【今だからこそ文化芸術を語ろう】大島ケンイチ(「サンロクレコード」/ベーシスト)

「サンロクレコード」/ベーシスト
大島ケンイチ

 

不要不急を大事にする気持ちを文化っていうんだよ

俺はその不要不急のために仕事をしている

 

安曇野穂高の土蔵づくりのスタジオを拠点に活動する、「山麓に住むヤバいアーティストがあつまった感性の集落」を掲げるサンロクレコードのメンバーでベーシスト。「クラフトフェアまつもと」の実行委員長を務めていたかと思えば、ゲストハウス東家の親分にもなり、街ではイベントも企画したりしている。そんな大島ケンイチさんたちサンロクレコードのアーティストがYouTubeにサンロクチャンネル「ひらけ!ゴマ」を開局した。サンロクレコードのお膝元、松本や安曇野界隈はもちろん、全国、全世界の”お友達”から寄せられたメッセージ、演奏などの動画も順次アップしていくという。番組(?)には何だか緩い時間が流れていて、われわれがどこかへ置き忘れてしまった何かに満ちあふれている。5月半ばに東家に大島さんを訪ねた。

 
 

ついに「貧乏人の時代が来たぞ」ってワクワクしている

 
 

――大島さん、こんなに暇な5月は珍しいんじゃないですか?

 

大島 そうだよ、俺。定年退職したおじさんみたいだよ。何もやることない5月なんて生まれて初めてだからさ。何していいかわからない。なんかあると、「母さん、母さん」ってオドオドしちゃうようなそんな感じの毎日だな。だからと言って、この時間を何もなかったことにはしてはいけないなぁとは思っているんだけど。

 

――例年、クラフトフェアまつもと、「工芸の五月」というイベントの運営、その関係者でにぎわうゲストハウスの仕事でいっぱいですもんね。クラフト作家の皆さんから何か聞いたりしていますか?

 
大島 ウェブで販売したり、見せたり、わりとそっちにシフトするのが早かった作家さんたちはそこそこ売れたみたいだよ。物珍しさとか行かなくても買えるとか、クラフトにとってそれは利便性とは言えないと思うけど、それなりの反響はあったみたい。と言ってもなんとか日銭はという意味でのことだけどね。そんなの長く続かないことはみんなわかっているからさ。いつまで続くのか、次第にもとに戻っていくのか不安の中にはいると思う。5月のクラフトフェアに向けて材料をたくさん仕入れたり、作品をつくったりしていたと思うんだけど、そういう意味では苦労している人がほとんどじゃないかな。ただ、クラフトもそうだし、楽器をやっているようなやつら、特に俺の周りは基本的に貧乏でしょ(笑)。貧乏人はいかなる世の中でもハッピーだよ。大きな怪我はしないよね。みんな2、3日はちんまりしていたけど、すぐに「さあ、どうしよう」って気持ちになるもんね。

 
 

 
 
――とは言え、松本でのクラフトフェアで、年間売上げの半年分を稼ぐ作家さんもいるとか言われているじゃないですか。

 

大島 よく言われているよね。それに近い人もいるよ。そこでの売上げでたまっていた支払いができるとかね。フェアの後になると、そういう話をよく聞く。クラフト作家は言ってみれば不要不急のものばかり売っているからね、大変だよ。

 

――でも不要不急なものというのは、すごく大事。

 
大島 もちろん、そうだよ!

 
――しかし世の中では一番後回しじゃないですか。

 
大島 それがおかしい。不要不急を大事にする気持ちを文化っていうわけじゃん。3度のご飯が食べられて、着るものきて、あとは何もないって刑務所じゃないんだから。それでいいわけじゃないんですよというのを自分に、みんなに感じさせる要素が今、不要不急って言われてしまっている。俺なんて「不要不急の活動は控えてください」って言われて、やることが一つもないんだ(爆笑)。ライブハウスみたいに箱を構えているとあっけらかんと「俺は不要不急の塊だ」なんて言ってられないから大変だと思う。だけど俺なんかはなんで仕事をするかと言えば、不要不急のためだもん。スパン子(ピアノ、アコーディオン/大町市)とか熊坂義人(コントラバス/大町市)とかと一緒に話しながら「来たな、俺たちの時代が」みたいな、もうワクワクしかしない。こんなことをお天道様の下で言ったら怒られるかもしれないけど、そんな気持ちでいるよ、今も。

 
 

 
 
――東家はどうなんですか?

 
大島 ここはもう4月の頭からお客さんは全部キャンセル。例年だったら一番活気のある時期なんだけど、今年はお休みしているし、予約も取っていないし、そもそも予約をしたいという電話も滅多にこない。こういう社会状況じゃバックパッカーなんかも動けなくなってしまうよなぁ。どうしてるんだろうね、日本一周の途中だったやつとか。

 
――東家の再開はどんなふうにと考えていらっしゃるんですか?

 
大島 みんなと話したんだけど、肝心なのはどうやって開けたら面白いか、じゃないかと。どこも自分たちの判断で、そうっと開けていくわけじゃん。あそこも始まったみたいだよって。せいぜいTwitterで「明日から営業します」って発信するくらいでしょ。そこはちょっと考えたいね。白馬の宿泊施設で働く知り合いに聞いたら首都圏以外の非常事態宣言が解けた途端「予約が殺到している」って。どこの人たちなのかは知らないけど、「もうじっとしていられない」ってやってくるんだろうね。でも、俺たち、遠くへ行きたがりすぎていたんじゃないかな。

 
 

「ひらけ!ゴマ」はポストコロナを見据えて始めた

 
 

 
 

――大島さんのことはどう紹介すればいいんですか? やはりミュージシャン?

