[聞く/entre+voir #002]菊地 徹(ALPS BOOK CAMPプロデューサー)

[聞く/entre+voir]菊地 徹 Toru Kikuchi


信州の自然に包まれながら、新たな本との出会いを感じる


私がこの素敵なイベントのことを友人から聞いて知ったのは、昨年の暮れ。
大反響だった第一回目がすでに終わってずいぶんたったころ。
そのくらい参加したみんなの中に印象を残したのでしょうし、話を聞いていてわくわくがわいてくるのでした。
信州大好き。本が大好き。と常々吹聴して暮らしているくせに、全然知らなかったなんて痛恨の極みです。
それ以来、2度目の開催日を指折り数える気持ちで過ごしてきました。
いよいよです。アルプスブックキャンプの7月がやってきた! 

What’s ALPS BOOK CAMP?

第一回目の昨年は、来場者数932人、出展ブース数66組。
お客さんや本屋さんをはじめ、参加したすべてのみなさんが本の素敵さをそれぞれに演出し、また実感することで、大盛況のうちに幕を閉じたこの一大フェスティバル。
より一層のにぎわいが期待される第2回目は、この7月25日(土)、26日(日)に開催されます。
会場は、大町市にある木崎湖キャンプ場。
山々にぐるりと囲まれた湖畔ならではの静けさに包まれたキャンプ場で、思い思いに本に親しむ人たち。
個性豊かな本屋さんに雑貨屋さん。それから人気のカフェやパン屋さん、スイーツ屋さんなども集まって、緑いっぱいの澄んだ空気にみんなの楽しげな声が溶け合っていきます。
ただ、本が欲しいなら本屋さんに行けば済むこと。でもここに集まってくる本屋さんは、そんじょそこらの本屋さんとはひと味もふた味も違うスタイルで、それぞれこだわり抜いた書物を紹介してくれる。
もちろんキャンプ場ですから、夜、会場を出ずにテントで一夜を過ごして二日目を楽しむことも出来ます。
暗くなってからがまた一興! キャンドルライトに照らされて、ウチダゴウさんの詩の朗読(今年は7月26日の朝に開催予定)に耳を傾けたり、みんなでキャンプファイヤーを囲んだり。
キャンプ場という、読書とはちょっとかけ離れたイメージのロケーションでじっくり本を読む。
こんなエキサイティングなことを、思いついた人はどんな人だろう?
松本市でカフェ兼リトルプレス専門書店・栞日sioribi(しおりび)を営む、主催の菊地徹さんにお話を聞きました。

―アルプスブックキャンプは、どんな気持ちから立ち上げに至ったんでしょうか?

小さい頃から僕は本が好きでした。
全国には本のイベントがたくさんあって、それで町おこしをしたり、交流の場になったりしているのは知っていたけど、松本にはそういう本のイベントがなかったから、ずっとやりたかったんです。
でも、せっかくなら他にないものにしたかった。
キャンプ場というアイデアをくれたのは、詩人のウチダゴウさんだったんです。
それで、松本界隈のキャンプ場をいくつも当たっては断られて、最後に行きついたのが木崎湖キャンプ場だったんですけど、
終わってみたらあの木崎湖のロケーションは、僕が思ってた以上に好評を得ることができました。
本って、ついつい日常の隙間で読むという感じになりがちじゃないですか。
本と向き合う時間って「本来こうであったらいいのに」というのを再確認する空間になればいいな、と思っていたんです。
終わってみてから「インドアとアウトドアの融合」と評してくれた雑誌がありましたけど、
普段本はよく読むけどキャンプは初めてという声があったり、反対に普段バリバリのアウトドアギアな方々がまめまめしく古本を選んでいたり、
そんな風景は僕にとっても新鮮でした。
ここでしか出来ない読書体験を表現・提案したかったから、このイベントは栞日というお店自体のあり方とも通ずるものがあると思っています。
ただ、栞日は松本の人たちにリトルプレスというカルチャーを知ってもらいたくてスタートさせたのですが、
アルプスブックキャンプは、長野県外の人たちに向けて発信したいって意識が強かった。
もちろん、信州の人たちに全国のおもしろい本屋さんたちのことを知ってもらいたいというのもあるんだけど、
それ以上に、信州の外にいる人たち、とりわけ名古屋とか東京とか大都市圏にいる人たちに、信州の自然の魅力を知ってもらいという思いがありましたね。

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―今年の見どころを教えてください!

