【今だからこそ文化芸術を語ろう】大澤良太朗(「GRAMHOUSE」代表)

「GRAMHOUSE」代表
大澤良太朗

 

今は、普通にライブがしたい

人生を豊かにするものって不要不急なものばかり

なくても死ぬわけでもないけれど、あった方が楽しい

 

OGRE YOU ASSHOLE、GLIM SPANKY、MOROHA、BRAHMAN(リズム隊)……長野県の音楽シーンで、若いミュージシャンが高い注目を集めている。その震源の一つが、4人組ミクスチャーロックバンド「King Gnu」の井口理、常田大希、今年1月にメジャーデビューした男女5人組バンド「FAITH」の出身地である伊那市だ。音楽ファンのみならず、一般にもその動向は話題になっている。
若い才能に多くのチャンスを与えてきたライブハウス「GRAMHOUSE」の代表・大澤良太朗さんを訪ねた。

 
 

ライブハウスに危険がないとは思っていないけれど

クラスターの象徴みたいに言われるのは残念だった

 
 

——いきなり答えにくいことを伺いますが、新型コロナウイルスの件ではライブハウスに注目が集まってしまいました。そのことにどんな思いを持っていらっしゃいますか?

 

大澤 客入りにもよりますけど、いわゆる三密になりやすい、感染リスクのある場所であることは間違いないと思っています。しかしクラスターの象徴みたいに言われるのは残念です。感染者が出たライブハウスでのその日のライブがどんな状態だったかわかりませんが、感染された方々の年齢層を見ても押し合うような環境でもなかっただろうし、若い子が騒ぐようなロックバンドではなかったと思うんです。ライブハウス側の努力もあって結構な人数が濃厚接触者としてPCR検査をしたこと、チケットを購入したお客さんの足取りを追えたことで感染の状況が明らかになったんじゃないかと思います。またライブから2週間後のことですから感染された方々がずっと家にいたわけではないでしょう。そういう意味ですべてがライブハウスから出たものかどうか。そこへの疑問はあります。だからと言って決してライブハウスに危険がないとは思ってはいません。

 
 

 
 

——ライブハウスとして具体的に動き始めたのはいつからですか?

 

大澤 3月中は予定の半分、特に学生が出演するライブは軒並み中止になっていきました。アルコールによる消毒や換気は徹底しながら開けていた状態です。あのころは1週間経てば状況も情報も相当変わっていきましたから「できるの? できないの?」「来週はどうなの? 再来週はどうなの?」と様子を見ていた感じでした。中止が決まればいつ発表するのか、払い戻しの手続きをどうするか、出演するミュージシャンとやりとりを繰り返していました。その段階ではライブハウスの対応もまちまちでしたね。本格的にストップしたのは4月の非常事態宣言が出てからです。

 
――緊急事態宣言が延長されたときはどのような思いでしたか?

 

大澤 今回のケースが難しいのは、地域差がどんどん出ていることかなと思うんです。東京はダメかもしれないけど長野県だったらどうなのかなとか。そこに経済的な体力の差もかかわってきている。でも補償については現段階で何も出てきてませんよね。これから何かあるのか、国が対応してくれるのか、まったくないのかもしれない。一番思っているのは、休業要請を延長するんだったら追加の補償もしてくださいよと。その辺は歯がゆいですよね。国など行政には、立場的に文化を守ってくださいよと思いますけど、本当は守るべきものだと思っています。映画や演劇、ほかの文化芸術、それは娯楽という表現としてもいいと思うんですけど、国家がちゃんと守っていかなければいけないものだと思います。日本はそういう部分が弱いですよね。

 
 

この街で音楽をやることがステップアップにつながる環境にしたかった

 
 

――大澤さんが伊那でライブハウスをやろうと思った理由を教えてください。

 
大澤 僕はここに高校生のころからお客として、演者として出入りしていたんです。いっとき東京にいましたが、戻ってきたときに「手伝ってくれない?」と言われて、気がついたら僕が経営もするようになっていた。確固たる意志を持って始めたわけじゃないんですよ、最初は。でも伊那地域の音楽は盛り上げたいと思っていました。それは伊那が好きだとか街を盛り上げようという大袈裟なものではありません。

 
――経営を引き継いだときはどんな目標を持たれていたんですか?

