長野A(アート)ターン#09 わたしの身近な東京〜長野をつなぐArt〜

わたしの身近な東京-長野をつなぐArt
『温遠知近 〜遠く(の人)から近く(の場)を知る〜』



「わたしだから、できたんでしょうね」
そう言いながら、チャーリー坂本氏は地元の方が注いでくれた冷たい麦茶をごくりと飲んだ。
「地元の人より、よそ者のわたしのほうが話が通りやすかったんだと思いますよ」


なるほど。
それはちょっと悔しいなと思いながらも、
わたしは頷いた。


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チャーリー坂本氏。
平日は東京、週末には関東近県を中心に、《スウィング歌謡》のギター弾き語り演奏公演をしている。
このチャーリー坂本氏とわたしが知り合ったのは、もうかれこれ4年ほど前のこと。


新宿でのスウィング歌謡のイベントに行ったとき、チャーリー坂本氏は出演者の1人だった。
不思議な人だなぁと思ったのが最初の印象だったように記憶している。


彼の自作の歌はリストラされた時につくったものなど悲哀感や自虐的なものが目立つのに、
この人の人柄がそうさせるのか、毎回、会場じゅうが沸き、やんやの喝采となる。



そんなチャーリー坂本氏からあるとき、
「美貴さんのご実家のほうにある“伏見屋邸”というところでイベントをやることになりましたが、一緒に出ませんか?」とお誘いをいただいた。


恥ずかしながらそれまで“伏見屋邸”なる場所の存在を全く知らなかったわたしは、急いでウェブを検索。
そしてそれが、中山道の街道筋にある150余年前の旧商家で、今は観光客のお休み処として利用されていることを知った。


あれよあれよという間にそのイベントが現実のものとなり、歌のチャーリー坂本、歌と朗読の仲街よみ、和風手品師izuma、そして、茶席のわたし(mikibar茶席)による、伏見屋邸のイベントが初めて開催されたのは、今から3年前の2015年のことだった。



牛繋ぎの名残ある外壁や、昔ながらの通り土間、広々とした座敷や、階段箪笥、その建物の素晴らしさはもちろんのこと、地元下諏訪町のシルバー人材センターのスタッフさんたちによる、自家製漬物や茶菓のもてなしの温かさ、素晴らしさに驚いた。これぞ宿場町のDNAだろうかと、隣町ながらその気質の違いをつくづく感じた。


この“伏見屋邸”のイベントでは毎回、ご近所から、諏訪近郊から、果ては長野市方面や東京方面から、おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさん、若いご夫妻、お子さん、赤ちゃん、とてもたくさんの方が集まってきてくださる。そして、座布団を譲り合い、冷たいお茶をまわしあって、自然といい空気がうまれている。


そして、この2017年7月末の“伏見屋邸”イベント。チャーリー坂本氏を座長として3回目となるこのイベントには、今回もやはり多くの方がたが「また今年もきたよ」と訪れてくださった。チャーリー坂本氏の歌や自嘲話に盛り上がり、腹話術・いずみさんの歌も交えたお人形けんちゃんとの対話に驚嘆し、そして諏訪にちなんだ民話を臨場感たっぷりに語る朗読家・千葉玲子さんの語りに聴き惚れ、時折、わたしの茶席でホッと一息一服いれてくださる。そんな、あっという間の1時間半が過ぎた。



三々五々お客様がお帰りになり、“伏見屋邸”のスタッフの方とわずかに残ったお客様、そしてわれわれ出演者で座を囲むかたちとなった。ホッと一息つきながら、スタッフの方お手製の浅漬けなどいただきつつ、チャーリー氏とこの場所“伏見屋邸”との出会い(歴史好きなチャーリー氏が諏訪でのライヴ翌日、旧街道をふらふら歩いていたところ“伏見屋邸”を発見。中に入りひとしきりスタッフの方と話をし、個々で何かやらないかというお話になったという)や、そもそもこの“伏見屋邸”が今のように一般に開放され、町行く旅人や来訪者の“御休み処”となり、それをシルバー人材センターの方で運営することになった経緯・町の皆さんのご苦労や協力体制の話などを、ゆっくり伺った。


そうして聞いてみると、わたしの育った岡谷と、この“伏見屋邸”のある下諏訪は隣り合ってはいるものの、≪まちを元気にしよう≫という方法が、だいぶ異なることに気が付く。どちらがいい悪いというのではなく、単純に「それはすばらしい!」「いいことを聴いた!」とその時に感じた。今までは隣り合っているからこそ難しかったであろう【いいところ/ものを共有する】という共栄・共生の考え方が、こんな小さなきっかけから、少しずつ、でもじわじわと広がっていけそうな気もしてきた。


そう、「隣の芝生は青く見える」ものなのだ。「(自分のところより)青く見える」からこそ、意地を張って「まぁ、あそこは日当たりもいいからね、よく育つんじゃないの」と皮肉のひとつも言って終わりのことが、今まであまりに多かったのかもしれない。


そこで変な意地をひっこめ、「かねがね見事だとおもっていたんです。こんなふうに青々とするには、何かいいコツでもあるんですか」と、素直にお隣に聴いてみたらいいのだ。そうすればお隣さんも、悪い気はしない。「あ、実はね・・・」とあっさりそのコツを教えて下さり、さらにその後も「どうです、最近おたくの芝生の具合は?」と芝生談義などで盛り上がるかもしれない。


この秋、10月14日と15日。チャーリー坂本氏は富士見町で歌うらしい。かつて富士見の病院で療養していた竹久夢二にちなんだ企画に寄せてのライヴとのこと。そして、またも諏訪地域。諏訪でも最もわたしがつながりの薄い地域で、彼が先陣を切ることに微かなジェラシー、そして大きな期待。



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