[聞く/entre+voir #015]cobaさん(アコーディオニスト・作曲家)

アコーディオニスト・作曲家 cobaさん

 
 

僕が憧れる武満徹、アストル・ピアソラ、ニーノ・ロータ…

誰もが“私小説”を音楽で表現した。僕自身もそれを続け、

僕のキャラクターが僕の音になる、そんな存在を目指す。

 

1991年にアルバム『シチリアの月の下で』でデビュー、2016年11月に25周年を迎えたアコーディオニスト・作曲家、coba。現在は記念ツアーで全国を行脚中だ。長野市松代の出身で、2016年には長野市芸術館のオープニング・シリーズを飾り、2017年の夏はまつもと市民芸術館のオリジナル作品で作曲・演奏で参加している恒例の『空中キャバレー』に出演する。そして公演に先駆け、7月1日には、「原点回帰」をテーマに2016年末にリリースしたニュー・アルバム『coba?』を引っさげて、まつもと市民芸術館で「coba tour 2017 25周年記念」を開催。そのライブからは、cobaの25年が見えてくる。
 

この不遇な楽器の運命を変えたい

小林少年が決意を抱いた高校時代

 

◉25周年おめでとうございます。cobaさんは「25」という数字にどんな思いがありますか?
 
coba 四半世紀ですね。こんなに長く続けられるとは思っていませんでしたから、よくやってきたなあと。この楽器、アコーディオンの運命を変えたいという非常に強い気持ちから始まったわけですが、まだ道半ば、時間がかかるものだと学ばせていただいています。いつまでに何をなしとげるという目標も必要だと思いますが、いつまでやるのかなんて考えられません。その人のみの人生はある意味では前人未踏のもの。いろいろな運命の中でたまたま歩むたった一回の人生ですから、精一杯やっていくだけです。
 僕はたまたま父親に買え与えられたことで、この因果な楽器アコーディオンと出会った。そしてこの楽器は非常に不遇だった。いつの日かこの楽器の運命を変えたいという思いを子供ながらに抱き、それがグッと強くなったのが高校1年の進路指導でした。理系文系に機械的に分けられることに疑問を持ったわけです。自分がどんな歩みをしていきたいのかと考えたとき、突然それまで10年近く付き合っていたアコーディオンに対する思いが僕を強烈に支配し始め、この道に進むことを決意しました。ところが残念ながら日本には学ぶ機関はなく、唯一の方法が海外留学。その旅こそが時々に僕を鍛え、僕の人生を色濃く彩ることになったわけです。今58歳ですが、申し上げるならばアコーディオンに彩られ、ある意味で躍らされた半生でした。とはいえ25年はいわゆるメジャーデビューからの時間。僕のアコーディオン歴はもっと長いわけで、道半ばでのきりのいい数字という感覚です。

 

◉愚問ですみません、アコーディオンはどのくらいお持ちなんでしょうか?

coba 100台近く所有しています。当然場所を取るわけで、自宅の地下と1階、事務所に保管していますが、地下の倉庫は3段なので一番上のものを下ろすのも大変です。ケースに機種名などのメモを貼ってはいますが、数が多過ぎて区別がつかなくなる。同じメーカーに自分用の発注をしても、出来の良かったもの、そこそこのもの、いまだにクセのあるもの、いろいろあって、レコーディングなどであのときのあの音を出したいと思ってもすぐに見つけられなかったりするんです(笑)。

 

 

◉改めてアコーディオンという楽器を紹介していただけますか。

coba この楽器は自分で抱えてポジションをつくるわけです。ほかにもそういう楽器はありますけど、地面に接着していないで持ち上げる楽器としては、もっとも重いものだと思います。人が持つ、人が支える、そして左手を使って空気を吸ったり吐いたりさせながら楽器に歌をうたわせる。小さいころには大きすぎた楽器が、成人するころには僕にぴったり合ってきて、でもそのうち老い始めたときには重くなっていくんですよね。そういう人間の変化を如実に感じられる楽器です。そういう意味ではすごく人間臭いと言えるかもしれません。もう一つ、冬の寒い日に楽器を抱えることはとっても苦痛なんです。でも最初は石のように冷たいものが、がまんして演奏しているうちにだんだん自分の体温が伝わって楽器自体が熱を持ってくるんです。そんなことを考えるとインカネーション、肉化するという言葉が当てはまる。そういう楽器はなかなかないですよ。
 音に関して言えば、非常に目立つし、リードの音は鼻に付く。しかしクセが強いからこそ心に爪を立てられてしまう。つまりアコーディオンが悲しみを表現するときに、その人の心にふっと悲しい思いを置かれたかのような忘れられない体験としてクセになる。ブルーチーズみたいな楽器です(笑)。