 
大澤 もう、13、14年になります。もちろん趣味でやっている人、プロを目指している人、いろいろいるんですけど、プロを目指せる街にはしたいとは思っていました。「プロを目指したい」というときに、「こんな田舎町では無理だよ」というのではなくて。いずれ東京に出ていくとしても、この街にいることがステップアップにつながる環境にしたかった。当時は県外のバンドやプロのバンドがよく出るライブハウスではなかったので、まずはそこからでしたね。外部からの刺激がたくさん入ってこないと、絶対にレベルアップにつながらないんで。幸いたくさん出演してくれるようになりました。

 
 

 
 

――伊那の音楽シーンが盛り上がっているのはGRAMHOUSEさんあってこそ?

 
大澤 いやいや、そんなことないですよ(笑)。いろんな刺激をGRAMHOUSEで受けてくれたんだろうなということもあれば、自分たちでちゃんと力をつけていったよなという人たちもいます。ライブハウスもないよりはあった方がいいんじゃない、くらいの話です。

 
――音楽シーンに詳しいわけではありませんが、それでも長野県の若いバンドが来ている感は伝わってきます。

 
大澤 たまたまメジャーデビューしていくバンド、人気の出てきたバンドが同じタイミングで登場したということでしょうね。まあ、それもなかなかないことではあるんですけど。そういう意味では、今年は楽しみな一年だったんです。King Gnuが紅白に出場したこと、FAITHがメジャーデビューしたこともあって、伊那のライブハウスにも注目が集まりやすいタイミングでしたから。僕たちも飛躍したいし、彼らもどんな飛躍をしていくのかと思っていた矢先のコロナでしたから。

 

――何か仕掛けようというものがあったんですね?

 

大澤 3月8日にうちとモメンタムさんというクラブの両方を使って、サーキット形式で、バンド、DJ、弾き語りなど23アーティストが出るという企画をやりました。長野県在住、長野県出身のミュージシャンにフォーカスして出演者を決めました。King GnuやFAITHに注目が集まるのはもちろんうれしい。でもほかにも上を目指している人たちもいるので、彼らにも注目を集める機会にしたかったんです。その企画を皮切りに仕掛けていこうと思っていたわけですから、もうタイミングとしては最悪ですよね(苦笑)。コロナ収束後にどう取り返していくか考えるしかないんですけど。

 
 

 
 

――皆さんたちで決められない部分もありますが、どうやって再開していくかイメージはありますか?

 

大澤 まずは休業要請が5月22日に開けるので、うちとしては6月中旬くらいから県内のミュージシャンのみでスタートしていく想定でいます。アルコール消毒を徹底する、マスク着用を義務付ける、100人入れるところを20人限定にしてスペースを保てるようにする。いろいろ考えながら、それこそ段階的に解除していくということかな。
 でも普通にライブがしたいですね。それが一番大きい。第2波、第3波がありうる中で、また感染者が出たり、自粛要請が広がったりという恐れもある。それ以前に今の自粛ムードがいつまで続くかわからない。ライブハウスにお客さんが戻ってくるのにはすごく時間がかかるでしょう。思い通りに営業ができない状態がダラダラ続くと思うんです。そうなれば今までのように経費はかけられないし、売上が半減した状態が続くとすれば融資に頼ることもできない。赤字をいかに出さずにというやり方になっていくと思います。イベントをやる際に必要なスタッフの人数は決まっていますから、人件費をカットするのは最後の最後にしたい。緊急事態宣言が終わってからが長い戦いです。

 

