[聞く/entre+voir #016]勝山 耀さん(フリースタイルフットボール)

フリースタイルフットボール 勝山 耀さん

 
 

フリースタイルフットボールを文化にしたいんです。

だから大会に出るときには、つねに

夢を与える可能性があるんだという気持ちを持っています。

 

フリースタイルフットボールという競技がある。日本フリースタイルフットボール協会の定義は「サッカーの基本技術であるリフティングを始めとしたボール扱いの技術を高め、誰もが気軽に始められ、自由な発想で楽しめる新しいスポーツ」と記されている。やっぱりスポーツなんだな。まだ日本では知名度が決してあるとは言えない競技だが、それを牽引する存在として長野県出身の若者がいる。中野市出身の勝山耀だ。彼は今年5月中旬に行われた「ジャパン・フリースタイルフットボール・チャンピオンシップ」で初優勝し、ワールドカップよろしく、この夏はフリースタイルフットボールのゲームで海外を転戦していた。
 

もう一目惚れだったんです。

高校のときにプロになろうと決めました。

 
 

◉まず基本的なことからうかがいます。フリースタイルフットボールを勝山さんの言葉で紹介してください。

勝山 発祥はオランダかブラジルと言われていて、90年代に始まったものらしいです。道でサッカーをやっている子供たちがいるじゃないですか。その中で、リフティングを周りの人に見せるものにする、技で勝負しようという流れから始まったものなんです。リフティングを基礎に、そこから少しずついろんなものが発展して、今はダンスと融合させたような競技になっています。日本に入ってきたのは2002年ごろで、ナイキが初めてその名前を使った雑誌を出したことで少しずつ広まりました。

 

◉それは技の素晴らしさで競うわけですか?

勝山 そうです。バトルといって、試合の形式は1対1で、30秒ずつ3回の持ち時間(ターン)があって、交互に技を披露するんです。全体が3分のパフォーマンスになり、最後にジャッジが判定して勝敗を決めます。だから自分の持ち技は相手を予想をしながら、この段階ではこのくらいの技にして、これは決勝にとっておこうとか駆け引きをするわけです。早い段階で強い相手とぶつかることになったときは、今勝つことを意識して難度の高い技を準備したり。フリースタイルは即興です。音楽もかかっていて、それに合わせたりという要素も重要です。

 

◉ジャッジの判断基準は、フィギュアスケートのように技の点数などで決まるわけですか?

勝山 いえ、3ターンやった後でジャッジがどちらがよかったかという主観で決めます。その中にはミスの数だったり、どれだけ難しい技を決めたり、というちょっとしたカテゴリーはあるんですけど、最終的にはジャッジ一人の判断、印象で決める感じですね。点数は特にありません。実はそこが課題と言われているところでもあります。ジャッジの根拠は?とか考えだすと、曖昧な部分が多くなってしまう。具体的な見方、説明できる判断基準はあったほうがいいと思いますね。

 

 

◉勝山さんはフリースタイルフットボールとはどんな出会いをしたんですか?

勝山 フリースタイルを始めて9年になります。生まれが中野市なんですけど、小学生のときに僕の師匠にあたる人が公民館の駐車場で練習しているのを見かけたんです。師匠が一番上の兄と同級生だったんですよ。そのつながりもあって一緒に練習させてもらうようになりました。師匠は世界のフリースタイラーも知っているくらいすごいんです。当時、「MONTA」というフリースタイルフットボール専門のブランドができて、日本人として初めてサポートしてもらったのが師匠。世界のすごいやつらを集めて、いろんな国でパフォーマンスを行うツアーにも選ばれていて、めちゃくちゃ有名です。そんな師匠を越えたいとがんばって、5月の全国大会で優勝できた。師匠は2008年から全国大会に出て日本で2位になっているので、その成績を越えて恩返ししようと。師匠もライブでネット配信されているのを見てくれていて、「もう泣きそうだったよ」と言ってくれました。すごく喜んでくれたのは僕もうれしかったです。
 
◉話は前後しますが、師匠がやられていたフリースタイルフットボールを見たときにどんなところに衝撃を受けたんでしょう?

勝山 もう一目惚れです。まず見たことのないものへの驚きというか。とても不思議でしたね。それからサッカーは団体競技ですけど、フリースタイルはひたすらひとりで努力して極めていく、そこに魅力を感じたのかもしれません。実際にやってみたら、めちゃくちゃ難しかったですけどね。僕は中学までサッカーとフリースタイルフットボールを両方やっていたんですけど、高校に入ってからフリースタイル一本でやっていこう、プロになろうと思って。そこからちょっとずつ地元でパフォーマンスもするようになりました。僕の場合、途中から長野市に引っ越したこともあって、全部ひとりでやらなければいけなかったんです。監督もコーチもいないし、チームに入っているわけでもない、マネージメントも自分でやらなければいけなかった。ですから高校1年のころから、「イベント募集」みたいな案内を見つけると、自分から連絡をするようになっていきました。

 
◉でも最初はなかなかどういう競技なのか相手に伝わらなかったんじゃないですか?

