愛書総覧 ちひろの本棚

いわさきちひろは、どんな本を読んだ?


愛読書には、その人の生き方や思想が映し出されます。いわさきちひろは、どのような本を読み、
絵を描くときの参考にしたのでしょうか?
本展では、作品とともに、アトリエの書籍や資料を展示し、ちひろの創作の源泉をさぐります。



20代の若い時代に戦争を体験したちひろは、日本が戦争へと進むなか宮沢賢治の童話や詩に出会い、
その作品世界と思想に心惹かれました。
終戦直後に書いた26歳のときの日記には、賢治の名前や詩の一節などがたびたび登場し、
後に、この時期の賢治への心境を「命のように大切だった」と語っています。
当時読んでいた本は残っていませんが、
戦前に出版された『宮沢賢治名作選』(1935年刊)である可能性が高いと考えられます。
本の冒頭に記された「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という賢治のことばは、
「世界中のこどもみんなに平和としあわせを」と願い続けたちひろの生き方にも重なります。
人生を模索する若き日を支えた賢治への思いは、20年以上の時を経て、『花の童話集』として結実しました。
自然と対話する賢治のまなざしに自らのまなざしを重ねながら、
草花や木などを題材にした6編の童話を描き出しています。


日本で相次いで童話集や児童文学全集が出版された1950年代から1960年代にかけて、
ちひろも「小公女」や「アルプスの少女」など、世界の童話を数多く手がけました。
本棚には60冊を超える童話集が並んでいます。
そのなかでも、「百年もの年代の差をこえて、わたしの心に、かわらないうつくしさをなげかけてくれる」と語り、
最も愛したのが、アンデルセンの童話でした。
蔵書のなかには、「絵のない絵本」の文庫本が数冊残されています。
貧しい絵描きの青年に、月が夜毎、世界中で見たことを語る物語を、童話集や紙芝居に描いています。
1966年には、人生の哀歓を美しく紡いだこの物語を、自らの強い希望で絵本化しました。
鉛筆と墨のモノトーンで情感豊かに描き出したこの絵本は、
若い世代を対象とした「若い人の絵本」シリーズの第一弾となり、以後ちひろは、
娘時代からの愛読書の『たけくらべ』(樋口一葉著)や『万葉集』の絵本化へと意欲的に取り組んで行きます。



晩年、ちひろは、世阿弥の能芸論書『風姿花伝』を愛読するなど、日本の芸術思想に深い関心を寄せていました。
「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」の一節を、優れた技術を持った役者の抑えた表現にこそ、
深い情趣が現われると捉え、説明的な要素を排して、見る人の想像力を喚起する表現を追求していきます。
「緑の風のなかで」は、亡くなる前年の1973年に制作されました。風景や表情は描かれていませんが、
淡い水彩で表現された風や少女の手の仕草は、日差しの暖かさや風の音、少女の心情までをも感じさせます。
日本の伝統的な芸術観は、後期の表現を支える根幹となっていたことがわかります。



【関連イベント】


「安曇野スタイル2016 本のともだち」
 ミュージアムショップに「本のともだち」コーナーを設けます。クラフト作家によるブックカバーやしおり、文庫本サイズのバッグなど、
本とともに楽しめるクラフト作品が並びます。
日程◉11/3(木・祝)~11/6(日)


「ギャラリートーク」
 展示室で作品を見ながら、担当学芸員が展示のみどころなどをお話しします。
日程◉10/8(土)・10/22(土)・11/12(土)・11/26(土)
時間◉14:00~14:30
申込◉参加自由(事前申込不要)
料金◉無料(入館料別)



インフォメーション

日程2016年10月1日(土)~11月30日(水)
会場安曇野ちひろ美術館 展示室1・2
時間9:00~17:00/第2・4水曜日休館(祝休日は開館、翌平日休館)
チケット料金大人800円/高校生以下無料/学生証をお持ちの方・65歳以上は700円/ 障害者手帳ご提示の方は400円、介添の方は1名まで無料/視覚障害のある方は無料 ※団体割引あり
詳細ホームページhttp://www.chihiro.jp/azumino/
お問い合わせ先安曇野ちひろ美術館 Tel.0261-62-0772