 

ニューアルバム『coba?』の「?」は
cobaとは何者かという自問自答を表す

 

2016.12.21 COCB-54196

01. Great Britain

02. Purpose ballad

03. She loves you

04. スウェーデンの森

05. 華麗なるお伽噺~花市場へのオマージュ~

06. Your eyes~君のまなざし~

07. 昭和キネマラヴ

08. Moon Gigue

09. Wicked Apple

10. Portafoglio

11. 再会

12. Back to the Birth

 

◉昨年発売されたアルバムは『coba?』というタイトルです。「?」に込められた意味を教えてください。

coba 人間は時々振り返る作業をすることがとても大事だと思っているんです。『coba?』は37枚目のアルバム。25周年でもある。そこで何をやろうかなと思ったときに、まだまだやるべきこと、やってみたいことはたくさんあるけれど、それはそれとして僕がこの楽器と出会って感じた喜び、つまり最初はいやで放置しておいたけれどひょんなことから胸に抱いて初めて音を出したときに覚えた感動があった。何か小動物が呻き声をあげたかのような。アコーディオンは体にべったり触れる楽器ですから、弾いた瞬間のバイブレーションがそのまま伝わって来る。その最初に感じた驚きと喜びに立ち返りたいと思ったわけです。
 今回もプロモーションに行くと、出会うラジオのパーソナリティーさん、雑誌のインタビュアーさんはたいがい僕よりも若いんです。もうアコーディオン=のど自慢、横森良造さんといったイメージは全く持っていない。むしろcobaがパイオニア、ベテランだというふうになっている。じゃあその中で自分が何をやったらいいか、それを発見するために自問自答したときに浮かんだテーマが原点回帰をする、でした。cobaとは何者か、そしてどこから出発してどこへ向かうのかにしっかり向き合おうという意味でもあるんです。その自問自答を表す「?」でもあります。そして多くの人は僕のことをアコーディオン弾きだと認識されている。けれども本当にそうでしょうかという、皆さんに対する疑問符でもありますね。

 

◉楽器のイメージだけではなく、音楽性にこそcobaさんの本質があるということですよね? たとえば『coba?』でもカンツォーネ、スパニッシュ、タンゴ、クラシック、唱歌など幅広く、自由な内容でした。

coba 『coba?』も非常に多ジャンルです。僕の中にはまだ誰も聞いたことがない音、音楽を求めたいという思いがあります。そして、この楽器にそれを歌わせたい。と同時に僕のことを誰かに限定されたくないという思いもありますね。デビューしたころアコーディオンのアルバムを出そうなんていうレコード会社はどこにもなかった。それがワールドミュージックの風に乗ってCM業界のプロデューサーの目に留まって東芝EMIが手を挙げてくれた。そして新人にもかかわらず著名な評論家の方にレビューを書いていただけることになった。レコード会社も僕もすごく期待したんですけど、「この若者の技術は確かに世界的なレベルかもしれないが、聴き終わったあとに感じるのはまるでサーカスを見終わったあとのようだ」というものでした。あまりに内容が多彩だったために、その先生には僕が何をやりたいのか理解できなかったんでしょう。しかしながら、改めて『coba?』を聴いたときに、僕自身いろいろなことに挑戦しているという姿が見える。つまり25年間まったく変わっていないんです。今その先生が『coba?』を聴いてくれたなら、また違った感想を持ってくれるのではないでしょうか。
 それから1995〜97年にビョークと一緒にワールドツアーをやりました。そのときに各国のEMIの事務所を訪れて、僕のアルバムを出してくださいとお願いして回ったんです。多くは断られたんですけど、必ず皆さん同じことをおっしゃる。「このCDは音楽的には好きだ、だけどレコード屋のどこに置くんだ?」と。cobaというジャンルを置く場所はないという答えだったんです。自分が把握できないもの、型にはまらないもの、あるいは一見何をやりたいかわからないものは不安になる。まずメディアがジャンル分けをし、新しい言葉をつくり、それをみんなで共有することで安心感を持って伝わるわけです。でも安心感イコール古くなるということですから。だからそういった括り方をされたくないという認識がきっと僕の中に強くあるんでしょうね。それこそ自問自答の中で発見したことの一つです。

