[聞く/entre+voir #012] 井上 拓磨さん(HanaLab.代表)〜上田市新風録〜②

HanaLab.代表 井上 拓磨さん

 
 

自分たちが住んでいる街が、こういう街だったらいいよね

気が合う同世代の経営者たちとそんな話をしつつ飲むことが始まり

 

なんだか上田市がワクワクする。映画の街としてのイメージが確立され、新たにサントミューゼという公共ホール&美術館という芯ができた。そのことでBOOKS&CAFE「nabo」や劇場ゲストハウス「犀の角」といったユニークな小空間の活動も対をなすように際立っている。そして面白いと思ったのは、30代の若い経営者が静かに文化についてムーブメントを生み出す一翼を担っていること。まずは、長野県初のコワーキングスペースを作り出したHanaLab.の代表、井上拓磨さんに聞いた。

 

何かをやるために、人と人が出会うきっかけをたくさん生み出してきた
 
◉上田の街が変わりつつある印象が外から見ていてあると思うんです。

井 上 やっぱりそういう印象はあるんですね(笑)。
 
◉そのきっかけの一つはHanaLab.さんだろうと。HanaLab.から直接的に文化・芸術というキーワードが浮かぶわけではありませんが、空間と街の関係が文化の形成ともつながっているという仮説を勝手に立ててお話をうかがってみたいと。

井 上 わかりました。
 

◉井上さんはもともと上田の方ではないんですよね。初めて来たころと現在の上田に違いを感じるとしたらどんなところですか?

井 上 大学生として上田に来たんですけど、そのころは地域との関わりはありませんでした。卒業して一度離れてまた戻ってきたんですけど、大学の同期もみんな外に出てしまったので知り合いが誰もいない状態だったんです。知り合いは、嫁さんの家族ぐらいですよ。そんなですから何も知らないくせに「つまらない街だな」と思っていました。もう少し面白い街にならないとつまらないな、と思い始めたのがコワーキングスペースをつくる一つのきっかけでした。確かに今はちょこちょこいろいろなお店やスペースができましたが、街自体の魅力が底上げされるところまでは行っていないと思っています。ただ人がいろいろつながってきてはいますね。

 

 

◉その人のつながりを生み出しているのが、まさにHanaLab.さんだと!

井 上 お互いなんとなく名前は知っていても、あえて会いに行くということは少ないじゃないですか。特に20〜30代の人たちは会社をやっていても上田だけを商圏にしているわけではないのであまりつながることがなかった。そういう意味でHanaLab.では会うきっかけをたくさん提供してきたという自負はあります。HanaLab.で知り合った人同士がなにか行うこともあるんですよ。たとえばhalutaさんとバリューブックスさんの社長同士が出会って「この建物を使わない?」みたいな話から「nabo」が生まれたり。
 

「TOKIDA」「UNNO」「CAMP」

 

◉HanaLab.さんには「TOKIDA」「UNNO」「CAMP」と3つのスペースがありますが、そこに集まる人びとの違いはあるのですか?

井 上 「TOKIDA」は一番最初につくったせいか、コミュニケーションが密というか、利用者同士が近いですね。NPOをやっている人とか、フリーランスになりたての人とか、そういう人が使ってくださっている印象があります。「CAMP」はこれからこんなふうに拡大していくとか目標が明確な人が集っている。「TOKIDA」よりビジネス感が出ているのが「CAMP」ですね。「UNNO」は女性と社会をつなぎ、働く女性を応援する場所。そのターゲットは若いお母さんたちです。
 
◉人をつなげる場になっていることですが、こうやってつないでみた、つながりやすいきっかけをつくってみたなどの事例を教えていただけますか。

井 上 僕らはつながりをつくることが目的じゃなくて、何かをやることが目的です。そこに必要な人を集めたら、それぞれがつながったというわけです。「なんかやりたいね」というときに「この人を巻き込んだら面白い」という結果つながりができている。だから常に何か目的があってつなげている。僕らが「こういうことやりたい」「こういうことやったら面白い」ということのために人を集めるところもあるので、さらにその下にたくさん副産物ができてきたというのが今の状況だと思っています。

 

街づくりも文化振興も、もし一緒にやれることがあればというスタンス
 

◉上田に新しい人・街・文化の交流をというテーマをかかげたLoppis Uedaなどは今の一つの例になるのかなと思うんですけど、その立ち上がりはどんな感じだったんでしょう?

井 上 学生インターン事業をやっていて、その前の年にバリューブックスさんに学生を入れていたんです。で、「今年もバリューブックスさん、やりましょうよ」と相談したら、「1社じゃなくて複数社で受け入れたらどう?」みたいな話になって、価値観の近い若手の経営者をパパパパッと5人くらい集めて「みんなで受け入れましょうよ」って。でも、そこでお互いの事業をやるのはおかしいからイベントでもやろうということで始まったのがLoppisです。インターンのためのイベントづくりがスタートでした。
 
◉それは面白いですね。

井 上 「どうする?」「おしゃれなのがいいよね」「そうするとマルシェとかマーケット」「マルシェやマーケットという言葉はありふれてるし、ちょっとダサい」などと話していて、halutaさんに北欧ではなんていうのか聞いたら「Loppis」だと。じゃあそれで行こうって感じです。
 

 
◉すごくイメージづくりを大切にされているイベントですよね。サントミューゼさんが仕掛けているイベント「マチ×マチ」の会場になったりもしていますけど、文化芸術面に広がる可能性はありますか?

