濃美術館「アート・コミュニケータ」はこんな活動をしていきます。
(1)美術館の「あんなところ」「こんなところ」へ来館者をご案内。
(2)ワークショップなどを通して、作家やこども達とともに創造とコミュニケーションの場をつくります。
(3)本物の作品との出会いの場をつくる鑑賞サポートプログラムの開発や、障がいのある方など美術館に来館しづらい方へのサポートや企画の開催。
(4)SNSなどでアート・コミュニケータの活動を紹介するほか、美術館の最新情報を発信して、アートへのきっかけをつくる活動。
(5)美術館を活用するオリジナルの企画を通して、「やってみたい」をかたちにします。

 
 

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――信濃美術館では上記のようなことを活動内容として掲げていますね。

 

塚本 アート・コミュニケータの活動は多岐にわたりますが、すべての活動が、コミュニケーションや対話の場をつくることにつながります。人とアートをつなぎ、アートを通していろいろな人びとが出会い、対話が生まれるような場をつくること。そういった活動を通してアート・コミュニケータと美術館スタッフがともに、みんなが楽しめる美術館をつくり上げていくことを目標にしています。
美術館側から、こういったことをお手伝いしてほしい、とお願いすることもあると思いますが、活動はそれだけではありません。どうやったら美術館をより楽しんでもらえるか、どうやったら作品のおもしろさを伝えられるか、美術館のここが変わればもっと楽しくなるんじゃないかなど、それぞれが気になることを見つけて、みんなでアイデアを出し合って、活動の内容を1からつくり上げていきます。言い換えれば、アート・コミュニケータの活動は、自発的に課題(やりたいこと)を見つけ、解決策を練り、それを実践する(コミュニケーションの場をつくる)ことです。その活動の拠点が美術館であり、美術館を広く社会に開いていくための一つの手法としてアートを用いて、いろいろな提案をしていきます。

 

――どんな方々に応募していただきたいと考えていらっしゃいますか?
 
塚本 アート・コミュニケータは16歳以上であればどなたでも応募可能です。学生、仕事をされている方、すでに退職された方、障がいのある方などなど。アート・コミュニケータの皆さんが美術館の楽しみ方を考え、実践することで、今までなかなか美術館に行く機会がなかった方、行きづらいなと思っていた方、楽しみ方がわからないと思っていた方にも、美術館に行ってみたい!と思ってもらえると考えています。
そういう意味では、人とかかわって何かをやってみたいという方、美術の専門的な知識がなくても美術館を楽しめる方法を考えられる方にもご応募いただきたいと思います。
新しい美術館は館内から見える風景が素晴らしく、触れるアート作品があったり、観覧券がなくても入れる空間があったりします。みんなが楽しめる美術館、そこに完成形はなくて常に変化していかなければいけないと思うんです。いろいろな楽しみ方を一緒に発見し、つくり、更新し続けていきたいです。
 
 

 
 

応募条件
・16歳以上の方(2021年3月31日時点、ただし18歳未満は保護者の同意が必要)
・美術または美術館に関心があり、積極的に学び、活動意欲がある方
・長野県信濃美術館 アート・コミュニケータの活動趣旨を理解し、共感して主体的に活動できる方
・基礎講座全6回(2020年10月31日(土)、11月14日(土)、28日(土)、12月12日(土)、26日(土)、2021年3月6日(土))に原則としてすべて参加可能な方
・2021年4月以降、原則として月2回以上の活動に参加可能な方
・インターネットにアクセスでき、パソコンなどでのEメールの送受信が日常的に可能な方
 
活動条件
・アート・コミュニケータの活動は無償です。
・交通費、謝礼等の支給はありません。ただし、講座および随時開催される研修に無料で参加できます。
・アート・コミュニケータの登録期間は原則1年間とします(今期は2022年3月まで)。次年度以降は、本人と美術館が双方合意のうえ、年度ごとに登録更新します。
 
活動場所
長野県信濃美術館および東山魁夷館(長野市箱清水1-4-4)
※アート・コミュニケータルームを拠点とします

 

応募方法は、こちら

 

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