[ようこそ、信州へ #004]柴幸男さん(劇作家・演出家)

[聞く/entre+voir #07]柴幸男さん(劇作家・演出家)


この街とネオンホールの人たちが
へんだったからぜひやりたいと思ったんです。


演劇界でもっとも注目の劇作・演出家である「ままごと」主宰、柴幸男さん。いま、長野市にあるネオンホールで、1カ月滞在し、作り上げている。「四色定理のセブンス・コード」は、長野市で書き下ろす新作『ぼうずまるぼうず』を含めた短編集。キャストはオーディションで選抜した地元の俳優を中心としたメンバーだ。演劇界的に見れば、これは大大大…事件! 気になる稽古場を訪ね、柴さんに話を聞いた。


長野の俳優さんは真面目でおとなしいけど、コツコツとやる


◇ 長野に滞在して、いかがですか?

 楽しいですね。1年半くらい前に松本でワークショップをしたときに、ネオンホールの方々が一緒に何かやりたいんですけどって来てくださったんです。もともと(柴さんも所属する)青年団演出部の西村和宏さんが演出してネオンホールさんとお芝居をやられていたのを知っていたので、次の日に長野に出かけたんですけど、町の印象とか、ネオンホールの印象とかへんで面白くて、善光寺の存在とかもあって住んでみたいと思ったんですよ。地元の役者さんにこの近辺を案内してもらったり、このサイトでインタビューもされている角居さんのアトリエでお鍋を食べさせていただいたり。松本は何回もうかがっていて都会という印象でしたが、ネオンホール界隈のコンパクトな感じが面白いですね。

◇ 柴さんの公演への出演者オーディションを「NaganoArt+」のfacebookで告知させていただいたら、1週間で6000件余りの「いいね」がありまして、驚きました。

 そんなにありましたか?(苦笑)。東京からわざわざ受けに来てくれた方もいらっしゃいましたね。この辺りは宿坊があったり、安く泊まれる宿がたくさんあるし、東京からのアクセスもいいので週末だけ通いで稽古に来る役者さんもいます。短編集なので稽古日程がうまく組めたので、その方たちは日中ガッとやって、地元の方々は仕事があるので夜にして、という感じです。

◇ どういう視点で役者さんは選ばれたのですか?

  以前に上演した短編集をやろうということは当初から念頭にあって。『あゆみ』『反復かつ連続公開』『つくりばなし』『ハイパーリンくん』のどれをやれそう、やったら面白そうだなという方々を探しました。あとは演技を見たり、「どうして長野で演劇をやっているのか、どうして今演劇をやっているのか、趣味なのか仕事やりながらなのか」などを話して選びました。僕的にはネオンのスタッフさんがそのまま長野の方の印象なんですが(笑)、そういう意味で長野っぽい、あまりグイグイくるというよりは少し落ち着いた方が多いかなあ。真面目でおとなしいけど、コツコツとやる、そんないい感じです。



ネオンホールだからこそ
ライブを楽しむ感じで短編集を見てほしい


◇ 柴さんの作品ですから、台本を開いただけでは、音楽性、身体性、世界観がなかなか伝わらないと思うんです。そのへんの共通認識はどう共有されたんですか?

 あんまり今説明してないかもしれないですね。なんとなくイメージをお話しした程度。昔はそれこそキッチリカッチリやって見え方の美しさとか意識していたんですけど、最近は人の魅力を引き出すほうに興味があるので、あんまり僕の演出をどうこうということはないんです。むしろ皆さんがどんな人たちなのか知るために、こっちがカードを出してリアクションを見て、ちょっとずつちょっとずつという感じです。
 今回は、ネオンホールさんでの公演ということもあるので、全体的に音楽的に見えたらいいなあ。短編が5本あるので、1曲やってMCがあってまた1曲というライブみたいな感じでお芝居を楽しむノリにできたらいいなあと思っています。僕の芝居の感じ? とりたててそんなに大したことは起こりません(笑)。会話劇もあるし、ダンスが入ったものもあるし、ラップのように進める芝居もあります。ぐちゃぐちゃです。
◇ 音楽性、身体性を駆使して、ラップのように語られたり、シーンの反復だったりというスタイルは柴さんの代名詞になっています。でも最初はシチュエーションコメディをやっていたんですよね? 今の作風になる橋渡し的なものってなんだったんですか?
 むしろ橋を壊したから、シチュエーションコメディへの未練を断ち切ったからこそ生まれたものだと思います。ただ、今の僕はまたシチュエーションコメディに戻りつつあるんですけど(笑)。『わが星』をピークとするいろんな作品たちは、僕がもともと興味を持っていたパズル的な面白さ、脳にスイッチが入る感じ、デザイン的な美しさ、そういうところに振り切ったから、笑わせるとか会話で見せるとかに目を向けずに作れたんです。だから新作は、そこを経た上で会話だけで見せる作品はできないものかと考え始めているので普通の会話劇になると思います。