井 上 いえ僕は文化芸術を重要視しているわけではありません。というより産業振興なんですよ、完全に。確かに街づくりにかかわることが多くて、たとえば犀の角さんをサポートしたり、相談に乗ったり、「協力してなんかやっていきましょう」とは思っているんです。それはすべてをHanaLab.が解決することは無理だから。うちは行政も含めてさまざまなネットワークがあるので、街の一つの機能としてできることあればという感じです。だから文化芸術をやる人、犀の角さんもサントミューゼさんもそうですが一緒にやれることがあればやりましょうというスタンスです。文化芸術も街づくりも積極的に事業として推進しようとは思ってないんです。
 

◉結果、そういうところと手をつないで面白い可能性があるならばということですね。

井 上 はい。言ってみれば街の全体を助けようとか何かしようと思っているわけではなく、それが僕にとって面白いかどうか、その人が好きかどうか。僕らが街の活性化を目的にしているわけではありませんが、産業振興の面ではそこまで考えなきゃいけないとは思っています。
 
◉強引に結びつけるようですが(笑)、たとえばバリューブックスさん、halutaさん、サングラフィカさん、そしてHanaLab.も含めたチームが、ある一面では文化面を結果的に支援している、少なくともそういった会社が上田に4つあって動きが起きていることが外から見て面白いと感じるんです。

井 上 年齢が近いこともありますけど、自分たちの好きなことやってるだけです(笑)。だから自分たちが存在している街としてこれは嫌だなということもたくさんあるし、こういう街だったらいいよねという要素もある。それがたまたま重なっただけです。
 

◉そしてLoppisの収益をその次の展開に回していくみたいなことをされていると。


井 上 2016年は本当にわずかですけど黒字になったんですよ。今までが赤字で各社が負担していたから考えなくてよかったんですけど、今年は少しだけ黒字が出たことで「どうする?」みたいな話です。だからと言って各所がグレーな感じになるのは嫌だし、税務対策とかあるじゃないですか。Loppis自体は法人格があるわけではないし、各社がもし引き受けるとしたらと話をしているうちに、「それぞれがLoppisに対してかかわるのがいいだろう」「Loppisがどうなればいいかな」という話から、街がよくなって、いい店ができたら楽しいし、集まりたくなるような店ができるならそこに再投資するのもいいよねって。ただLoppisだけの収益じゃ全然足りない(笑)。そんな話をよく飲みながらしているわけですよ。将来の上田について見ているところは必ずしも一致してないけれど、重なっている部分がたくさんあるんです。
 

若い人がいろいろ取り組める街になってほしい
 

 
◉なるほど。面白いですね。

井 上 たとえば「地域的はこうでなければいけない」と言って無理にプレイヤーを入れ込んでいくと、一致する部分がないまま議論しなければいけないじゃないですか。気があう仲間と好きなことやるみたいな感じだから議論も普通になっていく気はしますね。
 
 
◉そこに無理がないことが大きいと?

井 上 お互い仕事ありますからね(笑)。ゆるーくやってるのがいいかな。その先、実践的なこと、効果的なことをやるのであればお互いにどういう役割を担うかみたいな話にはなるでしょう。みんなが会社を動かしていて、思考も近いので、ゆるいなかでもきちっと物事が進んでいく感はありますけど。考えるだけじゃ意味がないというのは誰もがわかってるので、「じゃあなにをやって、なにをやらないの?」みたいな。そんな議論です、本当に。
 

◉井上さんの好き嫌いの境はどんな感じですか?


井 上 あんまり嫌いはないんですけど……やっぱり少し先の未来を見通していて、こうあったらいいよね、こうなるためになんかやろうよと行動に起こせる人は好きです。小さくてもいいけど行動する、動く人が好きですね。
 
◉最後に今後の展開でもしお話いただけることがあったらお願いします。

井 上 まずは経営基盤の強化ですね。継続していける経営体制をこの1、2年でつくることが目標です。それからこれだけいろいろ幅広く展開するなかで、街にもさまざまな動きが起こり、人が働くことに関してどんどん変わってきそうだなと思うんです。そこにHanaLab.の機能を入れることで、街が少し元気になるというモデルになり得ると思い始めているんです。こういう方法を真似してくれたり、やりたいという地域が日本全体に広まったらいいな!と思っています。
 
◉そういう意味で上田の街は好きになりました?

井 上 いや、まだまだだと思いますよ。だって長野の方がいろいろあるし、松本は個性的な個人店があるじゃないですか。ミクロ的に見れば、前よりは確かによくなっているし、僕もいろんな知り合いも増えたし、楽しくはなってきていますけど、マクロ的に冷静になって見るとまだまだ足りないとは思いますね。けれど長野や松本のような街づくり目指しても無理なので、上田らしいやり方を考えないといけないと思っていますよ。ただそれがなんなのかはまだ答えが出せてないんです。もしかしたら無理に答えを出すものでもないとかもしれません。何年後かに「上田っぽい」と言われるようになっていればいいのかもしれないです。街そのものがもっと若い人がいろいろ取り組めて、ダメになりそうなときにみんなで支えられるような感じになればいいなと思います。

 

 

井上 拓磨 TAKUMA INOUE

愛知県名古屋市生まれ。信州大学大学院卒業後、大日本印刷株式会社入社。
退社後、上田市に移住しモバイルコンテンツの企画・制作のフリーランスとして地域で働くことの課題を感じ、
2012年に長野県初のコワーキングスペースHanaLab.をオープン。
地方の働き方の変革をテーマとして活動している。
県内外のイベントにおいて、コワーキングスペースや働き方、
街づくりについて講話やファシリテーション、コーディネートを展開。
創業支援を通じて、地域でチャレンジできる環境づくりに取り組み、2016年に地域活性化伝道師に就任。

 

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