[師匠!見どころ教えて]長野相生座・ロキシー「邦画ドキュメンタリー特集」

長野相生座・ロキシー

会社創立100周年企画第5弾

「邦画ドキュメンタリー特集」



今回の師匠!   大槻 貴宏さん(ポレポレ東中野支配人

 

インタビュー・撮影:小林千乃

 
 

開館100周年を迎えた映画館「長野相生座・ロキシー」(長野市)で6月17日から邦画ドキュメンタリーの特集上映が始まる。全国で大ヒット中の「人生フルーツ」など13作品が観られる絶好の機会だ。初日は、地元・長野市出身で、東京の「ポレポレ東中野」で支配人を務める大槻貴宏さんを司会に、パネルディスカッションが開かれる。ポレポレ東中野が、地方の映画館に企画協力してこうしたイベントを行うのは初めてという。大槻さんに話を聞いた。

 

 

ドキュメンタリーの敷居を下げてくれた

「人生フルーツ」を軸に、ヒット作でプログラムを決めました!

 
◉今回上映される作品のラインナップは?

大 槻 この2、3年、ポレポレ東中野での上映で、観客が入ってヒットしたもの、評価が高かったものを選びました。ドキュメンタリーの名作上映になると、均等になってしまって面白くない。長年連れ添った夫婦の暮らしから生き方を問い掛ける「人生フルーツ」が各地で大ヒットしています。ドキュメンタリー映画の敷居を低くしてくれた、この作品を柱に企画しました。

 

◉「人生フルーツ」は、最近のドキュメンタリー映画で話題を集める東海テレビドキュメンタリーの第10弾ですね。第8弾の「ヤクザと憲法」(2015年)なども上映されます。

大 槻 「ヤクザと憲法」は、東海テレビドキュメンタリーで、初めて大ヒットした作品です。社会など何かに抵抗しようとしている人の話をこれまで撮ってきて、同じことをやっているんですが、「ヤクザってどういうもの?」という下世話感がマッチしたんだと思います。

 

◉ドキュメンタリー映画がヒットする、しないのボーダーは?

大 槻 作品の善し悪しだけではなくて、見る側の〝空気〟ですよね。全体的に内向きになっているので、すごくいい作品でも、エンタメ以外の洋画は入らない。関心を寄せにくく、他人事になっているから。海外もののドキュメンタリー映画はなおさら観客が少ない。かつ、何かにものすごく抵抗することは、ちょっと敬遠されているかもしれない。 
 「何か」というのは、世の中のマジョリティー(多数)なんです。多数派にいるほうが何事も楽だろうし。楽なことを望むのは、逆説的かもしれないけれど恐怖から来ていると思うんです。だからこそ、多数派に抗うような作品を上映していきたいと思っています。ヒット中の「人生フルーツ」も、ある種、抵抗の話なんです。でも、ストイックではないところが多くの人に受け入れてもらえているのかな。できることは自分でする、できないことを人に頼るという生き方の実践に励まされるのかもしれません。こうした傾向は2013年末に公開された纐纈あや監督の「ある精肉店の話」からかな。そう思います。

 

◉初日のパネルディスカッションは「映画館とテレビ局~ドキュメンタリーの新しい風~」というタイトルですね

大 槻 今、テレビ各局はドキュメンタリーの放送枠が減っているから、放映する機会がありません。でも、毎日、素材になる映像を山ほど撮っているから、たくさんあるんですよね。会社という組織なので継続的に取材対象を追い掛けられるし、その中から面白いと思えるものはどこの県にでもある。今のところ一番うまくいっているのが愛知県の東海テレビと新潟県のテレビ新潟なんでしょうね。
 地方のテレビ局の強みは、継続的に、定点観測で取材できることです。そこが嫌だなという人は多いかもしれないけれど、東京の人たちが行ってお邪魔して取材する、撮るということは、移動費など経費を考えても、人間関係を築くのも難しいんです。そこを強みとして、個人レベルでは撮れない記録がうまれる。そういうことがもっとできたら面白いし、うちも助かる(笑)。