『あゆみ』撮影:大沢夏海

『あゆみ』撮影:大沢夏海

『ハイパーリンくん』撮影:大沢夏海

『ハイパーリンくん』撮影:大沢夏海


◇ 柴さんの作品ですから、台本を開いただけでは、音楽性、身体性、世界観がなかなか伝わらないと思うんです。そのへんの共通認識はどう共有されたんですか?

 あんまり今説明してないかもしれないですね。なんとなくイメージをお話しした程度。昔はそれこそキッチリカッチリやって見え方の美しさとか意識していたんですけど、最近は人の魅力を引き出すほうに興味があるので、あんまり僕の演出をどうこうということはないんです。むしろ皆さんがどんな人たちなのか知るために、こっちがカードを出してリアクションを見て、ちょっとずつちょっとずつという感じです。
 今回は、ネオンホールさんでの公演ということもあるので、全体的に音楽的に見えたらいいなあ。短編が5本あるので、1曲やってMCがあってまた1曲というライブみたいな感じでお芝居を楽しむノリにできたらいいなあと思っています。僕の芝居の感じ? とりたててそんなに大したことは起こりません(笑)。会話劇もあるし、ダンスが入ったものもあるし、ラップのように進める芝居もあります。ぐちゃぐちゃです。
◇ 音楽性、身体性を駆使して、ラップのように語られたり、シーンの反復だったりというスタイルは柴さんの代名詞になっています。でも最初はシチュエーションコメディをやっていたんですよね? 今の作風になる橋渡し的なものってなんだったんですか?
 むしろ橋を壊したから、シチュエーションコメディへの未練を断ち切ったからこそ生まれたものだと思います。ただ、今の僕はまたシチュエーションコメディに戻りつつあるんですけど(笑)。『わが星』をピークとするいろんな作品たちは、僕がもともと興味を持っていたパズル的な面白さ、脳にスイッチが入る感じ、デザイン的な美しさ、そういうところに振り切ったから、笑わせるとか会話で見せるとかに目を向けずに作れたんです。だから新作は、そこを経た上で会話だけで見せる作品はできないものかと考え始めているので普通の会話劇になると思います。



新作は僕の仏教観いっぱい
いずれ長編として上演できたら


◇ 長野で新作を書くなんてまたすごい! それはどんな作品になりそうですか?

 最近、原始仏教に興味があって、ここは善光寺のお膝元の門前町ですし、仏教を題材にしています。今、作っている途中なんですけど、なりそうです。僕の仏教観がすごく出ているんじゃないかな(笑)。同じ戯曲で男性バージョン、女性バージョンを上演しようと思っています。使うかどうかはわからないんですけど、般若心経のラップがあって、まずそれを皆さんに歌えるようになってもらってから劇の練習をしている感じです。これもいずれ長編にできたらなあと思っています。

◇ 善光寺にはやはり影響を受けましたか?