――なかなか厳しい時間が続くと。

 

大澤 そうですね。新型コロナウイルスに関して言えば、一人ひとりがバラバラの収束地点を思い描いている気がするんです。ウイルスがゼロになると思っている人もいるだろうし、そもそもゼロになるものじゃないからどう騙し騙し付き合っていくか考えている人もいる。薬やワクチンができればかかっても大丈夫だと思う人もいるでしょう。それが生活の仕方にも表れて、争いのタネになったりしていると思うんですけど、そのことの方が気持ち悪いですね。

 
 

「You are the center of the universe.」

団結とか絆とかもちろん大事なこと

でもそういう風潮に声を上げられない人たちも応援したい

 
 

――GRAMHOUSEさんではTシャツなどグッズ販売を始められました。

 

大澤 メッセージ性を持ったものでやりたいなと。いろんなライブハウスや支援してくださる人たちがグッズ販売をやっているんですけど、多くが「ライブハウスを守りたい、守ってほしい」というニュアンスなもの。じゃあ、うちからは独自のメッセージを発信するものにしたいと思ったんです。

 

 

 

 

 このTシャツは英語で「nonessential and nonurgent=不要不急」と書いてあるんですよ。人生を豊かにするものって不要不急なものばかり。うまいものを食べにいく、映画を見る、音楽を聞く。そういうものはなくても死ぬわけではないけれど、あった方が楽しい。でも本当は不要不急なものこそが日常の大部分を占めていたりする。これは過去にうちでやったライブの写真をテレビの画面にはめ込んだもので、その日が来るまで家でライブを楽しんでくださいというメッセージを込めています。

 

 

 トートバックはうちのロゴがでかく入っているんですけど「You are the center of the universe.(あなたは宇宙の中心にいる)」というメッセージを据えています。今って未来のために心を一つにとか、絆を大切に的な空気感じゃないですか。大事なことではあるんですけど、疲れませんか? 団結とか絆とか一歩間違えると危ない側面もあって、同調圧力とか自粛警察にもつながる。そういう風潮に声を上げられずに苦しんでいる人たちが楽になればいいなと思っているんです。

 
――ライブハウスについても全国的な動きがありますよね。

 

大澤 うちも三つのプロジェクトにお声がけいただいて参加させていただいていますが、すごくありがたいですね。国よりもよっぽど早くお金が届きますから。
 一つは「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」です。インディー、メジャー問わず多くのアーティストが楽曲を提供してくださって、それはすでに発表された曲、未発表曲、ライブ音源もあるんですが、参加しているライブハウスそれぞれがオンラインストアを持って、ダウンロードアクセス権を販売しているんですよ。支援してくださるお客さんは、曲を500円でも1000円でも買えるし、5千円でも1万円でも買えるんです。つまり応援しているライブハウスでお買い求めくださいという支援。直接ライブハウスにお金が入るというシステムですが、よくこんな方法を思いついてくださったと思います。
 もう一つは「LIVE FORCE, LIVE HOUSE.」で、これはプロのミュージシャンとタワーレコードさんが動いてくださっています。投げ銭方式のYouTubeのライブ配信で、ライブの収益を、登録してあるライブハウスの収容人数に合わせて分配してくださるという方法です。
 三つ目は東北ライブハウス大作戦「~SAVE THE LIVEHOUSE作戦~」。参加をしている全国のライブハウスのロゴマークをバックに写真家・石井麻木氏の写真をプリントした支援Tシャツを販売、諸経費を除いた全額を参加ライブハウスに分配していただけるプロジェクトです。
 発信力あるミュージシャンが声を上げれば上げてくれるほど動く人数も金額も変わってくるのでありがたいですよね。個別のライブハウス発信でできることは限られているので。
 そういう応援があるわけですから、僕らもあの手この手でしぶとく生き残っていくしかないですよね。そのためにはなんでもやっていくつもりです。

 
 

 
 

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