[ようこそ、信州へ #010]野間口 徹さん(俳優)

撮影:岡千里

俳優
野間口 徹さん

 

隠居したら長野県かニュージーランドに住みたいんです

本当は家庭菜園でもやりながら

仕事があるときだけ、東京に行くみたいな暮らしをしたい

 

もしかしたら名前は知らないかもしれない。けれど、この顔はテレビや映画好きだったら「知ってる、知ってる」と思うはず。フジテレビ『SP 警視庁警備部警護課第四係』で注目を集め始めた!NHK連続テレビ小説『あまちゃん』でブレイク!などとさまざまなネットの記事には上がっているけれど、それらが無意味なほど、彼を見ない日がないほど引っ張りだこの活躍なのだ。「バイプレーヤー」を自認し、主役を光らせる達人とも言える野間口徹さんがその人。10月18日(水)に白井晃演出、多部未華子主演『オーランドー』で松本に帰ってくる。「帰ってくる」というのは、野間口さんは信州大学農学部出身だから。松本にも2年いた。松本への舞台での凱旋は2015年にKERA MAP『グッドバイ』に続き、2度目となる。
 

 

『オーランドー』という舞台は・・・。 16世紀イングランドに生を受けた少年貴族オーランドーは、エリザベス女王をはじめ、あらゆる女性を虜にする美貌の持ち主。しかし初めて恋に落ちたロシアの美姫サーシャには手ひどくフラれてしまう。傷心のオーランドーはトルコに渡る。その地で30歳を迎えた彼は、なんと一夜にして艶やかな女性に変身! さらに18世紀、19世紀と時を超えて生き続け、またもや運命の人に出会うのだが・・・。 なんとも奇想天外なストーリーの裏には、数奇な運命をたどるオーランドーの人生をなぞり、“真の運命の相手には時代も国も性別も関係なく巡り合えるはず!”というヴァージニア・ウルフの強いメッセージが込められている。性と時を超える魅惑の人物オーランドーを取り巻く人物たちを5人の俳優陣がいくつも役柄を演じわけスピーディーに展開していく。

 
 

『オーランドー』は翻訳劇初挑戦の方には最適

難しそうと構えなくても十分に楽しめます

 
 

◉『オーランドー』が開幕しました。どんな雰囲気の作品になりましたか?

野間口 そうですね、一言で表現するとファンタジーです。ファンタジックな舞台になっています。僕、この稽古に入ったときにぽろっと口にしっちゃったんです、「演劇やっている」って。本当にさまざまなアイデアを駆使した演劇らしい演劇ですね。
 

◉ヴァージニア・ウルフだ、サラ・ルールだと言われると、「翻訳モノかあ」とちょっと二の足を踏むお客さんもいるかと思うのですが、意外や意外、時代も自在に飛びまくった物語の設定を聞くと90年代にはやった小劇場演劇みたいですよね。

野間口 そうですよね。オーランドーは歳をとらないのに、時代はどんどん飛んでいきます。僕も最初は「翻訳モノなんて苦手だなぁ」と構えて稽古にのぞんでいたんですけど、全然構えなくても気軽に見られますよ。初めてご覧になる翻訳モノとしては最適。何より翻訳モノという壁がない感じの演劇ですから。言葉がするすると入ってきて、感動する芝居になっていると思います。ただテンポがすごく早いので、今のはどういう意味だっけ?なんて一瞬でも考えてしまうと取り残されてしまうかもしれません。頭を使わなくても、眺める感じで見ていただけば十分に楽しめると思います。
 

撮影:岡千里

撮影:岡千里

 

◉多部さんと小日向文世さんが軸になって、ほかのみなさんが次々とたくさんの役を演じられるんですよね?