 

◉ドキュメンタリー映画は敷居が高いように感じます。

大 槻 自分の勉強不足が責められているように感じる作品もありますが、今回はそういうものはありません。映画は全ての入り口にすぎない。そう僕は思うんです。そこで興味を持って次にいけばいいし、映画だけで全てが分かるものは世の中にありません。

 

上映13作品の見どころ

 

「人生フルーツ」 
 ポレポレ東中野だけでも観客数は3万人を超えています。取っ付きやすい映画です。ドキュメンタリーというのは攻撃的なものと思いがちなんですが、人間の生き方を上品に教えてくれる気がします。

 

「人生フルーツ」(2017年)©東海テレビ放送

 

「夢は牛のお医者さん」
 ある少女が獣医さんになるという話なんですが、それだけの話なのに無視できない何かがあります。小学生の時に持っていた夢が叶うというのを見る楽しさかな。そういう人が近くにいたんだという勇気を与えてくれます。

 

「夢は牛のお医者さん」(2014年)©TeNY

 

「ふたりの桃源郷」
 見てほしいのは、自給自足や夫婦の愛情もあるんですが、老人ホームに入ったら体が弱ってしまった夫婦が「昼に山に行く」ことを決意し、実践している様子です。老人ホームで、それを言い出せた2人がすごいと思います。

 

「ふたりの桃源郷」(2016年)

 

「劇場版テレクラキヤノンボール2013」
 アダルトビデオの劇場版です。これは何とも言えません。女性蔑視などいろんな意見があると思いますが、「騙された」と思って見てほしいですね。僕は愛の映画だと思っています。

 

「劇場版テレクラキャノンボール2013」(2014年)

 

「ヤクザと憲法」
 ポレポレ東中野だけで1万6千人の人が見ました。一番面白いのは、「ヤクザって怖い」とか「無鉄砲さ」ということを感じてはいても、国家ってもっと怖いんだ、と。みんなが一番恐れているものが、一番下になっちゃう構図のおかしさ。ヤクザを守ろうと言うわけではないけれど、おかしい状況を放置していいのか、見捨てていいのかということを問い掛けています。

 

「ヤクザと憲法」(2015年)©東海テレビ放送

 

「ひめゆり」
 「慰霊の日」(6月23日)の1週間は、ポレポレ東中野で毎年上映している作品です。上映期間にちょうど重なるので、ぜひ見てほしいです。

 

「ひめゆり」(2007年)

 

「クワイ河に虹をかけた男」
 旧日本軍が建設した泰緬鉄道の贖罪と和解に生涯を掛けた男性を20年以上追い掛けた作品です。これはおじいちゃん世代にすごい人気の作品でした。3週間の上映でほぼ満席。泰緬鉄道は「死の鉄道」と呼ばれるほど、ものすごい印象があるみたいで、「知り合いがいた」「親戚がいた」で来てくれました。

 

「クワイ河に虹をかけた男」(2016年)

 

「さとにきたらええやん」
 話題の“子どもの貧困”です。子どもの貧困を誰か個人に任せていいのか。この人みたいな気持ちをみんなで持つことしか救えないんじゃないかと思うんです。「こんなところで育っても、子どもの目はキラキラしている」ということで済ますのではなく、もっと闇を見てほしいと思います。

 

「さとにきたらええやん」(2016年)

 

「天皇と軍隊」
 2009年に制作され、上映は2015年にしました。日本人なら大体見たことがある映像が写っているのですが、監督がフランス在住の日本人で、外国人向けに作られているので、ここを入り口に改めて戦後を考えることが出来た作品です。

 

「天皇と軍隊」(2009年)©英王立戦争博物館

 

「DOGLEGS」
 プロレス特集の上映会をやるために、偶然見つけて、見たら面白かったんです。監督は「愛の映画」と言っています。映画のキャッチコピーは「本気でぶつかってこいよ」「本気でこたえるから」というものでした。人間の本質的なコミュニケーションを扱っています。本気でぶつかるのは、痛いし、疲れる。でも、たまにはこういうことをやらなくちゃと思わせてくれます。