 いや、いいですよ。僕は今、浅草に住んでいますが、寺を中心に街があるのはいいなあって思いますね。常に人を呼び寄せる存在が中心にドンとあって、千何百年という歴史があって、きちんと残していけばこの先もずっと人を呼び寄せる力があるもの、その周りに商店や劇場がある街の作り方がいいなあって。歴史がある街は面白いです。やっぱり今の感覚で政治のことも自分の作品のことも考えますけど、1000年先のことも考えながら演劇を作れたらいいのになあ。ここ10年、20年のことを追っても1000年あるものには敵わない。



劇場の中でしか情報を得られない
東京の演劇シーンは……


◇ ところで「ままごと」であったり、柴さんの演劇活動が、ここ数年瀬戸内でお芝居を作ったことでずいぶん変わってきたということを伺いました。

 だいぶ変わりました。東京でやっていたときは、カッチリキッチリした作品を劇場で見せる、それ以外の発想がなかった。でも小豆島に行ったら、どういった形でも演劇は作れるし、やれるし、続けられると思ったんです。改めてどういう演劇でどういう活動をしていくかを僕は前から考えていたんですけど、それが劇団員たちに伝わって劇団の色が変わったのが面白いですね。自立するという気持ちが高まった気がします。島にいると俳優は俳優、劇作家は劇作家で、劇作家が書いた言葉しか俳優は言えませんという関係はすごく不便。一人ですべて作れる大工さん、デザイナーさんに全然敵わないし、効率が悪すぎる。劇作家が人前で演じたっていいし、俳優が自分の言葉を考えてもいいし、もっと個人個人で演劇は作れるんだという感覚がみんなに備わった気がします。劇団だと発案者が主宰しかいないところがありますが、誰でも発案者になれる。「ままごと」では確かに僕が発案者なのかもしれないけど、そうじゃない時間は誰でもいいはずで、それを自分で外部やっても「ままごと」でやってもいいはず。それにみんなが気づいたんです。僕も「ままごと」以外で、そういう考え方ができる演出家や俳優、制作の人を増やしたいという思いがあります。

◇ 東京と地域の可能性についてどう思いますか?

 小豆島で3年間やって、ようやく何をやっているのか伝わったと思うんですけど、実際に見に来てもらわないことには始まらない。そうやって外へ外へ向けて活動してきたものを、東京でやらないと演劇界には伝わらないんですよね。だから結局、劇場の中でしか情報を得られない、それをする必要はどうなんでしょうね。ただ演劇界に身を置きたいと思うならやっぱりどこかの劇場でやらなければいけない。『わが星』とか東京での貯金によって地方でやれていると思っていますから、東京での貯金も必要なのかなとは思いますけど。ただ東京にいると仕事モードになってしまうので忙しくて演劇も観られないんですけど、地方では見たくなりますね。どんな人たちがどんな芝居をしているのか。
 僕、短編集を違う役者でやってみるというのが今回初めてなんです。おそらく今後『わが星』をやるんだったらキャストは変えていかなければならないので、これからどういうふうに作品と俳優が関わっていくか、なんとなくプロと一般の方が混じっている中で『反復』とか『あゆみ』とかどうなるのかなあということにとても興味がありますね。

ピアノを弾く柴さん 撮影:大沢夏海

ピアノを弾く柴さん 撮影:大沢夏海


柴 幸男(しば ゆきお)
1982年生まれ、愛知県出身。
「青年団」演出部所属、「急な坂スタジオ」レジデント・アーティスト。四国学院大学、名古屋外国語大学非常勤講師。
日本大学藝術学部在学中に『ドドミノ』で第2回仙台劇のまち戯曲賞を受賞。2010年に『わが星」で第54回岸田國士戯曲賞を受賞。
一人芝居をループさせて大家族を演じる『反復かつ連続』、全編歩き続ける芝居『あゆみ』、
ラップによるミュージカル『わが星』、朝の一瞬を切り取った一人芝居『朝がある』など、新たな視点から普遍的な世界を描く。
近年は、レパートリー作品の全国ツアーや地方公共ホールとの共同創作、
劇団うりんこ(名古屋)での新作児童劇の創作や「あいちトリンナーレ」への参加など、東京以外の場所での活動も多い。
その一例として、2013年は「瀬戸内国際芸術祭」に参加し、小豆島(香川県)で滞在制作を敢行。
島民や観光客を巻き込み、“その時、その場所で、その人たちとしかできない演劇”を生み出した。
また、アートスペースを併設した休憩所である「象の鼻テラス」(横浜)では、
パブリックスペースという特徴を生かし、流れる人と時間をそのまま劇中に取り込んだ作品づくりを行っている。

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