今年は、いわゆる本屋さん以外にも、本に携わるいろいろな人たちに出展してもらうことにしました。
たとえばイラストで記事を書く人や、印刷の仕事をしている人。何の世界でも職人さんって、自分の作ったものがお客さんの手元に届く瞬間には立ち会えないものじゃないですか。そういう人たちにこそ、実際に読む人たちの喜んだり驚いたりする顔を見てもらいたいし、反対に読み手となる人たちにも、作り手と触れ合ってほしいなという思いからです。
本を通じて、いつもは交流できない人たちが交流できる。今年はそれも一つ、大きなテーマになっています。
僕が大好きなあの雄大なアルプスの麓で、ゆっくり本を読むという贅沢な時間を、ぜひ楽しんでもらいたいです。

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―ところで栞日さんは、8月で3周年を迎えられるそうですね。松本にお店を開いたいきさつを教えてください。

僕、出身は静岡なんですけど、大学が茨城県の筑波にあって、卒業後もしばらくは在学中からバイトしていたコーヒーショップで働いていたんです。
そのコーヒーショップを経営する企業の考え方がとても好きでした。
「サードプレイス」、つまり職場と自宅の間にある3つ目の場所を提供するという考え方。
僕自身、将来何を仕事にして社会と関わっていこうか考えた時に、
自分が住みたいと思って暮らさせてもらう街の人たち、そこを訪れる人たちにとって、ちょっと日常から離れられるような、
言ってみればサードプレイスとなる場所を作るというのは、何をするにしてもやりたかったことだったから。
この街(松本)にお店を出すことにしたのは、街から見えるあの山並みの雄大さは大きな決め手でした。
信州の山は質が違う。僕も静岡出身だから、故郷の自然の良さも知っているし、どんな山にもきっとそれぞれの表情があるだろうけど、
北アルプスの山脈が持っている風景とか、この街の文化とか、何千メートル級という山が連なってないと生まれない、群を抜いたところがあると思うんです。
本当は、大学卒業後はそのアルバイト先の会社に就職するつもり満々だったんですよ。
ただ、ちょうどその年はリーマンショックがあった年でした。特に僕の働いていたような外資系の企業は軒並み新卒採用を途中で打ち切ってしまって、
入りたい企業に入れなくなっちゃったから、どうしようかと思っているうちに卒業を迎えてしまいました。
新卒が駄目なら、アルバイトからランクアップしていく社員登用のエスカレーターに乗ってみようと思って、卒業後もしばらく同じコーヒーショップで働いていたんです。
でもそのエスカレーターにいざ乗ってみたら、あんまり面白くなかった。
正社員になるまでには何種類もあるポジションをランクアップしていかなくちゃならないし、実力があっても先輩を追い越して上には行けない。
しかも、上に行けば行くほど、自分の提供するサービスがお客さんにとってベストかどうかよりも、企業としてどうかを意識しなくてはいけなくなる。
あくまでもそこで自我を出そうとすれば当然、上の人たちからは引かれちゃうところがありますよね。
やっぱり、もともと自営業気質なのかもしれません(笑)。
でも、あの時があったからこそ今の僕があるし、良い経験でした。
いつか自分でお店をやるならサービスの究極を勉強しようと思って、松本の明神館というところに就職したのが、この街に来た最初のきっかけです。それ以来、僕にとっては、住みたい!という第一印象がそのまま、お店を出したい!という気持ちに直結した大好きな街ですね、松本は。

◆今、対談するとしたらどんな方とお話したいですか?◆

コト社代表・瀧内貫さん
「まちの教室」の企画運営でお仕事をご一緒したことはあるのですが、個人的にこれまでの経歴などについて詳しく伺ったことはなく、これまで手掛けてこられたことや、これから手掛けていきたい企みなどゆっくりお話を聞いてみたいです。信州をおもしろい地域にしようとさまざまな取り組みを展開していらっしゃる印象なので、 そのあたり今後の展望を具体的に。

「book pick orchestra」代表・川上洋平さん
book pick orchestra のサイトはこちら
先日、群馬・前橋のブックイベント「敷島。本の森」に出店させていただいた際に、ワークショップ開催のためにいらしていた川上さんと初日の夕食をご一緒する機会に恵まれたのですが、「本」の概念や常識にとらわれず、今の時代に即した「本」の可能性と機能性を柔軟に模索なさっていて、その思索の奥行きと痛快さに一気に惹き込まれました。そのときは、きっと川上さんの思考回路の一端に触れたという程度にしかお話を伺えていなかったと思うので、 川上さんが考える「これからの本のこと」をじっくりと拝聴してみたいです。

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菊地 徹 
1986年静岡県静岡市生まれ。筑波大学卒業後、長野県松本市に移住。
扉温泉明神館、株式会社トラフィックデザインを経て、独立。
カフェ兼リトルプレス専門書店・栞日sioribi(しおりび)店主。アルプスブックキャンプ主催。
栞日の3Fは、個性あふれるアーティストやライターの展示会場としても提供されている。

取材・文:松本アイス
東京都三鷹市生まれ。長野県松本市在住。
同名のHP「松本へんなひと追っかけサイト松本アイス」を運営。
サイトはこちら
松本アイスカンパニー書店代表、ライター。

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