 

◉ある意味で、アーティストとしてスタイルを確立する場合もあると思いますが、個人的には謎めいた存在でい続けてくれるほうが気になるのかもしれません。

coba 確立したスタイルをつくることもいいんですよ。そこで僕が思い浮かべるのは武満徹さんですね。彼の音楽を聴いても、文章を読んでも、どこを切り取っても武満さんなんですよ。武満さんの“私小説”を感じるわけです。エスタブリッシュという言い方がふさわしいかもしれませんが、アーティストは熟していくことでそういう姿になっていくんだろうなと。一つのお手本ですよ。僕が尊敬している音楽家は、みんな“私小説家”です。アストル・ピアソラさんもニーノ・ロータさんも。皆さん世界的な音楽家ですけど、最初から世界を目指していたわけではなく、“私小説”を音楽として表現した。そして生まれたのが〈ノヴェンバー・ステップス〉であり、〈リベルタンゴ〉なんです。僕自身もそれを続けるしかないなと思っています。そしてその人のキャラクターが、その人の音になる、そういう存在に憧れます。

 

25周年記念ライブは
自分の歴史を見せることで
今をより深く理解していただける構成

 

 

◉現在ツアーされているライブでは、どんな構成になっていらっしゃいますか?

coba アルバムは原点回帰をテーマに掲げたわけですが、実は蓋を開けてみたら面白い音がいろいろある。EDMサウンドを反映させた「She loves you」など、まだ誰も世界でやっていないようなことにも挑戦しています。EDMという世界中の若者がダンスミュージックとして愛しているジャンル。そういった新しい試みがありつつ、今回のツアーは25周年記念でもある。いろんな街で演奏させていただくと「あの曲が聴きたかったのになかった」という話もよく聞くんです。それもあってライブの前半に大きなメドレーをいくつか用意しています。cobaと言えばこの曲というもの集めているので、長年聴き続けてくださったお客様には涙を流してくださる方もいらっしゃる。次の25年、50周年は80歳を超えてしまうので、やるとしたら今回だなと思い決めました。そして休憩を挟んで後半はニューアルバムからじっくり聴いていただきます。自分の歴史みたいなことをきちんと前半でやらせていただくということが、より深く現在の僕の作品を理解していただくことにもつながると思うんです。

 
◉そして、7月21日から7月30日には『空中キャバレー2017』に出演されます。2年に1ぺん、夏になると頭の中をcobaさんが作曲した「空中キャバレーのテーマ」がぐるぐると流れ始めます(笑)。

coba 音楽もサーカスも芝居もあって楽しい『空中キャバレー』ですが、最大の魅力はそもそも松本に来なければ見られないということだと思います。僕はそこにすごく価値を感じています。まつもと市民芸術館に来なければ起こせないこと、そこに世界中からパフォーマーやお客さんが集まってくる。これは素晴らしいことです。今回何をやるかは芸術監督で演出の串田和美さんとこれから相談ですが、今年も楽しい夏をお届けします。
 

2015年の『空中キャバレー』より

 
 
【公演情報】
coba tour 2017 25周年記念松本公演
▽日時:2017年7月1日(土)開場18:00 開演18:30
▽会場:まつもと市民芸術館 小ホール
▽出演:coba(Acc) 天野清継(Gt)バカボン鈴木(Bs)山内陽一朗(Drs)
▽問合せ:FOB新潟 Tel.025-229-5000 

 
 

coba 
数々の国際コンクールで優勝。以来、ヨーロッパ各国でのCDリリース、
チャート1位獲得など、国境を越え世界の音楽シーンに影響を与え続けている。
20年以上も実施しているヨーロッパツアー、
アイスランド出身の歌姫ビョークのオファーによるワールドツアー参加など、
日本を代表するアーティストとしてその名を世界に知らしめている。
またバンクーバーオリンピックの男子フィギュアスケートにて、
cobaの「eye」でプログラムに臨んだ高橋大輔がメダルを獲得し、
ロンドンオリンピックでは体操の寺本明日香選手が「時の扉」を使用。
今日までプロデュースしてきた映画、舞台、テレビ、CM音楽は500作品を超える。
そのほか作曲家として演奏家やオーケストラへの委嘱作品を数多く手がけている。
http://www.coba-net.com

 
 

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