勝山 そうなんですよ。だからユーチューブに動画をアップして、とにかく見てもらって。最初は売り込み、売り込みでした。ほかの競技だと、選手をやりながら自身のマネージメントをやっている人はほとんどいないと思う。でもその経験はすごく生きていて、今回タイトルをとったときも、誰にも頼らずに新聞社、テレビ・ラジオに売り込んでいきました。大人とのコミュニケーションもそういうところで勉強しています。とにかくアクションしようということでやってきました。

 

 
◉イベントだけでなく、出場する大会も上がっていくわけですよね。初めて専門の大会に出たのはいつですか?

勝山 高2の春だったかな。3年前です。経験のつもりで都内の大会に出てみようと思ったらいきなり優勝したんです。エントリーは自由で、年齢制限もないのでプロの方も普通に出ているんですよ。そこから僕の名前がフリースタイルのシーンの中で少しずつ広がり始めて。そのあと同じ年にアジア大会に出たんですよ。そこでベスト8になって、ちょっとずつちょっとずつ日本での知名度も上がって、去年からようやく世界大会に出られるようになりました。また今年は日本一になったことで世界ツアーに呼ばれるようになって。ちょっとずつちょっとずつという感じですね。

 
◉とんでもない、十分に急です(苦笑)。

勝山 いえいえ、ちょっとずつです。
 
◉世界8位というのは?

勝山 それは去年の夏です。チェコで「スーパーボール」という世界で一番大きい大会があるんです。すごく盛り上がるんですよ。400人〜500人が出場して、1週間くらいかけて予選から決勝までを競う。そこでの成績を踏まえて世界ランキングトップ16に入ると、世界ツアーに招待してもらえるんです。僕は去年8位だったので今年は自動的に入れたんですが、W杯みたいにメンバー固定で、1対1の形式を世界のいろんな国をツアーしながら行っていきます。ちなみに今年は世界ツアーと、チェコのスーパーボールと、7月に中国でやるレッドブルの世界大会に出ました。あとはアジア大会に出る予定です。
 

 

◉「Carabao Freestyle World Cup」という世界大会では準優勝しました。もう素晴らしい!!

勝山 今回の大会は日本人代表として招待されていました。日本チャンピオンになって以降初めての世界大会というのもあり、だいぶプレッシャーを感じていました。1週間のツアーだったのですが、世界最高峰のプレイヤーたちと過ごすことができて本当に幸せな時間でした。バトルではプレイヤーそれぞれ世界一と言えるほどの技術やスタイルを持っている中、準優勝できて自信になりました。それでもまだ果てしないくらい成長の兆しを自分自身で感じることができたので、謙虚に真摯に上への階段を登ろうと思えた大会でしたね。
 

◉でも大学に行く時間がないですね。

勝山 そうなんですよ。このあいだ優勝した日本の大会も世界ランキングに反映される大会なんですよ。そこでけっこうポイントがつくので、アジア大会で優勝できればベスト8以上には絶対なれるんで、また来年も同じようなスケジュールになりますね。学生としては悩んでいます(苦笑)。
 

◉稼げるとなおいいですね。

勝山 そうですね。賞金の代わりにアジア大会へ行くサポートとしてお金が出るとか、そういうスタイルなんです。でも今はマネージメント会社と契約できてフリースタイルだけで稼いでいけるようになってきました。
 

 

さて、Nagano Art+は文化、芸術の情報を発信するサイトなのに、なぜスポーツをと思われる方もいらっしゃるかもしれない。いてくださったらうれしいなあ。でも勝山耀と出会ったときに、音楽に合わせたダンサブルなボールコントロールの美しいパフォーマンスを見たときに、これはアート表現そのものだと思ってしまったのだから仕方がない、だからこそ取材に動いたのだ。照明や音楽をそろえた環境でこれをぜひ見たくなった。長野県内には多くのホールがある、ぜひ手を挙げてください(笑)。
 

長野県内にフリースタイルを広めていきたい。

ぜひ僕らと一緒に練習しましょう。

 

 

 

◉僕は勝山さんのパフォーマンスを見て、これはバトルというより、表現として紹介したいと思ったんですよ。取材、嫌がられるかと思いました(笑)。

勝山 いえいえ、そういうふうに見ていただけるのもうれしいです。フリースタイルにはショーとバトルがあって、僕は両方やっているんです。バトルはサッカーで言えば公式戦に出るような感じ、ショーはお客さんにどれだけ知ってもらうかを目指してやっています。そうすると見せ方も変わるんです。バトルでは見せ方は二の次で難しい技に挑戦していきますが、パフォーマンスでは見せ方にこだわります。フリースタイルがいかにかっこいいかを知ってもらったり、やってみたいなと思ってもらえるように。それとフリースタイルは大きくはストリートというくくりで、ダンスやスノボと同じなんです。根底に流れる文化やファッションの部分は非常に似ている。ストリートは格好良く見えないといけないので、そういう意味でもかなり意識していますね。

 

◉ではダンスの練習もしているんですか?