 

障害者プロレスドキュメンタリー映画「DOGLEGS」(2015年)©Alfie Goodrich

 

「大地を受け継ぐ」
 福島の農家さんが話をするだけなんだけど、めちゃくちゃ面白かったんです。どうしてかと考えたら、若い大学生らを呼んで、話をしてもらう場が面白かったんですよ。話し手も「この人たちに分かってもらうんだ」と思って話すので、真剣勝負なんです。その場を考えた人がすごいなと思いました。

 

「大地を受け継ぐ」(2015年)©『大地を受け継ぐ』製作運動体

 

「毎日がアルツハイマー」
 関口祐加監督が自らカメラを回して、自分の母親を撮りました。一緒に住んでいるから移動のお金もかからないし、定点観測もできる。成功例です。「老い」とか「終わり」って生産性ととか色々考えたら難しいし、シンドイんだろうけど、なんか、そこを子育てみたいに笑っていられれば、と思えます。

 

「毎日がアルツハイマー1&2」(2012年、14年)©2012NYGALS FILMS

 

「ホームレス理事長」
 野球部でスポーツ入学した高校生は部活で失敗すると学校にいられなくなるんですよね。そういう子を集めて、NPO法人をつくろうとした理事長が主人公です。最初、「大丈夫か?」って笑うんだけれど、途中で涙が出ちゃって。どこに行ってもお願いする、謝るんです。やりたいことをするために、自分ができることとしてとにかく頭を下げる不器用な姿は本当に笑えません。

 

「ホームレス理事長~退学球児再生計画~」(2013年)©東海テレビ放送

 
 

会社創立100周年企画第5弾「邦画ドキュメンタリー特集」
▽日程:2017年6月17日(土)~7月7日(金)
▽会場:長野ロキシー2
▽上映スケジュール:長野相生座・ロキシー公式サイトをご確認ください
▽料金:前売/1回券1000円、当日券:一般1800円 大学・高校1400円 シニア(60歳以上)1000円 ※その他各種割引有り。但し、各イベントは「ご招待券」利用不可。
 

【関連イベント】

パネルディスカッション
「映画館とテレビ局~ドキュメンタリーの新しい風~」
▽日時:6月17日(土)『人生フルーツ』10:30の回上映後(終了予定13:10)
▽登壇者:阿武野勝彦氏(東海テレビプロデューサー『人生フルーツ』『ヤクザと憲法』)
坂上明和氏(TeNYテレビ新潟プロデューサー『夢は牛のお医者さん』)
▽司会:大槻貴宏氏(ポレポレ東中野)
▽定員:70名(ご入場は先着順となります。)
 
『夢は牛のお医者さん』舞台挨拶
▽日時:6月17日(土)上映13:50~(上映終了後舞台挨拶)
▽登壇者:時田美昭監督
 
『ひめゆり』舞台挨拶
沖縄ひめゆり学徒の生存者22名、13年間にわたり撮り続けた証言を記録した「ひめゆり」。23日の沖縄の「慰霊の日」に合わせ、大兼久由美プロデューサーが舞台あいさつする。
▽日時:6月23日(金)15:30~
▽登壇者:大兼久由美プロデューサー
 
『さとにきたらええやん』舞台挨拶
▽日時:6月24日(土)上映13:30~(上映終了後舞台挨拶)
▽登壇者:重江良樹監督
 
『大地を受け継ぐ』舞台挨拶・トークイベント
▽日時:7月1日(土)10:50~(終了予定13:20)
▽登壇者:井上淳一監督

 
 

 

大槻貴宏 Takahiro Otsuki

1967年、長野県出身。ポレポレ東中野支配人、下北沢トリウッド代表。
主なプロデュース作品に、「劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ」(2011年)、「ある精肉店のはなし」(2013年)、「アラヤシキの住人たち」(2015年)など。

 

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