 

大島 いや、俺もわかんない(笑)。でもミュージシャンなのかな。もともとクラフトフェアも「夕方に会場の公園でライブがあると楽しいから、やってくれ」ってことでかかわり始めたから、それでいいのかもしれない。

 

――本題です。例のウェブサイトについて聞きたいんです。

 

大島 「ひらけ!ゴマ」? あれはせっかくだから始めたんだ。「演奏会みたいなものを企画しない方がいいぞ」という風潮になったことが一つ。ネガティブに捉えれば「俺たちどうしたらいいんだ?」ってことでしょ。でも考えてみると普段ライブとかやってもよく来てくれる人、初めて来てくれる人みんなに演奏は聞いてもらうけどさ、「実は普段はこんなことやってます。ところであんた、どこから来たの?」みたいなやりとりってしないじゃん。「演劇やってるんだ。面白そうだね」とか、よく見る顔であってもそういう背景を知らなかったりする。

 
 

 
 

――それって松本でクラフトフェアを始めた人たちの考え方に通じますね。作り手と使い手の関係の正しいあり方というか。

 

大島 そうだね。手入れの仕方とか丁寧に話す関係を大事にしているからね。だからウェブ販売で売れても利便性で語っちゃダメなんだよ。
 サンロクレコードは5年くらい前に始めたのね。会社でもないし、グループでもない。ちょっと自覚を持ってやっているのは俺ぐらい? かかわり方には濃い薄いがあるんだけど、「ひらけ!ゴマ」を始めたのは、濃い方の人たちと。さっきの話に戻ると、スパン子がピアノがうまいのは知っているけれど、普段のことは知られていないじゃない。だけど田んぼをやっているとか、子どもを送り迎えするとか、そういうもの全部が音楽に還元されているわけよ。一つの呼吸の中で生まれるものだから、演奏している部分だけでスパン子の音楽を聴くのも良いけど、その音楽が出てくるまでの背景は、なかなか紹介する機会もなかったから、これはいいチャンスだと思ったわけ。いろんなミュージシャンがライブとか映像をSNSにあげているけどさ、それが軸じゃなくていいと思ったんだ。

 
 

 
 

――大島さんは「貧乏人めぐり」という企画をやっていますね。

 

大島 俺はベースという楽器をやっているんだけど、あれは面白くないし(笑)、場合によっては聞こえなかったりするから(笑)俺一人で演奏している映像をあげるのはやめたんだよ。だったら普段やっていること、つまり音楽畑以外の友人とどんな話をしているかでいいやと。そうやって考えると、俺の友達はスペシャリストばかりだけど、まんべんなく貧乏なんだよ。じゃあ「貧乏人めぐり」でいいかって。さっき言ったように貧乏人はどんな世の中でもハッピーになれる術を持っているから、ポストコロナ時代に向けてそういう人たちを紹介するのがいいんじゃないかなって。

 
――なるほど!

 

大島 よく20代のころからさ「俺も子どもができたし、楽器やっている場合じゃないと思うんだ」とか一足先に大人になるみたいなやついっぱいいた。それって楽器をやめるということではなくて、社会のメインストリームの方に入っていくという一大決心なんだよね。どうやら俺にはそっちの層には入っていない友達が多いんだよ。メインストリームの人たちが「コロナ、コロナ」って大騒ぎしているときに、一緒に大騒ぎする理由がないというか。今までは可哀想な人たちとされてきた貧乏人がどれだけ充実した生活をしているか見せてやりたい気持ちもあってね。俺、改めて考えると、メインストリームから本当に距離を置いてきたんだな、そのことに神経を使ってきたんだなって思うよ。そういうメインストリーム的な価値観が本当に脆くて弱い社会をつくってきたんだよね。よく「子どもたちの未来のために大人は何をすべきか」って言うじゃん。何の心配もないんだよ、本当は。メインストリームのバスにさえ乗らなければ一流の貧乏人としてハッピーな人生を送れる。そのバスの窓から、うらやましそうにこっちを見ている人たちがいるのも知っている。まあ、ごく稀にバスの中が楽しそうだなって思う夜が俺にもあるけどね(笑)、でも頑固にこだわって来たことが、何かこの時代になって意味があるんじゃないかと思うんだよね。

 
 

 

 
 

――ちょっとわかっちゃいます、その気持ち。

 

大島 「ひらけ!ゴマ」という名前も、偶然イベントの名前だったものだったの。コロナが来て、通り過ぎた後にどうしたらいいかを考えた、というか自動的に考えちゃったんだけど、ポストコロナ時代が楽しく開いていくようなイメージかな。ちょうどうまくハマったねってチャンネルのタイトルにしたわけです。収束したらやめるかって話もあるんだけど、物量で決めるものでもないし、サンロクレコードの人たちのアーカイブでもいい。それよりいろんな人に会って話したことは、俺が明日のサンロクレコードをイメージするときに必ず何かの作用になるわけだから。 
 サンロクレコードは柔らかい組織であるために、組織としての体制をあえて取らない。ただ何かの説明するのが面倒くさいときに「サンロクレコードです」っていう合言葉みたいなもの。本当は誰でもあって誰でもないんだよね。
 じゃあ、せっかくだから「ひらけ!ゴマ」の取材をさせてよ。

 
 

 
 

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