勝山 フリースタイルはハンド以外は何をやってもいいんですよ。それさえ守ればどんな技をつくってもいい。体操のバク転などを軸につくったスタイルの人もいれば、サッカーのスキルだけでつくったスタイルの人がいて、いろいろです。僕はブレイクダンスとフリースタイルを融合させようと思ってやっています。だからそっちの練習もすごくしています。中学、高校時代と大きく変わったという意味で言えば、アートの面かもしれません。ひとりで黙々とやっていたころは技術面だけを突き詰めていましたけど、ダンスを取り入れたことでお客さんにどう見えるか、音楽にもどう合わせるかを意識するようになりました。
 僕はパフォーマンスをやるときは相方と二人でやっているんですよ。ほかに10人くらいのチームもあって、ボールを10個使ってパフォーマンスしたりということもあります。音楽も自分たちでつくるんです。ボールを操るリズムがあるので、そういうものと合った音をアレンジするんです。DJの友達に手伝ってもらってイベントのときに音をかけてやってもらったり、工夫していますね。これからフリースタイルだけじゃなく、ダンスやBMX、スケートボードとかとストリートセッションみたいなものにも挑戦してみたいですね。

 

◉大学は経営を学ぶために選んだというのもすごいなあと思います。

勝山 僕はいまプレイヤーですけど、将来は、フリースタイルフットボールのブランドを立ち上げたいんです。そのためには経営のノウハウが必要になりますよね。例えばボールをつくる、アイテムをつくる、プレイヤーをマネージメントする。スクール事業やマネージメント事業をやったり、けっこう多岐にわたってストリートスポーツを応援する団体をつくりたいと思っています。フリースタイルフットボールを文化にしたいんです。そのためには、社会に認めてもらうことから始めないといけないんです。

 

◉長野県ではどういう活動を?

勝山 とにかくフリースタイルの輪を広めたいんです。僕、コミュニティをつくったんですよ。「長野フリースタイルフットボールコミュニティ」と言って、下は小学生から大人も40代まで参加してくれています。北信越、富山や新潟の子もいます。まずは一緒に練習する仲間を増やしていく活動をしています。SNSでフリースタイルフットボールやっている子を見つけると、一緒に練習しませんかと僕のほうから声をかけるようにしているんです。長野市まで来てくれれば、ホクト文化ホール前の広場で一緒に練習できるということにしておけば、友達も連れてきてくれるので、そうやって少しずつ広がっていけばなあ、と思っています。そこからイベント開催にもつなげていきたいですね。

 

◉フリースタイルフットボールについて、改めて感じる魅力を最後にお願いします?

勝山 去年アジア大会に出て、僕は準優勝だったんですよ。会場になったフィリピンのダバオという町のでっかいショッピングモールには地元の子供たちがたくさん見に来てくれた。ダバオはとても貧しい町なんですけど、大会が終わった後に、子供たちが僕らに夢をくれた、と言いに来てくれたんです。うれしかったですね。僕が大会に出てフリースタイルフットボールを見せたことで、フリースタイルフットボールの人生はこんなにすごいんだと思ってもらえる、大会に出て活躍するとそういう思いを見てくださる方に与えることができるんだと思ったらとても可能性を感じました。それ以降、大会に出るときはいつもそういう思いでやっています。

 

 

勝山 耀(Yo)
中野市生まれ。産業能率大学在学中。
長野県でのフリースタイルフットボールの普及活動(コミュニティ作り、パフォーマンス、スクールなど)を展開。
全国各地でイベント&メディアに出演。

《2014年》
 D.I.S Freestyle Battle Jam(全国大会) 優勝
 Asian Freestyle Football Championships(アジア大会) ベスト8
《2015年》
 Freestyle Fes (全国大会) 準優勝
 High school No1(高校生日本1決定戦) 優勝
《2016年》 
Superball 2016(世界大会) ベスト8
 Freestyle Fes(全国大会) 優勝
 Asian Freestyle Football Championship(アジア大会) 準優勝
《2017年》
 Carabao Freestyle World Cup(世界大会) 準優勝
 Superball 2017(世界大会)ベスト8まで進んだが怪我で途中棄権

 

インフォメーション