野間口 小日向さん、小芝風花さんはいくつかポイントになる役を演じるんですけど、戸次重幸さん、池田鉄洋さん、そして僕はコーラスという役で、アンサンブルというか、ストーリーテラーというか、物語を転がすためのMCみたいなことをやっているんです。多部さんがメインでいて、「この人はこういうことを思いました」というようなことも全部語って、僕らがお客さんをアテンドしていく。そういう役割がひとつと、そこから逸脱して、オーランドーと絡む役としてもいろんな役を演じるんですよ。僕だったら貴婦人だったり、女中だったり、司祭だったり、エレベーターボーイだったり。自分でも何役やっているか把握してないんですけど(笑)。といっても時代が変わるのに合わせて衣裳を変えたりするわけではなく、帽子だけだったり前掛けだけだったり、この時代はこういう感じだったんだねとわかるようなワンポイントを変えていく感じで進んでいくんです。多部さんは場面場面でがっちり変わりますけど。だからチラシの写真は僕らはやりすぎましたね(笑)、あんなすごい衣裳では登場しません。僕らはコーラスという役にのっとって自分の個性などいろいろ削ぎ落としてやっていて、ごらんになったらわかるのですが、これは1日2ステージはつらいだろうなっていう芝居です(苦笑)。
 

◉この物語は時を超えた恋愛モノなのでしょうか?

野間口 恋愛モノ、恋愛モノ・・・うーん、そうでもないですね。恋愛モノと受け取るのかなあ。ただ観てくださった女性の方はみなさんそろって「面白かった」っておっしゃってくれますね。男性の方は「勉強になりました」みたいな感じ(笑)。フリーアナウンサーの中井美穂さんが観に来てくださったときに、「これは女性が本当に好きになる作品だと思う」っておっしゃっていましたよ。やっているほうは全然わからないんですけど、白井晃さんが演出される舞台はそういう雰囲気のものが多いのかもしれませんね。僕の周りでも白井ファンは女性がすごく多い。
 

撮影:岡千里

撮影:岡千里

 

“バイプレイヤー”野間口徹

俳優としての原点は伊那にあった

 
 

野間口徹さんには、筆者は嶋村太一さん、竹井亮介さんとともに結成しているユニット「親族代表」のメンバーとして出会った。コントユニットとして演劇色が強い作品をやり始めたハシリだと思う。そうそう、人気ダンスカンパニー「コンドルズ」が学ランを統一の衣裳に用いているが、こちらは「喪服」。「真顔コント」とも称されるその笑いは、淡々としつつも独特のおかしさをはらんでいる。その好みが大学時代にあることがわかる。

 

◉せっかくなので信州時代のことをうかがってみたいと思うんです。信州大学を選ばれた理由を教えてください。

野間口 いやぁ理由と言えるのか、失礼な話ですが、センター試験だけで入れるところを探したんです、楽をしたくて。いわゆる共通一次のあとの試験を受けたくなかった。ただ動物が好きだったということもあったので農学部を選んだのと、スキーをやってみたかったのと、そしてできれば親元から遠く離れたかったことです。中途半端に近いところだとちょこちょこ実家に帰ってしまいそうな気がしたので、思いっきり遠くに離れようと思ったんですけど、東京に行く度胸はなかったんで長野県くらいがちょうどいいかなって思ったわけです。1年余分に行きましたよ、大学は。松本に2年、伊那に3年いました。
 

◉大学時代から演劇を始められたそうですね。

野間口 松本時代は全くやっていなかったんですけど、大学3年生のときに伊那の農学部に移ってからですね。そこで初めて学生がやっている演劇を観たんですよ。そのときに魅力的な先輩がおりまして、その先輩のお手伝いをしようと思って演劇部に入ったんです。けれど出る人が足りないから「出て」と言われて、そしたら思いのほかほめられたので「じゃあやるか」という感じでした。だから本当に受身のまま始まったんです。
 

◉なんと、意外にも、野間口さんの演劇の原点は伊那にあったと! 

野間口 そうです、そうです。伊那です。いわゆる大学のサークルだったんですけど、「農業文化開発公社」という何をやっているのかわからないような名前の劇団でしたね。そこは異端の集まりだったんですよ、とにかく。看板が好きで立て看板だけを描く人、体をずっと動かしている演劇をやりたいという人もいれば、コントしかやらないという人もいて、とにかく趣向がバラバラな人が集まっていたんですよ。それが面白かったんでしょうね。そんなことですから今回のお芝居はこれをやりましょうっていうと、みんな「え〜〜」とか不満の声を上げながらやるという(苦笑)。
 僕はケラリーノ・サンドロヴィッチさんや別役実さん、竹内銃一郎さんといった劇作家が好きで、それしか読んでいなかったんですけど、だれの賛同も得られませんでしたねぇ。「なにこれ、ぜんぜん面白さがわからない」と言われてショックだったのを覚えています。当時は、演劇をやる人たちは、つかこうへいさん、野田秀樹さんや鴻上尚史さんのうちの誰かが好きだという時代でした。
 

親族代表

 
◉当時の松本の印象はいかがでしたか?
 
野間口 松本は僕がいたころから演劇の街でした。地方演劇祭のブームに先駆けて、あがたの森演劇フェスティバルをやっていましたもんね。信州大学はタコ足大学だから各学部にある演劇部の公演を観にいったり、あがたの森に誰々がくると聞けば観にいったり。あと大きい車を出してもらって、長野から、松本から集まって来る仲間と新宿の紀伊國屋書店で戯曲を買いあさって帰るみたいなこともしていました。
 

◉まつもと市民芸術館の舞台に立たれるのは2度目だそうですが、松本公演は野間口さんにとってどんな思いがありますか?

野間口 感覚的には「戻る」が近いかもしれません。僕はいまボルタリングに凝っていて、松本に素敵なボルダリングの施設があるというので、カンパニー自体はタイトなスケジュールで動くのですが、先乗りしようかと画策しています(笑)。
 実は僕は隠居したら、長野県かニュージーランドに住みたいって決めているんですよ。大学時代に実家に帰省したら、祖母が「髪が黒くなったね」と言ったんです。それは僕は長野県の水のおかげだと思っている、気温がいいとか、空気がきれいとか、僕にとっては体に良い場所というイメージが強くあって、絶対に戻るという思いであるんです。松本には市役所につとめている友達もいますし、大学を出てそのまま高原野菜つくったり、林業やっている仲間もけっこう残っているんですけど、できれば伊那に住みたいです。できるだけ早く隠居したいんだけど、ただ子供たちが全然ノってきてくれないんですよ(苦笑)。本当は家庭菜園でもやりながら、仕事があるときだけ、東京に行くみたいな暮らしをしたいんですけど、どうやらまだまだ先ですね。

 

◉では最後に改めて『オーランドー』の見どころ、野間口さんはどんなところだと思っていらっしゃいますか?

野間口 オーランドーを演じる多部未華子に尽きますね。同じ舞台にいて、手合わせしている人間からすると、この人はすごい女優さんだと思う瞬間が多々ありまして、隅々まで素晴らしい。そして本番でのテンションの上がりっぷりがすごいし、発しているものがいいんですよね。稽古の何十倍もいい(笑)。それがお客さんに伝わって、わけわからないけど泣いちゃったみたいな、ところにつながるんじゃないかと思っているんです。もちろんそこに味付けるスパイスとして我々も頑張っているんで、そこも観てほしいんですけども。そして還暦を過ぎた小日向さんが誰よりも動き回って生き生きしている。この作品はやりようによっては、コメディにもできるし、真面目な硬いお芝居にもできる気がするんですが、白井さんの演出によってかわいらしい、いい感じのバランスのお芝居になっていると思います。

 

撮影:岡千里

野間口徹 Toru Nomaguchi

福岡県出身。99年コントユニット「親族代表」を結成、不定期に公演を行っている。
最近の主な作品は次のとおり。

【舞台】
『透明感のある人間』(2010/ブルースカイ演出)、『CUT』(2010/鈴井貴之演出)、
『NGワードライフ』(2011/鈴木おさむ演出)、『4 four』(2012/白井晃演出)、
『はぐれさらばが〝じゃあね″といった』(2013/福原充則演出)、『テンペスト』(2014/白井晃演出)、
『グッドバイ』(2015/ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出)など。

【映画】
『シン・ゴジラ』(2016/庵野秀明監督)、『疾風ロンド』(2016/吉田照幸監督)、
『海賊とよばれた男』(2016/山崎貴監督)、『キセキーあの日のソビトー』(2017/兼重淳監督)、
『先生!、、、好きになってもいいですか?』(2017/三木孝浩)など。

【テレビ】
『お迎えデス。』(2016/日本テレビ)、『とと姉ちゃん』(2016/NHK)、『夏目漱石の妻』(2016/NHK)、
『スニッファー嗅覚捜査官』(2016/NHK)、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(2017/関西テレビ)、
『犯罪症候群 Season2』(2017/WOWOW)など。

インフォメーション